text:yomeiuji:uji078_2
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text:yomeiuji:uji078_2 [2014/04/10 01:35] – 作成 Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji078_2 [2018/05/10 00:33] (現在) – Satoshi Nakagawa | ||
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+ | 宇治拾遺物語 | ||
====== 第78話の2(巻5・第9話)一乗寺の僧正の事 ====== | ====== 第78話の2(巻5・第9話)一乗寺の僧正の事 ====== | ||
**一乗子僧正事** | **一乗子僧正事** | ||
- | **一乗寺の僧正の事**((第78話の「御室戸の僧正の事」と「一乗寺の僧正の事」は、書き出しから両方で一話であると考えられるが、目録で二話として扱っているためファイルを分ける。)) | + | **一乗寺の僧正の事**((第78話の「御室戸の僧正の事」と「一乗寺の僧正の事」は、書き出しから、両方で一話であると考えられるが、目録で二話として扱っているため分ける。)) |
- | 一乗寺僧正は、大峰は二度とほられたり。蛇をみらる。又、竜の駒などをみなどして、あられぬありさまをして、おこなひたる人也。 | + | ===== 校訂本文 ===== |
- | その坊は一二町ばかり、よりひしめきて、田楽、猿楽などひしめき、随身、衛府のおのこどもなど、出入ひしめく。物うり共入きて、鞍、太刀、さまざまの物を売を、かれがいふままにあたいをたびたれば、市をなしてぞつどひける。さて、此僧正のもとに、世の宝はつどひあつまりたりけり。 | + | 一乗寺僧正((増誉))は、大峰は二度通られたり。蛇を見らる。また、竜の駒などを見などして、あられぬありさまをして、行ひたる人なり。 |
- | それに呪師小院といふ童を愛せられたり。鳥羽の田植にみつきしたりける。さきざきは、くびに乗つつみつきをしけるを、この田うへに、僧正いひあはせて、この比するやうに、肩にたちたちして、こばはより出たりければ、大かたみる物も、おどろきおどろきしあひたりけり。 | + | その坊は一二町ばかり、よりひしめきて、田楽・猿楽などひしめき、随身、衛府の男(をのこ)どもなど、出で入りひしめく。物売りども入り来て、鞍・太刀・さまざまの物を売るを、かれが言ふままに値(あたひ)を賜びたれば、市をなしてぞ集(つど)ひける。さて、この僧正のもとに、世の宝は集ひ集まりたりけり。 |
- | この童、あまりにてうあひして、「よしなし、法師になりて、夜るひるはなれずつきてあれ」とありけるを、童「いかが候べからん。いましばしかくて候はばや」といひけるを、僧正、なをいとおしさに、「ただ、なれ」とありければ、童、しぶしぶに法師に成てけり。 | + | それに、呪師小院といふ童を愛せられたり。鳥羽の田植にみつぎしたりける。さきざきは、首に乗りつつ、みつきをしけるを、この田植ゑに、僧正言ひ合はせて、このごろするやうに、肩に立ち立ちして、こばはより出でたりければ、おほかた見る者も、驚き驚きしあひたりけり。 |
- | さて、過るほどに、春雨うちそそぎて、つれづれなりけるに、僧正、人をよびて、「あの僧の装束はあるか」ととはれければ、「おさめ殿にいまだ候」と申ければ、「取てこ」といはれけり。 | + | この童、あまりに寵愛して、「よしなし。法師になりて、夜昼(よるひる)離れず、付きてあれ」とありけるを、童「いかが候ふべからん。今しばし、かくて候はばや」と言ひけるを、僧正、なほいとほしさに、「ただなれ」とありければ、童、しぶしぶに法師になりてけり。 |
- | もてきたりけるを「これをきよ」といはれければ、この呪師小院「みぐるしう候なん」といなみけるを、「ただきよ」とせめの給ければ、かたがたへ行て、さうぞきて、かぶとして、いできたりけり。つゆむかしにかはらず。僧正、うちみて、かいをつくられけり。 | + | さて、過ぐるほどに、春雨うちそそぎて、つれづれなりけるに、僧正、人を呼びて、「あの僧の装束はあるか」と問はれければ、「納め殿にいまだ候ふ」と申しければ、「取りて来(こ)」と言はれけり。 |
- | 小院、又、おもがはりしてたてりけるに、僧正「いまだ、はしりてはおぼゆや」とありければ、「おぼえさぶらはず。ただし、かたささはのてこそ、よくしつけて候し事なれば、すこしおぼえ候」といひて、せうのなかわりてとほるほどをはしりてとぶ。かぶともちて一拍子にわたりたりけるに、僧正、こゑをはなちてなかれけり。 | + | 持(も)て来たりけるを、「これを着よ」と言はれければ、この呪師小院、「見苦しう候ひなん」と否(いな)みけるを、「ただ着よ」と責めのたまひければ、かたがたへ行きて、装束(さうぞ)きて、兜(かぶと)して、出で来たりけり。つゆ昔に変らず。僧正、うちみて、貝をつくられけり。 |
- | さて、「こちこよ」とよびよせて、うちなでつつ「なにしに出家せさせけん」とてなかれければ、小院も「さればこそ、『いましばし』と申候し物を」といひて、装束ぬがせて、障子のうちへぐしていられにけり。 | + | 小院、また、面変(おもがは)りして立てりけるに、僧正「いまだ走り手は覚ゆや」とありければ、「覚え候(さぶ)らはず。ただし、かたささはの手こそ、よくしつけて候ひしことなれば、少し覚え候ふ」といひて、せうの中割りて通るほどを、走りて飛ぶ。兜持ちて、一拍子に渡りたりけるに、僧正、声を放ちて、泣かれけり。 |
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+ | さて、「こち来よ」と呼び寄せて、うちなでつつ、「何しに出家せさせけん」とて、泣かれければ、小院も「さればこそ、『いましばし』と申し候ひしものを」と言ひて、装束脱がせて、障子の内へ具して入られにけり。 | ||
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+ | その後は、いかなることかありけん。知らず。 | ||
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+ | ===== 翻刻 ===== | ||
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+ | 一乗寺僧正は大峰は二度とほられたり蛇をみらる又竜 | ||
+ | の駒なとをみなとしてあられぬありさまをしておこなひ | ||
+ | たる人也その坊は一二町はかりよりひしめきて田楽猿楽なと | ||
+ | ひしめき随身衛府のおのこともなと出入ひしめく物うり共入きて | ||
+ | 鞍太刀さまさまの物を売をかれかいふままにあたいをたひたれは | ||
+ | 市をなしてそつとひけるさて此僧正のもとに世の宝はつとひ | ||
+ | あつまりたりけりそれに呪師小院といふ童を愛せられたり | ||
+ | 鳥羽の田植にみつきしたりけるさきさきはくひに乗つつみつきを/82ウy168 | ||
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+ | しけるをこの田うへに僧正いひあはせてこの比するやうに肩に | ||
+ | たちたちしてこははより出たりけれは大かたみる物もおとろきおとろきし | ||
+ | あひたりけりこの童あまりにてうあひしてよしなし法師になり | ||
+ | て夜るひるはなれすつきてあれとありけるを童いかか候へからん | ||
+ | いましはしかくて候ははやといひけるを僧正なをいとおしさに | ||
+ | たたなれとありけれは童しふしふに法師に成てけりさて過る | ||
+ | ほとに春雨うちそそきてつれつれなりけるに僧正人をよひてあの | ||
+ | 僧の装束はあるかととはれけれはおさめ殿にいまた候と申けれは | ||
+ | 取てこといはれけりもてきたりけるをこれをきよといはれけれ | ||
+ | はこの呪師小院みくるしう候なんといなみけるをたたきよと | ||
+ | せめの給けれはかたかたへ行てさうそきてかふとしていてきたりけり | ||
+ | つゆむかしにかはらす僧正うちみてかいをつくられけり小院又おも | ||
+ | かはりしてたてりけるに僧正いまたはしりてはおほゆやとあり/83オy169 | ||
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+ | | ||
+ | て候し事なれはすこしおほえ候といひてせうのなかわりて | ||
+ | とほるほとをはしりてとふかふともちて一拍子にわたりたり | ||
+ | けるに僧正こゑをはなちてなかれけりさてこちこよとよひ | ||
+ | よせてうちなてつつなにしに出家せさせけんとてなかれけれは | ||
+ | 小院もされはこそいましはしと申候し物をといひて装束ぬ | ||
+ | かせて障子のうちへくしていられにけりそののちはいかなる事か | ||
+ | ありけんしらす/83ウy170 | ||
- | そののちは、いかなる事かありけん。しらず。 |
text/yomeiuji/uji078_2.txt · 最終更新: 2018/05/10 00:33 by Satoshi Nakagawa