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text:yomeiuji:uji078_1 [2014/04/10 01:23] – 作成 Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji078_1 [2018/05/09 23:58] (現在) Satoshi Nakagawa
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 +宇治拾遺物語
 ====== 第78話の1(巻5・第9話)御室戸の僧正の事 ====== ====== 第78話の1(巻5・第9話)御室戸の僧正の事 ======
  
 **御室戸僧正事** **御室戸僧正事**
-**御室戸の僧正の事** 
  
-これも今はむかし、一乗寺僧正、御室戸僧正、三井門流に、やんごとなき人おはしけり。御室戸僧正は、隆家帥第四の子也。一乗寺僧正は、経輔大納言の第五の子也。御室戸をば隆明といふ。乗寺をば増誉いふ。此人、おのおのたうき仏なり+**御室戸僧正の事((第78話の「御室戸僧正の事」と「一乗寺僧正の事」は、書き出しから両方で話である考えられるが、目録でして扱っているため分ける))**
  
-御室戸はふとりて、修行するに及ばず。ひとへに尊の御まへをはなれずして、夜昼おこなふ鈴の音、絶時なかりけり。をのづから、人の行むかひたれば、門をば常にさしたる。門をたたく時、たまたま人の出きて「たれぞ」ととふ。「しかじかの人のまいらせ給たり」、もしは「院の御つかひにさぶらふ」などいへば、「申さぶらはむ」とて、おくへ入て、むごにあるほど鈴のをとしきり也。+===== 校訂文 =====
  
-さてとばかりありて関木をて、扉かたつかたを人ひとり入程あり。みいるれば、庭に草しげくしてみちふみあけたる跡も分て入てのぼりたれ、広庇間有妻戸にあかり障子たたるすすけとほたる事、いつの世にはりたりともみえず+これも今は昔一乗寺僧正、御室戸僧正三井((三井寺・園城寺))門流に、やんごとなき人おはしけり。御室戸僧正は隆家帥((藤原隆家))の第四の子なり。一乗寺僧正は、経輔大納言((藤原経輔))の第五の子御室戸をば隆明といふ。乗寺をば増誉といふこの二人、おのおの貴くて、生き仏なり。
  
-しばし斗ありて、墨染きた僧、足をともせで出きて、「ししそれにおはしませおこなの程に候」ば、待居たる程、とばかりありて、「内よりそれへいらせ給へ」とあれば、すすけたる障子を引あけたるに、香り出たり。なへとほりた衣に、袈裟ども所々やぶれたる、物もいはでゐられたれば、此人も「いに」と思てむかひゐたるほどに、こまぬきて、すこしうつふしたるやうにて、ゐられたり。+御室戸は太りて、修行すに及。ひとへに本尊の御前を離れずして、夜昼行ふ鈴ゆるなかりけり。
  
-しばしあるに「おなひの、よくなり候ぬ。さらば、とく帰らせ給へ」とあれば、ふべきはででぬれば、、門やがてさしつ。+おのづから、人の行き向ひたれば、門をば常にさたる。門を叩く時、たまたま人の出で来て、「誰(たれ)ぞ」と問ふ。「しかじかの人の参らせ給ひたり」、もしは「院の御使ひに候(さぶら)ふ」など言へ、「申候(さぶら)はむ」とて、奥へ入りて、無期(むご)にあるほど、鈴の音しきりなり。 
 + 
 +さて、とばかりありて、門の関木を外して、扉片つかたを、人一人入るほど開けたり。見入るれば、庭は草しげくして、道踏みあけたる跡もなし。露を分けて、入りて上(のぼ)りたれば、広庇一間あり。妻戸に明り障子立てたる、すすけとほりたる事、いつの世に張りたりとも見えず。 
 + 
 +しばしばかりありて、墨染着たる僧、足音もせで出できて、しばし、それにはしませ。行ひのほどに候ふ」と言へば、待ち居たるほどに、とばかりありて、内より、「それへ入らせ給へ」とあれば、すすけたる障子を引き開けたるに、香の煙、くゆり出でたり。えとほりたる衣に、袈裟なども所々破れたる、ものも言はで居られたれば、この人も、「いかに」と思ひて、向ひ居たるほどに、こまぬきて、少しうつぶしたるやうにて居られたり。 
 + 
 +しばしあるほどに、「行ひのほど、よくなり候ぬ。さらば、とく帰らせ給へ」とあれば、ふべきことはで、出でぬれば、また、門やがてさしつ。 
 + 
 +これはひとへに、居行ひの人なり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  これも今はむかし一乗寺僧正御室戸僧正三井の門流 
 +  にやんことなき人おはしけり御室戸僧正は隆家帥の第四の 
 +  子也一乗寺僧正は経輔大納言の第五の子也御室戸をは隆明 
 +  といふ一乗寺をは増誉といふ此二人おのおのたうとくていき 
 +  仏なり御室戸はふとりて修行するに及はすひとへに本尊の御/81ウy166 
 + 
 +  まへをはなれすして夜昼おこなふ鈴の音絶時なかり 
 +  けりをのつから人の行むかひたれは門をは常にさしたる 
 +  門をたたく時たまたま人の出きてたれそととふしかしかの人のま 
 +  いらせ給たりもしは院の御つかひにさふらふなといへは申さふら 
 +  はむとておくへ入てむこにあるほと鈴のをとしきり也さてと 
 +  はかりありて門の関木をはつして扉かたつかたを人ひとり入 
 +  程あけたりみいるれは庭には草しけくしてみちふみあけたる跡 
 +  もなし露を分て入てのほりたれは広庇一間有妻戸にあか 
 +  り障子たてたるすすけとほりたる事いつの世にはりたり 
 +  ともみえすしはし斗ありて墨染きたる僧足をともせて 
 +  出きてしはしそれにおはしませおこなひの程に候といへは待居た 
 +  る程にとはかりありて内よりそれへいらせ給へとあれはすすけ 
 +  たる障子を引あけたるに香の煙くゆり出たりなへとほりたる衣に/82オy167 
 + 
 +  袈裟なとも所々やふれたる物もいはてゐられたれは此人もい 
 +  かにと思てむかひゐたるほとにこまぬきてすこしうつふしたるやう 
 +  にてゐられたりしはしある程におこなひの程よくなり候ぬさらは 
 +  とく帰らせ給へとあれはいふへき事もいはていてぬれは 
 +  又門やかてさしつこれはひとへに居おこなひの人なり/82ウy168
  
-これはひとへに、居おこなひの人なり。 
text/yomeiuji/uji078_1.txt · 最終更新: 2018/05/09 23:58 by Satoshi Nakagawa