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宇治拾遺物語

第76話(巻5・第7話)仮名暦、誂へたる事

仮名暦誂タル事

仮名暦、誂へたる事

校訂本文

これも今は昔、ある人のもとに、なま女房のありけるが、人に紙乞ひて、そこなりける若き僧に、「仮名暦、書きて賜べ」と言ひければ、僧、やすきことに言ひて、書きたりけり。

始めつ方はうるはしく、「神仏によし」「坎日(かんにち)」「凶会日(くゑにち)」など書きたりけるが、やうやう末(すゑ)ざまになりて、ある日は「物食はぬ日」など書き、また「これぞあれば、よく食ふ日」など書きたり。

この女房、「やうがる暦かな」とは思へども、いとかうほどには思ひよらず、「さることにこそ」と思ひて、そのままに違(たが)へず。

またある日は、「はこ1)すべからず」と書きたれば、「いかに」とは思へども、「さこそはあらめ」と思ひて、念じて過ぐすほどに、長凶会日(ながくゑにち)のやうに、「はこすべからず・はこすべからず」と続け書きたれば、二・三日までは念じ居たるほどに、おほかた耐ゆべきやうもなければ、左右の手して、尻をかかへて、「いかにせん、いかにせん」と、よぢりすぢりするほどに、ものもおぼえずしてありけるとか。

翻刻

これも今は昔ある人のもとになま女房の有けるか人に紙こひ
てそこなりけるわかき僧に仮名暦書てたへといひけれは僧
やすき事にいひて書たりけりはしめつかたはうるはしく神
仏によしかん日くゑ日なと書たりけるかやうやうすゑさまに
なりてあるひは物くはぬ日なとかき又これそあれはよく
くふ日なとかきたりこの女房やうかる暦かなとは思へ
ともいとかうほとには思ひよらすさる事にこそと思てそのままに
たかへす又ある日ははこすへからすと書たれはいかにとは思へ
ともさこそはあらめと思てねんしてすくす程になかくゑ日
のやうにはこすへからすはこすへからすとつつけかきたれは二三日まては念しゐたる/78ウy160
程に大かたたゆへきやうもなけれは左右の手して尻をかかへて
いかにせんいかにせんとよちりすちりする程に物もおほえすして
ありけるとか/79オy161
1)
大便の意
text/yomeiuji/uji076.txt · 最終更新: 2018/04/28 20:15 by Satoshi Nakagawa