text:yomeiuji:uji075
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text:yomeiuji:uji075 [2014/10/05 17:36] – Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji075 [2018/04/28 19:59] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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**陪従清仲の事** | **陪従清仲の事** | ||
- | 是も今はむかし、二条の大宮と申けるは、白川院の宮、鳥羽院の御母しろにおはしましける。二条の大宮とぞ申ける。二条よりは北、堀川よりは東におはしましけり。 | + | ===== 校訂本文 ===== |
- | その御所破にければ、有賢大蔵卿、備後国をしられける重任の功に修理しければ、宮もほかへおはしましにけり。それに陪従清仲といふもの、常にさぶらひけるが、宮おはしまさねども、猶御車宿の妻に居て、ふるき物はいはじ、あたらしうしたるつか柱、立蔀などをさへ、やぶり焼けり。 | + | これも今は昔、二条の大宮((令子内親王))と申しけるは、白河院の宮((白河天皇))、鳥羽院((鳥羽天皇))の御母代(しろ)におはしましける。二条の大宮とぞ申しける。二条よりは北、堀川よりは東におはしましけり。その御所、破れにければ、有賢大蔵卿((源有賢))、備後国を知られける重任の功に修理しければ、宮もほかへおはしましにけり。 |
- | 此事を有賢、鳥羽院にうたへ申ければ、清仲をめして、「宮わたらせおはしまさぬに、猶とまりゐて、ふるき物、あたらしき物、こぼちたくなるはいかなる事ぞ。修理する物うたへ申なり。まづ、宮もおはしまさぬに、猶こもりゐたるは、なに事によりてさぶらふぞ。子細を申せ」と仰せられければ、清仲申すやう、「別の事に候はず。たき木につきて候也」と申ければ、「大かたこれ程の事」とかく仰らるるに及ず。「すみやかに追いだせ」とて、わらわせおはしましけるとかや。 | + | それに、陪従清仲といふもの、常にさぶらひけるが、宮、おはしまさねども、なほ御車宿(くるまやどり)の妻に居て、古き物はいはじ、新しうしたる束柱(つかばしら)、立蔀(たてじとみ)などをさへ、破り焼きけり。 |
- | この清仲は、法性寺殿の御時、春日の乗尻の立けるに、神馬づかひ、をのをのさはりありて、事闕たりけるに、清仲ばかり、かうつとめたりし物なれども、「事かけにたり。相構てつとめよ。せめて京斗をまれ、事なきさまにはからひつとめよ」と仰られけるに、「畏て奉ぬ」と申て、やがて社頭にまいりたりければ、返返感じおぼしめす。 | + | このことを、有賢、鳥羽院に訴(うた)へ申しければ、清仲を召して、「宮、渡らせおはしまさぬに、なほ留(とま)り居て、古き物、新しき物、こぼち焚くなるは、いかなることぞ。修理する物、訴(うた)へ申すなり。まづ、宮もおはしまさぬに、なほこもり居たるは、何ごとによりてさぶらふぞ。子細を申せ」と仰せられければ、清仲、申すやう、「別のことに候はず。焚き木につきて((「尽きて」と「付きて」の二説がある。))候ふなり」と申しければ、おほかた、これほどのこと、とかく仰せらるるに及ばず。「すみやかに追ひ出だせ」とて、笑はせおはしましけるとかや。 |
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+ | この清仲は、法性寺殿((藤原忠通))の御時、春日の乗尻の立ちけるに、神馬使ひ、おのおのさはりありて、事欠けたりけるに、清仲ばかり、かう勤めたりし者なれども、「事欠けにたり。あひ構へて勤めよ。せめて京ばかりをまれ、ことなきさまに、はからひ勤めよ」と仰せられけるに、「かしこまりて奉りぬ」と申して、やがて社頭に参りたりければ、返す返す感じ思し召す。 | ||
+ | |||
+ | 「いみじう勤めて候ふ」とて、御馬を賜びたりければ、伏しまろび悦びて、「この定(ぢやう)に候はば、定使(ぢやうづかひ)をつかまつり候はばや」と申しけるを、仰せ告ぐ者も、さぶらひあふ者どもも、笑壺(ゑつぼ)に入りて、笑ひののしりけるを、「何事ぞ」と御尋ねありければ、「しかじか」と申しけるに、「いみじう申したり」とぞ、仰せごとありける。 | ||
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+ | ===== 翻刻 ===== | ||
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+ | 是も今はむかし二条の大宮と申けるは白川院の宮鳥羽院の | ||
+ | 御母しろにおはしましける二条の大宮とそ申ける二条よりは | ||
+ | 北堀川よりは東におはしましけりその御所破にけれは有 | ||
+ | 賢大蔵卿備後国をしられける重任の功に修理しけれは | ||
+ | 宮もほかへおはしましにけりそれに陪従清仲といふもの常に | ||
+ | さふらひけるか宮おはしまさねとも猶御車宿の妻に居てふ | ||
+ | るき物はいはしあたらしうしたるつか柱立蔀なとをさへやふり | ||
+ | 焼けり此事を有賢鳥羽院にうたへ申けれは清仲をめして/77ウy158 | ||
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+ | 宮わたらせおはしまさぬに猶とまりゐてふるき物あたらしき | ||
+ | 物こほちたくなるはいかなる事そ修理する物うたへ申なり | ||
+ | まつ宮もおはしまさぬに猶こもりゐたるはなに事によりて | ||
+ | さふらふそ子細を申せと仰られけれは清仲申すやう別の事 | ||
+ | に候はすたき木につきて候也と申けれは大かたこれ程 | ||
+ | の事とかく仰らるるに及すすみやかに追いたせとてわら | ||
+ | はせおはしましけるとかやこの清仲は法性寺殿の御時春日の | ||
+ | 乗尻の立けるに神馬つかひをのをのさはりありて事闕たり | ||
+ | けるに清仲はかりかうつとめたりし物なれとも事かけにたり | ||
+ | 相構てつとめよせめて京斗をまれ事なきさまにはからひつ | ||
+ | とめよと仰られけるに畏て奉ぬと申てやかて社頭にまいりた | ||
+ | りけれは返返感しおほしめすいみしうつとめてさふらふとて御 | ||
+ | 馬をたひたりけれはふしまろひ悦てこのちやうに候はは定/78オy159 | ||
+ | |||
+ | 使を仕候ははやと申けるを仰つくものもさふらひあふ物ともも | ||
+ | えつほに入て笑ののしりけるを何事そと御尋ありけれは | ||
+ | しかしかと申しけるにいみしう申たりとそ仰事ありける/78ウy160 | ||
- | 「いみじうつとめてさぶらふ」とて御馬をたびたりければ、ふしまろび悦て、「このぢやうに候はば、定使を仕候はばや」と申けるを、仰つぐものも、さぶらひあふ物どもも、えつぼに入て、笑ののしりけるを、「何事ぞ」と御尋ありければ、「しかしか」と申しけるに、「いみじう申たり」とぞ仰事ありける。 |
text/yomeiuji/uji075.txt · 最終更新: 2018/04/28 19:59 by Satoshi Nakagawa