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text:yomeiuji:uji072 [2015/02/22 21:27] – [第72話(巻5・第2話)以長物忌の事] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji072 [2018/04/04 16:38] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 **以長物忌の事** **以長物忌の事**
  
-これも今はむかし、大膳亮大夫橘以長といふ蔵人の五位ありけり。宇治左大臣殿より、召ありけるに、「今明日はかたき物忌を仕事候」と申たりければ、「こはいかに、世にある物の物忌といふことやはある。たしかにまいれ」とめしきびしかりければ、恐ながらまいりにけり。+===== 校訂本文 =====
  
-さる程に十日斗ありて、左大臣殿に、らぬかたきか((傍注「御カ」))物忌いできにけり。御どのはざだてなどして仁王講おはるる僧も高陽院のたの土戸よ童子などもいずして僧斗ぞまいりけ+これも今は昔、大膳亮大夫橘以長といふ蔵人の五位ありけり。宇治左大臣殿((藤原頼長))り召ありけるに、「今明日は、かたき物忌みをつかまるつこと候ふ」と申したりければ「こはかに世にある者の、物忌みといふとや。たしかに参れ」と召し厳しかり恐れながら参
  
-「御物忌あり」とこの以長きて、いそまいりて、土戸よりまいらんとするに、舎人二人て、「『人なれそ』と候」とて立むかひたりければ、「やうれ、おれらよ。されてまいるぞ」とひければ、これらもさすがに職事にて、つねれば力及ばでいれつ。+さるほどに、十日ばかりありて、左大臣殿に、世に知らぬかたき御物忌み出で来にけり。御門のはざまに、かいだてなどして、仁王講行なはるる僧も、高陽院のかたの土戸より、童子なども入れずして、僧ばかりぞ参りける。 
 + 
 +「御物忌あり」とこの以長きて、りて、土戸よりらんとするに、舎人二人て、「『人なれそ』と候」とてち向ひたりければ、「やうれ、おれらよ。されてるぞ」とひければ、これらもさすがに職事にて、れば力及ばで、入れつ。 
 + 
 +参りて、蔵人所に居て、何ともなく声高に、もの言ひ居たりけるを、左府、聞かせ給ひて「このもの言ふは誰(たれ)ぞ」と問はせ給ひければ、盛兼、申すやう、「以長に候ふ」と申しければ、「かに、かばかりかたき物忌みには、夜部(よべ)より参りこもりたるかと尋ねよ」と仰せけば、行きて、仰せの旨を言ふに、蔵人所は御前より近かりけるに、「くわ、くわ」と大声して、憚らず申すやう、「過候ひぬるころ、わたくしに物忌かまつりて候ひしに、召され候ひき物忌のよしを申し候ひしを、物忌みといふことやはある。たしかに参るべきよし、仰せ候ひしかば、参り候ひにき。されば、物忌といふことは候はぬと知りて候ふなり」と申しければ、聞かせ給ひて、うちうなづきて、ものも仰せられでやみにけりとぞ。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  これも今はむかし大膳亮大夫橘以長といふ蔵人の五位あり 
 +  けり宇治左大臣殿より召ありけるに今明日はかたき物忌 
 +  を仕事候と申たりけれはこはいかに世にある物の物忌と 
 +  いふことやはあるたしかにまいれとめしきひしかりけれは恐な 
 +  からまいりにけりさる程に十日斗ありて左大臣殿によに 
 +  しらぬかたきか(御歟)物忌いてきにけり御かとのはさまにかい 
 +  たてなとして仁王講おこなはるる僧も高陽院のかたの 
 +  土戸より童子なともいれすして僧斗そまいりける御物忌 
 +  ありとこの以長ききていそきまいりて土戸よりまいらんと 
 +  するに舎人二人ゐて人ないれそと候とて立むかひたりけれは 
 +  やうれおれらよめされてまいるそといひけれはこれらもさすか 
 +  に職事にてつねにみれは力及はていれつまいりて蔵人所に/75オy153 
 + 
 +  居てなにともなく声たかに物いひゐたりけるを左府きかせ 
 +  給てこの物いふはたれそと問はせ給けれは盛兼申やう以長に 
 +  候と申けれはいかにか斗かたき物忌には夜部よりまいり 
 +  こもりたるかと尋よと仰けれは行て仰の旨をいふに蔵人 
 +  所は御前より近かりけるにくわくわと大声して憚からす申 
 +  やう過候ぬる比わたくしに物忌仕て候しにめされ候き物忌の 
 +  よしを申候しを物忌といふ事やはあるたしかにまいるへき由 
 +  仰候しかはまいり候にきされは物忌といふ事は候はぬとしり 
 +  て候也と申けれはきかせ給てうちうなつきて物もおほせ 
 +  られてやみにけりとそ/75ウy154
  
-まいりて蔵人所に居て、なにともなく声たかに、物いひゐたりけるを、左府きかせ給て「この物いふはたれぞ」と問はせ給ければ、盛兼申やう、「以長に候」と申ければ、「いかに、か斗かたき物忌には、夜部よりまいりこもりたるかと尋よ」と仰ければ、行て仰の旨をいふに、蔵人所は御前より近かりけるに、「くわくわ」と大声して憚からず申やう、「過候ぬる比、わたくしに物忌仕て候しにめされ候き。物忌のよしを申候しを、物忌といふ事やはある、たしかにまいるべき由、仰候しかば、まいり候にき。されば、物忌といふ事は候はぬとしりて候也」と申ければ、きかせ給て、うちうなづきて物もおほせられでやみにけりとぞ。 
text/yomeiuji/uji072.txt · 最終更新: 2018/04/04 16:38 by Satoshi Nakagawa