ユーザ用ツール

サイト用ツール


text:yomeiuji:uji048

差分

このページの2つのバージョン間の差分を表示します。

この比較画面へのリンク

両方とも前のリビジョン前のリビジョン
次のリビジョン
前のリビジョン
text:yomeiuji:uji048 [2015/02/07 21:09] – [第48話(巻3・第16話)雀、報恩の事] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji048 [2018/03/08 21:21] (現在) – [第48話(巻3・第16話)雀、報恩の事] Satoshi Nakagawa
行 6: 行 6:
 **雀、報恩の事** **雀、報恩の事**
  
-今はむかし、春つかた、日うららかなりけるに六十斗の女のありけるが、虫うちとりてゐたりけりるに、庭に雀のしありきけるを、童部、石をとりて打たれば、あたりて腰をうちおられけり。+===== 校訂本文 =====
  
-羽をふしてまどふほどに、からすかけりありれば「あな心。からすとりてん」とて此女、いそぎとて、いしかなどして物くはす。小桶に入てよるおさむ。明ればこめくはせ銅、薬にこそげくはせなどすれば、子ども、孫など「あはれ、女なとじ[女刀自ノコト]は、老て雀かはるる」とて、にくみわふ。かくて、月比よくつくろへば、やうやうおどりあ+今は昔、春つか、日うららなりけるに、六十ばりの女のありけるがち取りて居たりけりるに庭に雀のし歩(あ)きけるを童部(わらべ)石を取り打ちたれば、当りて、腰をうち折れけり。
  
-すずのこころ、かくやしなひいたるを、「いみじくれしうれし」と思け。あらさまに、物へいくと人に「此すずめみよはせよ」など、いひ置ければ、子まごなど、「あはれなむでう雀かはるる」て、にくみわらへども「さいとおしければ」とほどに、飛ほどに成にけり。「今よも烏にとられじ」とて、いでて、手にすへて「飛やする。ん」とて、ささげたれば、らふらととびていぬ+羽をふたかしてまどふほどに、烏のかけり歩(あり)きければ、「あな心憂(こころ)。烏取りてん」とて、この女、急ぎ取て、息しけなどして、物食はす。小桶に入れて、夜は納むれば米食はせ、銅、薬にこそげて食はせなどれば、子ども、孫など、「あはれ、女刀自(じ)は、老ひ飼はるる」とて、にふ。
  
-女「おほ比日比、くるればお明ればはせな「あはれ飛ていぬよ。また来やするとみん」など、づれに思てければ、わらはれけり。+て、ごろよくつくろへばやうやう踊り歩(あり)。雀の心にも、かく養ひ生けたを、「いみじく嬉し、嬉し」と思ひけり。あからまにものへ行くとても人に「この雀見よ。はせよ」ど、言置きければ、子・孫など、「あはれ、何でふ、雀飼はるるて、にく笑へ「さはとほしければ」とて飼ふほどに飛ぶほどになりにけり。
  
-て、廿日ばかりなりて、此女のゐたる方、すずめのいたくなく声しければ、「すずめこそ、いたく鳴くなれありし雀のくるにやあらん」と、おもひて、いでてみれば、此雀也。「あはれにわすれず来たるこそ、あはれなれ」と、いほどに、女の顔を打みて、口より露斗の物をおしをくやうにして、飛びてぬ。女「なににかあらむおとしていぬ物は」とてよりて見ればさごのたねをただ一、おとしてをきたり。「もてきたる様こそあらめ」とて、とりてもちたり。「あないみじ。雀の物えて、宝にし給」とて、子どもわらへば、「さはれ、て見ん」とてうへたば、秋なるままに、いみじくおほくおいろごりて、なべての杓もにず、大におほくなりたり。+「今は、よも烏に取られじ」とて、出でて、据ゑて、「飛びやん」とて、ささげたれば、ふらふらと飛びてぬ。女、多く月ごろ日ごろ、暮れば納め明くれば物食はせならひて、「あはれ飛び往ぬるよ。また来やすると見ん」などつれづれにひて言ひければ笑はれけり。
  
-悦けうじて、里隣人々もくはせ、とれもとれにもつきもせずおほかり。わらひ子孫も、これをあけくれ食てあり。一里くばりなどして、にはすぐて大な七八「ひさごにせん」とて、内につつけてをきたり。+さて二十日ばかりになりて、女の居たる方に、雀のいたく鳴く声ければ「雀そいた鳴くなありし雀の来るにやあらん」と思ひて、出で見れば、この雀なり。「あはれ、忘ず来たこそ、あれなれ」と言ふほどに、女の顔をうち見て、口よ露ばかの物を落し置くやうにして、飛びて往ぬ
  
-さて月比へて、「今はよく成ぬん」とて、みれば、よくなりにけりとりおろして、口あけんするにすこしをもし。あやしけれども、きあければ、とはたり。「なににかあるら」とて、うつしみれば白米の入る也。「思がけずさまし」とおもひて、大なる物になうつしたるに、おなやうに入あれば「ただごとはあらざりけり。雀のたるにこそ」と、ましく、うしければ物に入かくしをきて、のこりの杓どもをみれば、じやう入てあり。これをうつしうつしつかへばせんかたなく多。さて、たのしなりにける。隣里の人も、見あさみ、いみじき事にうらやみけり。+、「何にかあ雀の落して往ぬる物は」りてれば、杓(さこ)の種をだ一つ、落して置きたり。「持(も)て来た、やうこそあ」とて、取りて、持ち。「あみじ。雀の物得て、にし給ふ」と子ども笑へば、「れ、植ゑ見ん」とて、植ゑたれば、秋にるままに、いみじく多く生ひ広ごりて、なべての杓(ひさ)も似ず、おほきに多くなりり。
  
-此隣にありけるの子どものいふやう「おな事なれど、人はかくこそあれ、はかばかしき事えしいで給ぬ」などいはて、隣の女、此女なのもとにきたりて「さてさても、こはいし事ぞ『雀の』などはほのきけど、よくはえらねばもとありけんままにの給へ」と、いへば「ひさごのたねをおとしたりし、植たりしよりある事也」と、こまかもいぬを「猶ありのまに、まかにのたまへ」、せつとへば「心せばく、かくべき事かは」と、思て「かうかうこしおたる雀のありしを、飼生たりしを『うれし』と思けるにや、杓の種を一もち来りしを、うへたれば、かくりた也」と、いへばそのたね、ただ一たべ」と、いへば「それに入たる米などはまいらせん。種はあるべきもあらず。さらに、えなんちらすまじ」とて、とらねば、「我もいかで腰おれたらん雀見付てかはん」と、おもひて、目をたてみれど、こし折る雀更にみえず+、悦び興里隣の取れども((底本「も」。諸本により訂正。))尽きもせず多かり。笑ひ子・孫もこれを明け暮れ食ひてあり里配などてには、まことにすれて大きなる七つ八つは杓(ひさ)にせん」とひて、内に釣り付け置き
  
-つとめてごとにうかがひみれば、せどのかた米のちたるを食とて、雀のおりありくを石をとりて「もしや」とて、うてば、あまの中度々うてば、をのづらうちて、えとぬあり。悦てて腰よくうち折て後に取て、物くはせ、薬くはせどして置たり。+ろ経て、「今はよくなりぬらん」て見れば、よくなり。取りおろして、口開けんとするに、少し重し。怪しけれ開け見れば、物ひとは入りたり。「何にかあん」とて、移して見れば、白米の入たるなり。
  
-一が徳をだにこそみれましてあまたならば、いかにたのからん。あの隣の女にはまさりて子どもにほめられん」と思て、此内に、米まきてかがひゐたれば、雀どもあつまりて、食にきたれば、又うちうちしければ、三打折ぬ。いまかばかりにてありなん」と、思て腰折たる雀三斗入て、銅こそげてくはせなどして、月比ふるほみなよく成れば、て、とに取出ればふらふらと飛てみないぬ。「いみじきわざしつ」、おもふ。雀は腰うちおられて、かく月比こめをきたるを、「よねたし」と、おもひけり。+思ひかけず。あまし」と思て、大きなる物にみな移したるに、同じやに入りてれば、「ただごとにあらざけり。雀のしたるこそ」と、あさましく嬉しければに入置きて、残りの杓もを見れば同じやう入りてあり。こを移し移し使へば、せんかたなく多かり。さて、まことにたのしき人にぞなりにける。隣里の人も見あさみ、いみじきとに羨みけり。
  
-さて十日斗あり此雀どもきたれば、まつ。「口物やくは」と、みるに、ひさごのたねを一つ、され」と、うれしくてて三ころいそぎ植いよもするするとちていみじく大りた。これは、いおほくらず。七八ぞなりたる。女、えげてみて、子どふやう「『はばかしき事しいず』といひしかど、我この隣の女にはまさりなん」と、いへば「げに、さもあなん」と、おもひたり+この隣にありける女のどもの言ふやう「同じことなど、人はかくこそあれ。はかかしきこともえし出で給はぬ」など言はれ、隣の女、この女のもと来たりて、「さてもさても、こはいかなりしことぞ。『雀の』などはほの聞けど、よくはえ知らねば、もとありけんままにのまへ」と言へば「杓(ひさご)を一つ落したりし植ゑたりしより、あることり」とて、細かにも言はを、なほ、ありのままに、細かにのたまへ」と、せつに問へ、「心狭(せば)く、隠すべきことかは」と思ひて「かかう、腰折たる雀のあり飼ひ生けたしを、『嬉し』思ひけるや、杓の種を一つ持ち来たしを、植ゑたば、かくななり」言へば、「その種、だ一つ賜べ」と言へば「それりたる米などは参らせん種はあるべきことらず。さらに、えなん散らすじ」とて、取らせねば、「われいかで腰折れたらん雀見付けてはん」と思ひて目を立てて見れど、腰折れたる雀、さらに見えず
  
-「これはかずのすくなければ、米おほくとらん」とて、ひとにもくはせず、我もくはず。子どもいふやう「隣の女なはなりもくはせ、我もくひなどこそせしか。これはまして三が種な。我も人にもくはせらべきなり」と、いへば「さも」と、思て「ちかき隣人にもはせ我も子どもにも、もろともにくはせん」とて、おほらかににくふににがき事、物にもにず。きわだなどやうて、心ちまどふ。くひとくひる人々も、子どもも我も、物をつきまどふ程に人どもも、みな心をそんじて、つまりて「こはいかなる物をくはせつるぞ。あなおそろし。露斗、けぶんの口によたるものも、ものをつきまどひあひて、しぬべこそあれ」と、腹だちて「いひせためん」と、おもひきたればぬしの女をじめてももみな物おぼえずつきちらしてふせりあひたり。いふかひなくて、とも帰ぬ+とにうかひ見れば背戸(せ)方(かた)米の散を食ふ踊り歩(あり)石を取りてしや」とてあまた度々(たびび)打づから打当てられて、え飛ばぬあり。悦びりて、腰よ折り後に取りて、物食薬食はせなどして、置きたり。
  
-二三日もすぎぬ、たれたれも心ちをりにた。女ふやう「みな米らんとしける物をいそぎひたれば、かくあやしかけるなめり」と、思て、のこりをば、みなつりつけてをきたりさて月比へて、「今はよく成ぬらん」とて、うつしいんれうの桶どもぐしてへやに入。うしければ、はき口して、みみのもとまでひとえみして、桶をよせてうつしければ、あぶ・はち・むかで・とかげ・くちなはなどいでて、目はなどもいはず、ひつきてさせども、女、いさもおぼえずただ「こめのこぼれかかるぞ」、思「しばしまち給へ雀よすことらん。すこしづつとらん」と、いふ。七八のひさごよりそこの毒虫ども出て、子どももさ、女をばさしころしてけり。+「一つが徳をだにこそ見れ、まして、あまたならば、いかにたのしからんあの隣のにはまさりて、子どもに讃め思ひてこの内に米まき、うかがたれば、雀ども集まりて、食ひに来たれば、また打ち打ちしければ、三打ち折。「今は、かばかにてありなん」と思ひて、腰折たる雀三つばかり取り入れ銅こそげて、食して、月ごろ経るほどに、みなよくなにたれば、悦びて、外()出でればふらふら飛びて、みな往ぬ「いみじきわざしつ」とふ。雀は腰打ち折て、かく月ごろこめ置きたる、「よにねた」と思ひけり。
  
-雀の腰をうちおられ「ねたし」と、思て、むしどもをからひ、入りけ也。隣の雀は、も腰おれてからす食ぬべかりしを、なひいけたれば「うれし」と、おもひるなり。+十日ばかりありて、どもれば、悦び待つ。「口に物やくはへたる見るに杓(ひさこ)一つづつみな落て往ぬ。「されば」と嬉しくて取りて、三つ所に急ぎ植ゑけり。
  
-されば、物うらやみはすまじき事也+例よりもするすると生ひ立ちて、いみじく大きになりたり。これは、いと多くもならず。七・八ぞなりたる。女、笑みまげて見て、子どもに言ふやう、「『はかばかしきこと、しいでず』と言ひしかど、われはこの隣の女にはまりなん」と言へば、「げに、さもあらなん」と思ひたり。 
 + 
 +これは数(かず)の少なければ、「米多く取らん」とて、人にも食はせず、われも食はず。子どもが言ふやう、「隣の女は、里隣の人にも食はせ、われも食ひなどこそせしか。これは、まして三つが種なり。われも人にも食はせらるべきなり」と言へば、「さも」と思ひて、「近き隣の人にも食はせ、われも、子どもにも、もろともに食はせん」とて、おほらかに煮て食ふに、苦きこと、物にも似ず。黄蘗(きはだ)などのやにて、心地まどふ。食ひと食ひたる人々も、子どもも、われも、ものを吐(つ)きてまどふほどに、隣の人どもも、みな心地を損じて、来集まりて、「こはいかなる物を食はせつるぞ。あな恐し。つゆばかり、けぶんの口に寄りたるものも、ものを吐きまどひあひて、死ぬべくこそあれ」と腹だちて、「言ひ責ためん」と思ひて来たれば、主(ぬし)の女を始めて、子どもも、みな物思えず、吐き散して臥せりあひたり。いふかひなくて、とも帰りぬ。 
 + 
 +二・三日も過ぎぬれば、誰々(たれたれ)も心地直りにたり。女、思ふう、「な米にならんとしけるものを、急ぎて食ひたれば、かく怪しかりけるなめり」と思ひて、残りをば、みな釣り付けて置きたり。 
 + 
 +さて、月ごろ経て、「今よくなりぬらん」とて、移し入れん料(れう)の桶ども具して、部屋に入る。嬉しければ、歯も無き口して、耳のもとまで一人笑みして、桶を寄せて移しければ、虻(あぶ)・蜂・むかで・とかげ・くちなはなど出でて、目鼻どもいはず、ひと身に取り付きて刺せども、女、痛さも思えず、ただ「米のこぼれかかるぞ」と思ひて、「しばし待ち給へ、雀よ。少しづつ取らん。少しづつ取らん」と言ふ。七つ・八つの杓(ひさこ)より、そこらの毒虫ども出でて、子どもをも刺し食ひ、女をば刺し殺してけり。 
 + 
 +雀の、腰を打ち折られて、「ねたし」と思ひて、万(よろづ)の虫どもを語らひて、入れたりけるなり。隣の雀は、もと腰折れて、烏の食ひぬべかりしを養ひ生けたれば、「嬉し」と思ひけるなり。 
 + 
 +されば、物羨(うらや)みは、すまじきことなり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今はむかし春つかた日うららかなりけるに六十斗の女のありけるか 
 +  虫うちとりてゐたりけりるに庭に雀のしありきけるを童部石を 
 +  とりて打たれはあたりて腰をうちおられにけり羽をふためかし/53ウy110 
 + 
 +  てまとふ程にからすのかけりありきけれはあな心うからすとりてんと 
 +  て此女いそきとりていきしかけなとして物くはす小桶に入てよるはおさ 
 +  む明れはこめくはせ銅薬にこそけてくはせなとすれは子とも孫 
 +  なとあはれ女なとしは老て雀かはるるとてにくみわらふかくて月比よ 
 +  くつくろへはやうやうおとりありくすすめのこころにもかくやしなひい 
 +  けたるをいみしくうれしうれしと思けりあからさまに物へいくとても 
 +  人に此すすめみよ物くはせよなといひ置けれは子まこなとあは 
 +  れなむてう雀かはるるとてにくみわらへともさはれいとおしけれは 
 +  とて飼ほとに飛ほとに成にけり今はよも烏にとられしとて外に 
 +  いてて手にすへて飛やするみんとてささけたれはふらふらととひて 
 +  いぬ女おほくの月比日比くるれはおさめ明れは物くはせならひ 
 +  てあはれや飛ていぬるよまた来やするとみんなとつれつれに思 
 +  ていひけれは人にわらはれけりさて廿日はかりになりて此女のゐ/54オy111 
 + 
 +  たる方にすすめのいたくなく声しけれはすすめこそいたく鳴くなれ 
 +  ありし雀のくるにやあらんとおもひていててみれは此雀也あはれに 
 +  わすれす来たるこそあはれなれといふほとに女の顔を打見て口 
 +  より露斗の物をおとしをくやうにして飛ひていぬ女なににかあらむ 
 +  雀のおとしていぬる物はとてよりて見れはひさこのたねをたた一おと 
 +  してをきたりもてきたる様こそあらめとてとりてもちたりあな 
 +  いみし雀の物えて宝にし給とて子ともわらへはさはれ植て見んとて 
 +  うへたれは秋になるままにいみしくおほくおいひろこりてなへての杓 
 +  にもにす大におほくなりたり女悦けうして里隣の人々もくはせ 
 +  とれにもとれにもつきもせすおほかりわらひし子孫もこれをあけ 
 +  くれ食てあり一里くはりなとしてはてにはまことにすくれて 
 +  大なる七八はひさこにせんと思て内につりつけてを 
 +  きたりさて月比へて今はよく成ぬらんとてみれはよくな/54ウy112 
 + 
 +  りにけりとりおろして口あけんとするにすこしをもしあやしけ 
 +  れともきりあけてみれは物ひとはた入たりなににかあるらんとて 
 +  うつしてみれは白米の入たる也思かけすあさましとおもひて大なる 
 +  物にみなうつしたるにおなしやうに入てあれはたたことにはあ 
 +  らさりけり雀のしたるにこそとあさましくうれしけれは物に 
 +  入てかくしをきてのこりの杓ともをみれはおなしやうに入て 
 +  ありこれをうつしうつしつかへはせんかたなく多かりさてまことに 
 +  たのしき人にそなりにける隣里の人も見あさみいみしき 
 +  事にうらやみけり此隣にありける女の子とものいふやうお 
 +  なし事なれと人はかくこそあれはかはかしき事もえしいて給 
 +  はぬなといはれて隣の女此女なのもとにきたりてさてもさてもこは 
 +  いかなりし事そ雀のなとはほのきけとよくはえしらねはもとあり 
 +  けんままにの給へといへはひさこのたねを一おとしたりし植たりし/55オy113 
 + 
 +  よりある事也とてこまかにもいはぬを猶ありのままにこまかにの 
 +  たまへとせつにとへは心せはくかくすへき事かはと思てかうかうこし 
 +  おれたる雀のありしを飼生たりしをうれしと思けるにや杓の種を 
 +  一もちて来りしをうへたれはかくなりたる也といへはそのたねたた一たへ 
 +  といへはそれに入たる米なとはまいらせん種はあるへきことにもあらす 
 +  さらにえなんちらすましとてとらせねは我もいかて腰おれたらん雀 
 +  見付てかはんとおもひて目をたててみれとこし折たる雀更にみえ 
 +  すつとめてことにうかかひみれはせとのかたに米のちりたるを食とて雀 
 +  のおとりありくを石をとりてもしやとてうてはあまたの中に 
 +  度々うてはをのつからうちあてられてえとはぬあり悦てよりて腰 
 +  よくうち折て後に取て物くはせ薬くはせなとして置たり一か徳を 
 +  たにこそみれましてあまたならはいかにたのしからんあの隣の女 
 +  にはまさりて子ともにほめられんと思て此内に米まきて/55ウy114 
 + 
 +  うかかひゐたれは雀ともあつまりて食にきたれは又うちうちしけれは 
 +  三打折ぬいまはかはかりにてありなんと思て腰折たる雀三斗 
 +  桶に取入て銅こそけてくはせなとして月比ふるほとにみなよく 
 +  成にたれは悦てとに取出たれはふらふらと飛てみないぬいみしき 
 +  わさしつとおもふ雀は腰うちおられてかく月比こめをきたるをよ 
 +  にねたしとおもひけりさて十日斗ありて此雀ともきたれは 
 +  悦てまつ口に物やくはへたるとみるにひさこのたねを一つつみ 
 +  なをとしていぬされはよとうれしくてとりて三ところにいそ 
 +  き植てけりれいよりもするすると生たちていみしく大になり 
 +  たりこれはいとおほくもならす七八そなりたる女えみまけて 
 +  みて子ともにいふやうはかはかしき事しいてすといひしかと我は 
 +  この隣の女にはまさりなんといへはけにさもあらなんとおもひたり 
 +  これはかすのすくなけれは米おほくとらんとてひとにもくはせす/56オy115 
 + 
 +  我もくはす子ともかいふやう隣の女なは里となりの人にも 
 +  くはせ我もくひなとこそせしかこれはまして三か種なり我も人 
 +  にもくはせらるへきなりといへはさもと思てちかき隣の人にもくは 
 +  せ我も子ともにももろともにくはせんとておほらかににてくふ 
 +  ににかき事物にもにすきわたなとのやうにて心ちまとふくひ 
 +  とくひたる人々も子ともも我も物をつきてまとふ程に隣の 
 +  人とももみな心ちをそんしてきあつまりてこはいかなる物をくはせ 
 +  つるそあなおそろし露斗けふんの口によりたるものもものをつき 
 +  まとひあひてしぬへくこそあれと腹たちていひせためんとお 
 +  もひてきたれはぬしの女をはしめて子とももみな物おほえすつき 
 +  ちらしてふせりあひたりいふかひなくてとも帰ぬ二三日もすき 
 +  ぬれはたれたれも心ちなをりにたり女おもふやうみな米に 
 +  ならんとしける物をいそきてくひたれはかくあやしかりけるなめり/56ウy116 
 + 
 +  と思てのこりをはみなつりつけてをきたりさて月比へて今 
 +  はよく成りぬらんとてうつしいれんれうの桶ともくしてへやに入 
 +  うれしけれははもなき口してみみのもとまてひとりえみして 
 +  桶をよせてうつしけれはあふはちむかてとかけくちなはなと 
 +  いてて目はなともいはすひと身にとりつきてさせとも 
 +  女いたさもおほえすたたこめのこほれかかるそと思てしはし 
 +  まち給へ雀よすこしつつとらんすこしつつとらんといふ七八のひさこより 
 +  そこらの毒虫とも出て子ともをもさしくひ女をはさしころ 
 +  してけり雀の腰をうちおられてねたしと思て万のむし 
 +  ともをかたらひて入たりける也隣の雀はもと腰おれてからす 
 +  の食ぬへかりしをやしなひいけたれはうれしとおもひけるなり 
 +  されは物うらやみはすましき事也/57オy117
  
text/yomeiuji/uji048.txt · 最終更新: 2018/03/08 21:21 by Satoshi Nakagawa