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text:yomeiuji:uji048 [2015/02/07 21:09] – [第48話(巻3・第16話)雀、報恩の事] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji048 [2018/02/01 03:19] Satoshi Nakagawa
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 **雀、報恩の事** **雀、報恩の事**
  
-今はむかし、春つかた、日うららかなりけるに六十の女のありけるが、虫うちりてたりけりるに、庭に雀のしありきけるを、童部、石をりて打たれば、あたりて腰をうちられけり。+今は、春つかた、日うららかなりけるに六十ばかりの女のありけるが、虫うちりてたりけりるに、庭に雀のし歩(あり)きけるを、童部(わらはべ)、石をりて打たれば、りて腰をうちられけり。
  
-羽をふためかしてまどふほどに、からすのかけりありきければ、「あな心う。からすとりてん」とて、女、いそりて、いきしかけなどして物はす。小桶に入て、よるおさむ。明ればこめくはせ、銅、薬にこそげてはせなどすれば、子ども、孫など「あはれ、女とじ[女刀自ノコト]は、老て雀はるる」とて、にくみわら。かくて、月比よくつくろへば、やうやうおどりありく+羽をふためかしてまどふほどに、のかけり歩(あり)きければ、「あな心憂(こころ)烏取りてん」とて、この女、りて、しかけなどしてはす。小桶に入て、む。明れば米食はせ、銅、薬にこそげてはせなどすれば、子ども、孫など「あはれ、女刀自(とじ)は、老て雀はるる」とて、にくみふ。
  
-すずめこころにも、かくやしなけたるを、「いみじくうれうれし」と思けり。あからさまに、物くとても、人に「此すずめみよ。物くいはせよ」など、ひ置ければ、子まごなど、「あはれなむ、雀はるる」とて、にくみわらへども「さはれ、いとしければ」とて飼ほどに、飛ほどににけり。「今はよも烏にとられじ」とて、外にいでて、手にすへて「飛やする。みん」とて、ささげたれば、ふらふらととびていぬ+かくて、月ごろよくつくろへば、やうやう踊り歩(あり)く。雀にも、かくけたるを、「いみじく、嬉し」と思けり。あからさまにものくとても、人に「この雀見よ。物はせよ」など、ひ置ければ、子・孫など、「あはれ、何、雀はるる」とて、にくみへども「さはれ、いとしければ」とて飼ほどに、飛ほどになりにけり。
  
-おほくの月るればおさめ、明れば物はせならひて「あはれや、飛てぬるよ。また来やするとん」など、つれづれに思てひければ、人にわらはれけり。+今は、よも烏に取られじ」とて、外に出でて、手に据ゑて、「飛びやする。見ん」とて、ささげたれば、ふらふらと飛びて往ぬ。女、多くの月ごろごろるればめ、明れば物はせならひて「あはれや、飛ぬるよ。また来やするとん」など、つれづれに思ひければ、人にはれけり。
  
-さて、廿日ばかりになりて、女のたる方に、すずめのいたくく声しければ、「すずめこそいたく鳴くなれ。ありし雀のるにやあらん」と、おもひて、でてれば、。「あはれにわすれず来たるこそ、あはれなれ」と、いふほどに、女の顔を打みて、口より露の物をおとくやうにして、飛びて。女「なににかあらむ、雀のおとしていぬる物は」とて、よりて見れば、ひさごのたねをただ一、おとしてをきたり。「もてきたる様こそあらめ」とて、とりてもちたり。「あないみじ。雀の物えて、宝にし給」とて、子どもわらへば、「さはれ、植て見ん」とて、うへたれば、秋になるままに、いみじくおほくおいひろごりて、なべての杓にもにず、大におほくなりたり+さて、二十日ばかりになりて、この女のたる方に、のいたくく声しければ、「こそいたく鳴くなれ。ありし雀のるにやあらん」とひて、でてれば、このなり。「あはれに、忘れず来たるこそ、あはれなれ」とふほどに、女の顔をうち見て、口より露ばかりの物をくやうにして、飛びてぬ。
  
-女、悦けうじて、里隣人々もくせ、とれにもとれにもきもせずおほかり。わらひし子孫も、これをけくれ食り。一里くばりどしててには、まこにすぐれ大なる七八はごにせん」とて、つけきたり。+女、「何にかあらむ。雀落して往ぬる物て、寄りて見ば、杓(ひさこ)の種をただ一つ、落して置きたり。「持()て来たるやうらめ」と、取りて、持ちたり。「あな、いみじ。雀の物得、宝し給ふ」とて、子ども笑へば、「さはれ、植ゑて見ん」とて、植ゑたれば、秋なるままに、いみじく多く生ひ広ごりて、なべての杓(ひさこ)にも似ず、おほに多くなりたり。
  
-さて月比へて、「今よく成ぬらん」とてば、くなにけり。とりおろ口あけんとするに、すもし。あやしけれども、きりけてみれば、物ひとはた入たり。ににかあるらん」とて、うつしみれば白米の入たる也。「思がけずあさし」、おもひ大なる物にみなうしたるに、おなじやうに入てあれば、ただごとにはあらざりけり。雀のしたるにこそ」と、あましく、うれしければ、物に入てかくしをきて、のりの杓どもをみれば、おなじやう入てあり。これをうつしうつしつかへば、せんかたなく多かり。さて、まことたのしき人にぞなる。隣里の人も、見あさみ、いみじ事にうらやみけり。+女、悦び興じて、里隣の人々も食ども取れども((底本「とれにも」。諸本により訂正。))尽きもせず多かり。笑ひ子・孫も、こ食ひてあり。一里配りどして、には、まにすぐれて大なる七つ八杓(ひさこ)にせん」と思ひて、て置り。
  
-此隣にありける女の子どものいふやう「おなじ事なれど、人はかくこそあれ、はかばかしき事もえしいで給はぬ」など、いはれて、隣の女、此女なのもとにきたりて「さてもさいかなりし事ぞ。『雀の』などはほのきけど、よくはえしねば、もとありけままにの給へ」と、いへ「ひさごのたねを一おとしたりし植たりしよりある事也」とて、こまかもいはぬを「猶、あのままにこまかにのたまへ」、せつとへば「心せばくかくすべき事かは」と、思て「かうかうこたる雀のありしを飼生たしを『うれし』と思るにや、杓の種を一もち来りしを、うへたれば、かくなりたる也」、いへば「そのね、だ一たべ」と、いへばそれ入たる米などはまいらせん。種はあるべきことにもあず。さらに、えなちらすまじ」とて、とらせねば、「我もいかで腰おれたらん雀付てかはん」と、おもひて、目をたててみこし折たる雀更にみえず+さて月ごろ経て、「今よくなりらん」とて見れば、よくなりに。取りおろして口開けんするに、重し。怪しけどもけてれば、物ひ入りり。あるらん」とて、移して見れ白米の入りたるなり
  
-ごとうかがひみれば、せどのかたに米のちりたるを食雀のおどり石をとりて「もや」とて、うてば、あまたの中度々うづからちあて、えとぬあり。て、て腰よくうち折て後取て物くはせ薬くはせなどして置たり。+「思ひかけず。あさまし」思ひ、大きなる物にみな移したるに、同じやうに入りてあれば、だごとはあらざけり。雀のしたるにこそ」と、あさましく、ければ、入れて隠し置きて、残り杓どもを見れば、同じやに入りあり。こを移し移し使へ、せんかたなく多かり。て、まことにたのしき人にぞなりにける。隣里の人も見あさみいみじきことに羨みけり。
  
-「一が徳をだにこそれ。してあまならば、いかにたのからん女にはまさりて子どもにほめられん」とて、此内に、米まきてうかがひゐたれば雀どもりてれば又うちうちしければ、三打折ぬ。いまはかばかりにてありなん」と思て、腰折たる雀三斗取入て銅こそげくはせなど月比ふるほどにみなよ成にば、悦てとに取出ば、ふらふらと飛ていぬ。「いみきわざしつ」と、ふ。雀はうちおられて、かく月比こめたる「よねたし」と、おもひけり+この隣ありける女の、子どもの言ふやう「同じことなれど、人はかくこそれ。はかばかきことも、えし出で給はぬ」など言はれ、隣の女、この女のもとに来りて「さてもさても、こはいかなりことぞ『雀』などはほ聞けど、よくえ知らねば、もとありけんまにのたまへ」と言へば、「杓(ひご)の種を一つ落したりし、植ゑたりしより、あることなり」とて、細かも言はぬを「なほ、ありのまに細かまへ」とせつに問へば、「心狭(せ)く、隠すべきこと」と思、「かうかう、腰折たる雀のありしを飼ひ生けたりしを、『嬉し』と思ひける杓の種を一つ持ち来たり植ゑたればなりるなり」と言へば、「その種、ただ一つ賜べ」と言へば、「それに入りたる米などは参せん。種はあるべきこにもあらず。さらにん散らすまじ」と取らせねば、「われ、いかでたらん雀見付けて、飼はん」と思ひて、目立てて見れど、腰折れたるさら見えず
  
-さて十日斗ありて、此雀もきれば、悦てまつ。「口物やくはへたると、みるに、ひさごたね一づつみなとしいぬ。さればよ」と、うれしくて、とり三ところにいそぎ植り。れいよもするすると生たちて、いみじたり。これは、いとおほくもならず。七八ぞなりたる。女、えみまげてみて、子どもにいふやう「『かばかしき事しいでず』といひしかど、我この隣の女にはまさりん」といへば「げに、さもあらなん」と、おもひたり。+つとめごとにうかがひ見れば背戸(せ)の方(か)米の散りたるを食ふ踊り歩(あり)くを、取りもしや」とて打てばあまたの中に度々(たびたび)打おのづから打ち当られ、え飛ばぬあり。悦びて寄りて、腰ようち折りて後りて、物食薬食どして置きたり。
  
-これはかずのすくなければ、米おほくとらん」とて、ひとにもくはせず、我もくはず。子どもいふやう「隣の女なは、里どなりの人もくはせ、我もくひなどこそせしか。こまして三が種り。我も人にもくはせるべきなり」と、いへば「さも」と、思て「ち隣のもく我も子どもにも、もろともにくはせん」とて、おほらかににてくふにき事物ににず。きわだなどのやうにて、心ちまどふ。くひとくひたる人々も子どもも我も物をまどふ程に、隣の人どもも、み心ちをそて、きありてはいかなる物をくはせつるぞ。あおそろ。露斗けぶんの口によりたるものもものをつきまどひあひて、しぬべくこそあれ」、腹だちて「いひせためん」と、おもひてきたれば、ぬしの女をはじめて、子どももみな物おぼえずちらふせりあひたり。いふひな、とも帰ぬ+一つ徳をだにこそまして、あまたなら、いかにたのしからん。あの隣のにはまさりて、子どもに讃められん」と思ひて、この内米まきて、うかひ居たれば雀ど集まりて、に来ればまた打ち打ちしければ打ち折りぬ。「今は、かばかりにありなん」と思ひて、腰折れたる雀三ばか、桶に取り入れ、銅そげて、食はせな月ごろ経るほど、みなくなれば悦びて、外()に取り出でたれば、ふらふらと飛びて、みな往ぬ。「いみじきわざし」と思ふ。雀は腰打かく月ごろこめ置きたるを「よにねたし」思ひけり
  
-二三もすぎぬれ、たれたれも心ちなをにたり。女おもふやう「みな米にならんとしける物を、いそぎてくひたれば、かくやしかけるなめり」と、思て、りをば、みなつりつけてをきたり。さて月比へて、「今はよく成りぬらん」とて、うつしいれんれうどもぐして、へやに入。うれしければ、はもなき口し、みみのもとまでひとりえみして、桶をよせてうしければ、あぶ・はち・むかで・とかげ・ちななどいでて、目はなどもいはず、ひとりつきてさせども女、いたもおぼえず、ただ「こぼれかかるぞ」とて「しまち給へ、雀。すこしづつらん。すこづつとらん」といふ。七八のひさごよそこらの毒虫ども出て、子どもをもさしくひ、女をばさしころしてけり。+さて十日ばりありて、このども来たれば、悦び。「口に物やくはへたる」見るに、杓(ひさこ)種を一つづつみな落し往ぬ。さればよくてりて、三つ所に急ぎ植ゑけり。
  
-雀の腰をうちおられて「ねたし」と、思て、万のむしどをかたらひて、たりける也隣の雀は、腰おれて、からすの食ぬべなひけたれば「うれし」と、ひけるなり。+例よりするすると生立ちて、いみじく大きになりたり。これは、多くもならず。七・八ぞなりたる。女、笑みまげて見て、子どもに言ふやう、「『はかしきこと、しいでず』と言ひかど、われはこの隣の女にはまさりなん」と言へば「げに、さあらん」と思ひたり。
  
-されば、物うらやみはすまじき事也+これは数(かず)の少なければ、「米多く取らん」とて、人にも食はせず、われも食はず。子どもが言ふやう、「隣の女は、里隣の人にも食はせ、われも食ひなどこそせしか。これは、まして三つが種なり。われも人にも食はせらるべきなり」と言へば、「も」と思ひて、「近き隣の人にも食はせ、わも、子どもにも、もろともに食はせん」とて、おほらかに煮て食ふに、苦きこと、物にも似ず。黄蘗(きはだ)などのやうにて、心地まどふ。食ひと食ひたる人々も、子どもも、われも、ものを吐(つ)きてまどふほどに、隣の人どもも、みな心地を損じて、来集まりて、「こはいかなる物を食はせつるぞ。あな恐し。つゆかりけぶんの口に寄りたるものも、ものを吐きまどひあひて、死ぬべくこそあれ」と腹だちて、「言ひ責ためん」と思ひて来たれば、主(ぬし)の女を始めて、子どもも、みな思えず、吐き散らして臥せりあひたり。いふかひなくて、とも帰りぬ。 
 + 
 +二・三日も過ぎぬれば、誰々(たれたれ)も心地直りにたり。女、思ふやう、「みな米にならんとしけるものを、急ぎて食ひたれば、かく怪しかりけるなめり」と思ひて、残りをば、みな釣り付けて置きたり。 
 + 
 +さて、月ごろ経て、「今はよくなりぬらん」とて、移し入れん料(れう)の桶ども具して、部屋に入る。嬉しければ、歯も無き口して、耳のもとまで一人笑みして、桶を寄せて移しければ、虻(あぶ)・蜂・むかで・とかげ・くちなはなど出でて、目鼻どもいはず、ひと身に取り付きて刺せども、女、痛さも思えず、ただ「米のこぼれかかるぞ」と思ひて、「しばし待ち給へ、雀よ。少しづつ取らん。少しづつ取らん」と言ふ。七つ・八つの杓(ひさこ)より、そこらの毒虫ども出でて、子どもをも刺し食ひ、女をば刺し殺してけり。 
 + 
 +雀の、腰を打ち折られて、「ねたし」と思ひて、万(よろづ)の虫どもを語らひて、入れたりけるなり。隣の雀は、もと腰折れて、烏の食ひぬべかりしを養ひ生けたれば、「嬉し」と思ひけるなり。 
 + 
 +されば、物羨(うらや)みはすまじきことなり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今はむかし春つかた日うららかなりけるに六十斗の女のありけるか 
 +  虫うちとりてゐたりけりるに庭に雀のしありきけるを童部石を 
 +  とりて打たれはあたりて腰をうちおられにけり羽をふためかし/53ウy110 
 + 
 +  てまとふ程にからすのかけりありきけれはあな心うからすとりてんと 
 +  て此女いそきとりていきしかけなとして物くはす小桶に入てよるはおさ 
 +  む明れはこめくはせ銅薬にこそけてくはせなとすれは子とも孫 
 +  なとあはれ女なとしは老て雀かはるるとてにくみわらふかくて月比よ 
 +  くつくろへはやうやうおとりありくすすめのこころにもかくやしなひい 
 +  けたるをいみしくうれしうれしと思けりあからさまに物へいくとても 
 +  人に此すすめみよ物くはせよなといひ置けれは子まこなとあは 
 +  れなむてう雀かはるるとてにくみわらへともさはれいとおしけれは 
 +  とて飼ほとに飛ほとに成にけり今はよも烏にとられしとて外に 
 +  いてて手にすへて飛やするみんとてささけたれはふらふらととひて 
 +  いぬ女おほくの月比日比くるれはおさめ明れは物くはせならひ 
 +  てあはれや飛ていぬるよまた来やするとみんなとつれつれに思 
 +  ていひけれは人にわらはれけりさて廿日はかりになりて此女のゐ/54オy111 
 + 
 +  たる方にすすめのいたくなく声しけれはすすめこそいたく鳴くなれ 
 +  ありし雀のくるにやあらんとおもひていててみれは此雀也あはれに 
 +  わすれす来たるこそあはれなれといふほとに女の顔を打見て口 
 +  より露斗の物をおとしをくやうにして飛ひていぬ女なににかあらむ 
 +  雀のおとしていぬる物はとてよりて見れはひさこのたねをたた一おと 
 +  してをきたりもてきたる様こそあらめとてとりてもちたりあな 
 +  いみし雀の物えて宝にし給とて子ともわらへはさはれ植て見んとて 
 +  うへたれは秋になるままにいみしくおほくおいひろこりてなへての杓 
 +  にもにす大におほくなりたり女悦けうして里隣の人々もくはせ 
 +  とれにもとれにもつきもせすおほかりわらひし子孫もこれをあけ 
 +  くれ食てあり一里くはりなとしてはてにはまことにすくれて 
 +  大なる七八はひさこにせんと思て内につりつけてを 
 +  きたりさて月比へて今はよく成ぬらんとてみれはよくな/54ウy112 
 + 
 +  りにけりとりおろして口あけんとするにすこしをもしあやしけ 
 +  れともきりあけてみれは物ひとはた入たりなににかあるらんとて 
 +  うつしてみれは白米の入たる也思かけすあさましとおもひて大なる 
 +  物にみなうつしたるにおなしやうに入てあれはたたことにはあ 
 +  らさりけり雀のしたるにこそとあさましくうれしけれは物に 
 +  入てかくしをきてのこりの杓ともをみれはおなしやうに入て 
 +  ありこれをうつしうつしつかへはせんかたなく多かりさてまことに 
 +  たのしき人にそなりにける隣里の人も見あさみいみしき 
 +  事にうらやみけり此隣にありける女の子とものいふやうお 
 +  なし事なれと人はかくこそあれはかはかしき事もえしいて給 
 +  はぬなといはれて隣の女此女なのもとにきたりてさてもさてもこは 
 +  いかなりし事そ雀のなとはほのきけとよくはえしらねはもとあり 
 +  けんままにの給へといへはひさこのたねを一おとしたりし植たりし/55オy113 
 + 
 +  よりある事也とてこまかにもいはぬを猶ありのままにこまかにの 
 +  たまへとせつにとへは心せはくかくすへき事かはと思てかうかうこし 
 +  おれたる雀のありしを飼生たりしをうれしと思けるにや杓の種を 
 +  一もちて来りしをうへたれはかくなりたる也といへはそのたねたた一たへ 
 +  といへはそれに入たる米なとはまいらせん種はあるへきことにもあらす 
 +  さらにえなんちらすましとてとらせねは我もいかて腰おれたらん雀 
 +  見付てかはんとおもひて目をたててみれとこし折たる雀更にみえ 
 +  すつとめてことにうかかひみれはせとのかたに米のちりたるを食とて雀 
 +  のおとりありくを石をとりてもしやとてうてはあまたの中に 
 +  度々うてはをのつからうちあてられてえとはぬあり悦てよりて腰 
 +  よくうち折て後に取て物くはせ薬くはせなとして置たり一か徳を 
 +  たにこそみれましてあまたならはいかにたのしからんあの隣の女 
 +  にはまさりて子ともにほめられんと思て此内に米まきて/55ウy114 
 + 
 +  うかかひゐたれは雀ともあつまりて食にきたれは又うちうちしけれは 
 +  三打折ぬいまはかはかりにてありなんと思て腰折たる雀三斗 
 +  桶に取入て銅こそけてくはせなとして月比ふるほとにみなよく 
 +  成にたれは悦てとに取出たれはふらふらと飛てみないぬいみしき 
 +  わさしつとおもふ雀は腰うちおられてかく月比こめをきたるをよ 
 +  にねたしとおもひけりさて十日斗ありて此雀ともきたれは 
 +  悦てまつ口に物やくはへたるとみるにひさこのたねを一つつみ 
 +  なをとしていぬされはよとうれしくてとりて三ところにいそ 
 +  き植てけりれいよりもするすると生たちていみしく大になり 
 +  たりこれはいとおほくもならす七八そなりたる女えみまけて 
 +  みて子ともにいふやうはかはかしき事しいてすといひしかと我は 
 +  この隣の女にはまさりなんといへはけにさもあらなんとおもひたり 
 +  これはかすのすくなけれは米おほくとらんとてひとにもくはせす/56オy115 
 + 
 +  我もくはす子ともかいふやう隣の女なは里となりの人にも 
 +  くはせ我もくひなとこそせしかこれはまして三か種なり我も人 
 +  にもくはせらるへきなりといへはさもと思てちかき隣の人にもくは 
 +  せ我も子ともにももろともにくはせんとておほらかににてくふ 
 +  ににかき事物にもにすきわたなとのやうにて心ちまとふくひ 
 +  とくひたる人々も子ともも我も物をつきてまとふ程に隣の 
 +  人とももみな心ちをそんしてきあつまりてこはいかなる物をくはせ 
 +  つるそあなおそろし露斗けふんの口によりたるものもものをつき 
 +  まとひあひてしぬへくこそあれと腹たちていひせためんとお 
 +  もひてきたれはぬしの女をはしめて子とももみな物おほえすつき 
 +  ちらしてふせりあひたりいふかひなくてとも帰ぬ二三日もすき 
 +  ぬれはたれたれも心ちなをりにたり女おもふやうみな米に 
 +  ならんとしける物をいそきてくひたれはかくあやしかりけるなめり/56ウy116 
 + 
 +  と思てのこりをはみなつりつけてをきたりさて月比へて今 
 +  はよく成りぬらんとてうつしいれんれうの桶ともくしてへやに入 
 +  うれしけれははもなき口してみみのもとまてひとりえみして 
 +  桶をよせてうつしけれはあふはちむかてとかけくちなはなと 
 +  いてて目はなともいはすひと身にとりつきてさせとも 
 +  女いたさもおほえすたたこめのこほれかかるそと思てしはし 
 +  まち給へ雀よすこしつつとらんすこしつつとらんといふ七八のひさこより 
 +  そこらの毒虫とも出て子ともをもさしくひ女をはさしころ 
 +  してけり雀の腰をうちおられてねたしと思て万のむし 
 +  ともをかたらひて入たりける也隣の雀はもと腰おれてからす 
 +  の食ぬへかりしをやしなひいけたれはうれしとおもひけるなり 
 +  されは物うらやみはすましき事也/57オy117
  
text/yomeiuji/uji048.txt · 最終更新: 2018/03/08 21:21 by Satoshi Nakagawa