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text:yomeiuji:uji045 [2014/04/08 18:47] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji045 [2017/12/21 01:51] (現在) Satoshi Nakagawa
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 +宇治拾遺物語
 ====== 第45話(巻3・第13話) 因幡国別当、地蔵作差す事====== ====== 第45話(巻3・第13話) 因幡国別当、地蔵作差す事======
  
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 **因幡国別当、地蔵作差す事** **因幡国別当、地蔵作差す事**
  
-これも今はむかし、因幡国たかくさの郡、さ〈か〉の里に、伽藍あり。こくりう寺となづく。此国の前の国司ちかなが造れるなり。+===== 校訂本文 =====
  
-に年老たるたるたりつたへていはく、+今は昔因幡国かくさの郡さかの里に、伽藍あ。国隆寺(こりうじ)と名付く。この国の前の国司ちかなが造れるなり。
  
-此寺に別当ありき。家に仏師をよびて地蔵をつくらするほどに、別当が妻、こと男にからはれて後をくらうし失せぬ。別当、心をまどして仏の事をも仏師をもしらで、里村に手をわかちて尋もとむるあひだ、七八日をへぬ。+そこに、年老いる者語り伝へ
  
-仏師ども旦那うしなひて、あふぎて、いたづしてゐたりその寺の専法師これをみて善心をおこして、くい物求て仏師にくはせてわづか地蔵の木作ばりをしたてまつりて、さい色やうらくばえせず+この寺に別当ありき。家に仏師を呼びて、地蔵作らするほどに、別当が妻、こと男に語らはれて、して失せぬ当、心を惑はして、仏のことも、仏師をも知らで里村手を分て、尋ね求むる間七・八日経ぬ
  
-そののち、此専当法病付て命終ぬ。妻子かなしみ泣て、棺に入ながら、捨ずして置て猶これみるに六日といふ日のひつじばかりにはかに此棺はたらく。みる人、おぢおそれて逃さりぬ+仏師ども、旦那を失なひて、空をあふぎて、手をいたづらにして居たり。そのの専当法これを見て、善心をおこして、食ひ物求めて仏師に食はせ、わづかに地蔵木作りばかりをし奉りて彩色、瓔珞(やうらく)をばえせず
  
-妻、泣かなしみて、あけてみば、法師よみへりて、やうやうほどへ冥途物がたり+その後、この専当法師、病付きて、命終りぬ。しみ泣きて、棺に入ら、捨てずして置きて、なほこれ見るに、死に六日といふ日、未の時ばかりに、にはかにこの棺はらく。見る人、怖ぢ恐れて逃げ去
  
-「大なる鬼、二人きたりて、我をとらへて追たててひろき野を行にしろききぬたる僧いきてこの法師とくゆるせ我は地蔵菩薩也因幡国のこくりうにてわれを造し僧なり仏師等食物なくて日比へしに此法((法は傍書))信心を致して食物をもとめて仏師等を供養して像をつくらしめたりこの恩わすれたし必ゆるすき物なりとのたまふ程に鬼共ゆるしおはりぬねんろに道をしへてかへしつとみていきかへりたる也といふ+妻、泣き悲しみて、開けて、見れば、法師、よみがへりて、水を口に入る。やうやう、ほど経て冥途の物語す。 
 + 
 +「大なる鬼、二人来たりて、われを捕へて、追ひ立てて、広野を行くに、白き衣(きぬ)着る僧出できて、『鬼ども、この法師、とく許せ。われは地蔵菩薩な。因幡国の国隆寺にて、われを造りし僧なり。仏師等、食物なくて、日ごろ経しに、この法師、信心を致して、食物を求めて、仏師等を供養して、わが像を作らしめたり。この恩、忘れがたし。必ず許すべきものなり』とのたまふほどに、鬼ども、許しおはりぬ。ねんごろに道教へて、帰しつと見て、生き返りたるなり」と言ふ。 
 + 
 +その後、この地蔵菩薩を妻子ども彩色し、供養し奉りて、長く帰依し奉りける。今、この寺におはします。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  これも今はむかし因幡国たかくさの郡さかの里に伽藍あ 
 +  りこくりう寺となつく此国の前の国司ちかなか造れるなり 
 +  そこに年老たるものかたりつたへていはく此寺に別当ありき家 
 +  に仏師をよひて地蔵をつくらするほとに別当か妻こと男に 
 +  かたらはれて後をくらうして失せぬ別当心をまとはして仏の事 
 +  をも仏師をもしらて里村に手をわかちて尋もとむるあひた 
 +  七八日をへぬ仏師とも旦那をうしなひて空をあふきて手を 
 +  いたつらにしてゐたりその寺の専当法師これをみて善心をおこし 
 +  てくい物を求て仏師にくはせてわつかに地蔵の木作はかりをし 
 +  たてまつりてさい色やうらくをはえせすそののち此専当法し病 
 +  付て命終ぬ妻子かなしみ泣て棺に入なから捨すして置て 
 +  猶これをみるに死て六日といふ日のひつしの時はかりににはかに此/50ウy104 
 + 
 +  棺はたらくみる人おちおそれて逃さりぬ妻泣かなしみてあけて 
 +  みれは法師よみかへりて水を口に入やうやうほとへて冥途の物 
 +  かたりす大なる鬼二人きたりて我をとらへて追たててひろき野を 
 +  行にしろききぬたる僧いきて鬼もこの法師とく 
 +  ゆるせ我は地蔵菩薩也因幡国のこくりうにてわれを造し 
 +  僧なり仏師等食物なくて日比へしに此法師信心を致して食 
 +  物をもとめて仏師等を供養してわ像をつくらしめたり 
 +  この恩わすれたし必ゆるすき物なりとのたまふ程に鬼 
 +  共ゆるしおはりぬねんろに道をしへてかへしつとみていきか 
 +  へりたる也といふ其後此地蔵菩薩を妻子とも彩色し供養 
 +  したてまつりてなかく帰依したてまつりけるいまこの寺におはします/51オy105
  
-其後、此地蔵菩薩を妻子ども彩色し、供養したてまつりて、ながく帰依したてまつりける。いま、この寺におはします。 
text/yomeiuji/uji045.txt · 最終更新: 2017/12/21 01:51 by Satoshi Nakagawa