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text:yomeiuji:uji026 [2015/01/31 01:46] – [第26話(巻2・第8話)晴明、蔵人少将を封ずる事] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji026 [2017/11/18 17:34] Satoshi Nakagawa
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 **晴明、蔵人少将を封ずる事** **晴明、蔵人少将を封ずる事**
  
-むかし晴明、陣にまいりたりけるに、さきやかにはせて、殿上人のまいりけるをれば、蔵人の少将とて、まだわかやかなる人の、みめまことにきよげにて車よりりて、内にまいりたりけるに、この少将のうへに烏の飛びてとほりけるが、ゑどをしかけけるを、晴明、きとて「あはれ世にもあひ、年などもわかくてみめもよき人にこそあんめれ。しきううてけるにか。このからすしき神にこそけれ」とおもふに、べくて少将のくべき報やありけん、いとしう晴明がえて、少将のそばへあゆりて「御前へまいらせ給か。さかしく申すやうなれども、なにまいらせたまふ。殿は今夜えぐさせ給はじとみたてまつるぞ。べくてのれにはえさせ給るなり。いざさせ給へ。ん」とて、ひとつ車にりければ、少将わななきて「あさましき事哉。さらばたすけ給へ」とて、ひとつ車に乗て少将の里へでぬ。+昔、晴明((安倍晴明))、陣にりたりけるに、前(さき)はなやかにはせて、殿上人のりけるをれば、蔵人の少将とて、まだはなやかなる人の、見目(みめ)まことにげにて車よりりて、内にりたりけるほどに、この少将のに烏の飛びてりけるが、穢土(ゑど)をしかけけるを、晴明、きと「あはれ世にもあひ、年などもくて見目もよき人にこそあんめれ。てけるにか。この神にこそありけれ」とふに、しかるべくて、この少将のくべき報やありけん、いとしう晴明がえて、少将のそばへりて「御前へらせ給か。さかしく申すやうなれども、らせふ。殿は今夜えぐさせ給はじと見奉るぞ。しかるべくて、おのれにはえさせ給るなり。いざさせ給へ。ものん」とて、つ車にりければ、少将わななきて「あさましきことかな。さらば、助け給へ」とて、つ車に乗少将の里へでぬ。
  
-申の時にてありければ、かくでなどしつるに日も暮れぬ。晴明、少将をつといだきてみかためをし、なに事か「つぶつぶ」と夜一夜、いず、こゑたえもせず読みかせかぢしけり。秋の夜の長によくよくしたりければ、暁がたに戸を「はたはた」とたたきけるに「あれ人出してきかせ給へ」とてきかせければこの少将のあひ聟にて蔵人の五位のありけるも、おなじ家にあなたこなたにすへたりけるが、此少将をばよき聟とてかしづき、今ひとりをば、事の外に思おとしたりければ、ねたがりて陰陽師をかたらひて、しきをふせたりける也+申の時ばかりことにてありければ、かくでなどしつるほど日も暮れぬ。晴明、少将をつと抱(いだ)きて、身固めをし、また何ごとか、「つぶつぶ」と夜一夜、いもず、声絶えもせず読みかせ加持しけり。
  
-さてその少将は死なんとけるを、清明が見付けて、夜一夜祈りたりければ、そのふせける陰陽師のもとよりのき「たに心まどひけるままに、よしくまもりつよかりける御ために仰そむかじとてふせ、すでにしき神へりてをのれただいましきにうてて死侍りぬ。すまじかりける事をして」といひける清明「これをきかせ給へ。夜部見付けまいらせざらましかば、かやうにそ候はまじ」いひて、そ使人をそへやてききければ陰陽師はやが死にけとぞいひける。+秋の夜の長きによくよくしたりければ、暁方に戸を、はたはたと叩きけるに、「あれ、出だしせ給へ」とて聞せければ、この少将聟にて、蔵人の五位のありけるも、同じ家に、たこなたに据ゑたりけるが、こ少将「良聟」とてかしき、今一人をば、ことの思ひおとしたりければ、ねたがりて、陰陽師を語らひ、式をふせたりけるなり
  
-しきふせさせける聟をば、しうとやがてをいすてけるとぞ。明には、なくなく悦ておほくの事もしてもあかずぞよろこける+さて、その少将は死なんとしけるを、晴明が見付けて、夜一夜、祈りたりければ、そのふせける陰陽師のもとより、人の来て、高やかに、「心のまどひけるままに、よしなく守り強かかりける人の御ために、『仰せを背かじ』とて、式ふせて、すでに式神返りて、おのれ、ただ今、式に打てて死に侍りぬ。すまじかりけることをして」と言ひけるを、晴明、「これを聞かせ給へ。夜べ、見付け参らせざらましかば、かやうにこそ候はまじ」と言ひて、その使に人をそへ、やりて聞きければ、「陰陽師はやがて死にけり」とぞ言ひける。 
 + 
 +しきふせさせける聟をば、舅(しうと)、やがて追ひ捨てけるとぞ。明には、泣く泣く喜びて、多くのことどもしても、飽かずぞ喜びける。 
 + 
 +誰(たれ)とは覚えず。大納言までなり給ひけるとぞ。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  むかし晴明陣にまいりたりけるにさき花やかにをはせて殿上人の 
 +  まいりけるをみれは蔵人の少将とてまたわかく花やかなる人のみ 
 +  めまことにきよけにて車よりおりて内にまいりたりける程にこ 
 +  の少将のうへに烏の飛ひてとほりけるかゑとをしかけけるを晴明き 
 +  とみてあはれ世にもあひ年なともわかくてみめもよき人にこそあん 
 +  めれしきにうてけるにかこのからすはしき神にこそ有けれとおもふに 
 +  然へくて此少将のいくへき報やありけんいとおしう晴明か覚えて少将 
 +  のそはへあゆみよりて御前へまいらせ給かさかしく申やうなれともな 
 +  にかまいらせたまふ殿は今夜えすくさせ給はしとみたてまつるそ然 
 +  へくてをのれにはみえさせ給へるなりいささせ給へ物心みんとてひとつ 
 +  車にのりけれは少将わななきてあさましき事哉さらはたすけ給 
 +  へとてひとつ車に乗て少将の里へいてぬ申の時斗の事にてあり/32ウy68 
 + 
 +  けれはかくいてなとしつる程に日も暮れぬ晴明少将をつといたきて 
 +  みかためをし又なに事かつふつふと夜一夜いもねすこゑたえもせす 
 +  読みきかせかちしけり秋の夜の長によくよくしたりけれは暁かたに戸 
 +  をはたはたとたたきけるにあれ人出してきかせ給へとてきかせけれは 
 +  この少将のあひ聟にて蔵人の五位のありけるもおなし家にあ 
 +  なたこなたにすへたりけるか此少将をはよき聟とてかしつき今 
 +  ひとりをは事の外に思おとしたりけれはねたかりて陰陽師をかた 
 +  らひてしきをふせたりける也さてその少将は死なんとしけるを晴明 
 +  か見付けて夜一夜祈たりけれはそのふせける陰陽師のもとより人の 
 +  きてたかやかに心のまとひけるままによしなくまもりつよかりける人の御た 
 +  めに仰をそむかしとてしきふせてすてにしき神かへりてをのれ 
 +  たたいましきにうてて死侍りぬすましかりける事をしてといひけるを 
 +  晴明これをきかせ給へ夜部見付けまいらせさらましかはかやうにこそ候は/33オy69 
 + 
 +  ましといひてその使に人をそへやりてききけれは陰陽師はや 
 +  かて死にけりとそいひけるしきふせさせける聟をはしうとやかてをい 
 +  すてけるとそ晴明にはなくなく悦ておほくの事もしてもあかす 
 +  そよろこけるたれとはおほえす大納言まてなり給けるとそ/33ウy70
  
-たれとはおぼへず。大納言までなり給けるとぞ。 
text/yomeiuji/uji026.txt · 最終更新: 2017/12/20 23:59 by Satoshi Nakagawa