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text:yomeiuji:uji022 [2016/05/22 12:29] – [第22話(巻2・第4話)金峰山薄打の事] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji022 [2017/12/20 23:57] (現在) – [第22話(巻2・第4話)金峰山薄打の事] Satoshi Nakagawa
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 **金峰山薄打の事** **金峰山薄打の事**
  
-今は昔、七条にはくうちあり。みたけまうでしけり。まひりて、かなくずれをゆいてみれば、誠の金のやうにてありけり。うれしく思ひて件の金を取てそでにつつみて、家に帰ぬ。+===== 校訂本文 =====
  
-おろして見れば、きらきらして誠の金りければ、ふしぎの事也「此金をとるは、神なり地振雨ふりなどしてすこしもえとらなるに、これはさる事もなし。此のちもこの金をりて、世中をすぐべし」とうれしくてはかりかけみれば十八両ぞあける+今は昔、七条に薄打(はくうち)あり。御嶽((吉野の金峰山))詣でけり。参りて、金崩(かなくづ)れをゆいて見れば、まことの金のやうにてありけく思ひ、件(くだ)の金をりて、包みて、家に帰
  
-をはくにうつに七八千枚にうちつ。これをまろげてん人もが」と思てしく持たに、検非違使な「『東寺仏造らん』とて、おほく買んといふ」と、つぐる物ありけり。悦ふところにさし入て行ぬ+おろして見きらきらとして、まとの金なりけば、不思議のことり。この金を取る、神鳴り、地震、雨降りどし、少もえ取ざんなるに、これはさこともなし。こ後(ち)も、この金を取りて、世の中過ぐべし」と嬉しくてはかにかけてみれば、十八両ぞありける
  
-やめす」といひければ「いら斗持たるぞ」と問ければ、「七八千枚ばかり候」と、いひければ「持てまひりたるか」と、いへば「候」とて、懐より紙につつみたるを取出したりば、やれず、ひ色いじかりければ「ひろげてかぞえん」とて、みれいさき文字て「金御嶽金御嶽」とことごとくかかれたり。心もえで此かきつけはれう書付ぞ」とへば、薄打「書付も候はず。何のれうのかきつけかは候はんといへば「げんにあり。これをみよ」とてみすに、薄打みればまことにあり。「あさましき事哉」思て口もえあかず。検非違使「れはただ事あらず。やうあるべし」とて、友をよびぐして、金をばかどのおにもたせて、薄うちぐして大理のもとへまひりぬ。+これを(は)に打つに、七八千枚に打ちつ。「こをまげて、みな買は人もがな」と思ひて、らく持たるほどに、「検非違使る人、『東寺仏、造らん』、薄を多く買はんとい」と告ぐりけり。悦びて、懐(ふところ)にさし入れ行きぬ。
  
-件のどもを語つれば、別当おろきてはやく河原にいて行てとへいはれければ、検非違使も河原に行てよせはしりたてて身をはたらかさぬやうにはりつけて七十度のかうしをへければ、せなかは紅のねりひとへを水にぬらしてきせたるやうにみさみさと成てありけるをかさねて獄に入たりければ、僅に二十日斗ありて死にけり薄をば、金峯山に返してもとの所にをきけるとかたりつたへたり+「薄や召す」と言ひければ、「いくらばかり持ちたるぞ」と問ひければ、「七・八千枚ばかり候ふ」と言ひければ、「持ちて参りたるか」と言へば、「候ふ」とて、懐より紙に包みたるを取り出だしたり。 
 + 
 +見れば、破れず広く、色いみじかりければ、「広げて数へん」とて見れば、小さき文字にて、「金御嶽、金御嶽」と、ことごとく書かれたり。心も得で、「この書き付けはなにの料の書き付けぞ」と問へば、薄打、「書き付けも候はず。何の料の書き付けは候はん」と言へば、「現にあり。これを見よ」とて見するに、薄打、見れば、まことにあり。「あさましきことかな」と思ひて、口もえ開かず。検非違使、「これはただごとにあらず。やうあるべし」とて、友を呼び具して、金をば看督長(かどのおさ)に持たせて、薄打具して、大理((検非違使別当))のもとへ参りぬ。 
 + 
 +件のことどもを語り奉れば、別当、驚き、「早く、河原に率て行きて問へ」と言はれければ、検非違使ども、河原に行て、よせばし((「寄柱」か。))掘り立てて、身をはたらかさぬやうにはりけて、七十度のかうじ終へければ、背中は紅の練単衣(ねりひとへ)を水に濡らして着せたるやうに、みさみさとなりてありけるを、重ねて獄に入れたりければ、わづかに二十日ばかりありて死にけり。薄をば金峯山に返して、もとの所に置きけると、語り伝へたり。 
 + 
 +それよりして、人怖ぢて、いよいよ件の金取らんと思ふ人なし。あな恐し。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今は昔七条にはくうちありみたけまうてしけりまいりてかなくす 
 +  れをゆいてみれは誠の金のやうにてありけりうれしく思ひて件の金/26オy55 
 + 
 +  を取てそてにつつみて家に帰ぬおろして見れはきらきらとして誠 
 +  の金なりけれはふしきの事也此金をとるは神なり地振雨ふりなとして 
 +  すこしもえとらさんなるにこれはさる事もなし此のちもこの金をとり 
 +  て世中をすくへしとうれしくてはかりにかけてみれは十八両そありける 
 +  これをはくにうつに七八千枚にうちつこれをまろけてみなかはん人も 
 +  かなと思てしはらく持たる程に検非違使なる人の東寺の仏造 
 +  らんとて薄をおほく買んといふとつくる物ありけり悦てふところに 
 +  さし入て行ぬ薄やめすといひけれはいくら斗持たるそと問けれは七八 
 +  千枚はかり候といひけれは持てまひりたるかといへは候とて懐より紙に 
 +  つつみたるを取出したりみれはやれすひろく色いみしかりけれはひろけて 
 +  かそえんとてみれはちいさき文字にて金御嶽金御嶽とことことく 
 +  かかれたり心もえて此かきつけはなにのれうの書付そととへは薄打書付も 
 +  候はす何のれうのかきつけかは候はんといへはけんにありこれをみよとてみするに/26ウy56 
 + 
 +  薄打みれはまことにありあさましき事哉と思て口もえあかす検 
 +  非違使これはたた事にあらすやうあるへしとて友をよひくして金をは 
 +  かとのおさにもたせて薄うちくして大理のもとへまひりぬ件の事 
 +  ともを語たてまつれは別当おろきてはやく河原にいて行て 
 +  とへといはれけれ検非違使も河原に行てよせはしりたてて身を 
 +  はたらかさぬやうにはりつけて七十度のかうしをへけれせなかは紅の 
 +  ねりひとへを水にぬらしてきせたるやうにみさみさと成てありけるをか 
 +  さねて獄に入たりけれ僅に二十日斗ありて死にけり薄を 
 +  峯山に返してもとの所にをきけるとかたりつたへたりそれよりして 
 +  人をちていよいよ件の金とらんとおもふ人なしあなおそろし/27オy57
  
-それよりして、人をじて、いよいよ件の金とらんとおもふ人なし。あなおそろし。 
text/yomeiuji/uji022.txt · 最終更新: 2017/12/20 23:57 by Satoshi Nakagawa