text:yomeiuji:uji019
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text:yomeiuji:uji019 [2017/11/02 19:19] – Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji019 [2017/12/20 23:56] (現在) – [第19話(巻2・第1話)清徳聖、奇特の事] Satoshi Nakagawa | ||
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**清徳聖、奇特の事** | **清徳聖、奇特の事** | ||
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+ | ===== 校訂本文 ===== | ||
今は昔、清徳聖(せいとくひじり)といふ聖のありけるが、母の死にたりければ、棺(ひつぎ)にうち入れて、ただ一人、愛宕の山に持(も)て行きて、大きなる石を四つの隅(すみ)に置きて、その上にこの棺をうち置きて、千手陀羅尼を片時休む時もなく、うち寝(ぬ)ることもせず、物も食はず、湯水も飲まで、声絶(こはだ)えもせず、誦し奉りて、この棺をめぐること、三年になりぬ。 | 今は昔、清徳聖(せいとくひじり)といふ聖のありけるが、母の死にたりければ、棺(ひつぎ)にうち入れて、ただ一人、愛宕の山に持(も)て行きて、大きなる石を四つの隅(すみ)に置きて、その上にこの棺をうち置きて、千手陀羅尼を片時休む時もなく、うち寝(ぬ)ることもせず、物も食はず、湯水も飲まで、声絶(こはだ)えもせず、誦し奉りて、この棺をめぐること、三年になりぬ。 | ||
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「さればこそ、ただ人にはあらざりけり。仏などの変じて歩(あり)き給にや」と思しけり。こと人の目には、ただ聖一人して食ふとのみ見えければ、いといとあさましきことに思ひけり。 | 「さればこそ、ただ人にはあらざりけり。仏などの変じて歩(あり)き給にや」と思しけり。こと人の目には、ただ聖一人して食ふとのみ見えければ、いといとあさましきことに思ひけり。 | ||
- | さて、出でて行くほどに、四条の北なる小路に、ゑどをまる。この後(しり)に具したるもの、し散らしたれば、ただ墨のやうに黒きゑどを、ひまもなく((底本「ひまもなし」。諸本により訂正。))、はるばるとし散らしたれば、下種なども汚ながりて、その小路を「糞の小路」と付けたりけるを、御門((村上天皇))、聞かせ給ひて、「その四条の南をば、何といふ」と問はせ給ひければ、「綾小路となん申すす」と申しければ、「さらば、これをば錦小路と言へかし。あまり汚なき名かな」と仰せられけるよりしてぞ、錦小路とは言ひける。 | + | さて、出でて行くほどに、四条の北なる小路に、穢土(ゑど)をまる。この後(しり)に具したるもの、し散らしたれば、ただ墨のやうに黒きゑどを、ひまもなく((底本「ひまもなし」。諸本により訂正。))、はるばるとし散らしたれば、下種なども汚ながりて、その小路を「糞の小路」と付けたりけるを、御門((村上天皇))、聞かせ給ひて、「その四条の南をば、何といふ」と問はせ給ひければ、「綾小路となん申すす」と申しければ、「さらば、これをば錦小路と言へかし。あまり汚なき名かな」と仰せられけるよりしてぞ、錦小路とは言ひける。 |
===== 翻刻 ===== | ===== 翻刻 ===== |
text/yomeiuji/uji019.txt · 最終更新: 2017/12/20 23:56 by Satoshi Nakagawa