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text:yomeiuji:uji017 [2014/09/27 17:20] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji017 [2017/10/25 21:30] Satoshi Nakagawa
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 **修行者、百鬼夜行に逢ふ事** **修行者、百鬼夜行に逢ふ事**
  
-今は昔、修行者のけるが、津国まできたりけるに、日暮てりうせん寺とて、大きなる寺のふりたるが、人もなきけり。これは人やどらぬ所といへども、あたりに又やどるべき所もなかりければ、如何せん」と思て負おろして内に入てたり。+今は昔、修行者のありけるが、津国まできたりけるに、日暮りうせん寺とて、大きなる寺の古()りたるが、人もなきありけり。これは人宿らぬ所といへども、そのあたりに、また宿るべき所もなかりければ、「いかがせん」と思ひうちおろして内に入たり。
  
-不動の呪をとなへてたるに「夜中にやぬらん」と思に、人の声、あまたしてをとす。れば手ごとに火をともして、人百人斗此堂の内にきつどひたり。近くてみれば、目一つつきたりなど様々なり。人にもあらず、あさましき物どもなりけり。或は角おひたり。頭もえもいはずおそろしげなる物ども也。「おそろし」と思へども、すべき様もなくてゐたれば、をのをのみなゐぬ+不動の呪をへてたるに「夜中ばかりにやなりぬらん」と思ふほどに、人の声、あまたしてす。れば手ごとに火をして、人百人ばかり、この堂の内に来集(きつど)ひたり。
  
-ひとりぞ、また所もなくて、えゐずして火を打ふりて我をらつらとみていふやう「我ゐるべ座に、あらしき不動尊こそゐ給今夜斗外におはせ」と片手して我を引さげて、下にすへつ+くて見れば目一たりなど様々なり。人にもあらず、あさましき物どもなりけり。あるいは角生ひ頭もえもいず恐しげなる物どもなり。「恐ろし」と思へどもすべきやうもなく居たればをの、みな居ぬ
  
-さる程に暁にりぬとて、此人々ののしりて帰ぬ。あさまく、おろしかりける所かなとくの明よし。いなん」と、思ふにからうじ夜明たり+一人ぞ、また所もて、え居ずして火をうち振りて、われをつらつらと見て言ふやう、わが居るべき座、新き不動尊こ居給ひたれりは、外におはせ」と片手してわれを引き下げ、堂の軒の下に据ゑつ
  
-うちみまはしたればりし寺もなしはるばるとある野の来しかたもみえず。人のふみ分た道もみえず。行べきたもなければ「あさまし」と思ひてゐたる程まれまれ馬に乗たる人どもの人あまたぐし出きたり。+さるほどに「暁になぬ」とて、この人々、ののりて帰りぬ「まこさましく、恐ろしかりけかな。とく夜の明よか。往なん」と思に、からうじ夜明けたり。
  
-いとうれしくて「ここはいづくとか申」と、とへば「などかくは問給ぞ。肥前国ぞかし」と、いへば「あさましきわざ」と思て、事のやうくはしくいゑば、この馬なる人もいとけうの事かな肥前国にとりても是はおくの郡なり是はみたちへまいるなりいへば、修行者悦て道も知候はぬにさら道迄もまいらんいひていきければ、「是より京へ行き道ど、をしへければ、ふねたねて京へのりにけり+うち見回したれば、ありし寺もなし、はるばるとある野の、来し方も見えず。人の踏み分けたる道も見えず。行くべき方もなければ、「あさまし」と思ひて居たるほどに、まれまれ馬に乗りたる人どもの、人、あまた具して出で来たり。 
 + 
 +いとうれしくて「ここはいづくとか申」とへば「などかくは問ぞ。肥前国ぞかし」とへば「あさましきわざかな」と思て、ことのやう、詳しく言へば、この馬なる人も、「いと希有のことかな。肥前国にとりても、これは奥の郡なり。これは御館(みたち)へ参るなり」と言へば、修行者、喜びて「道も知り候はぬに、さらば、道までも参らん」と言ひて行きければ、これより京へ行くべき道など教へければ、船尋ねて、京へ上りにけり。 
 + 
 +さて、人どもに、「かかるあさましきことこそありしか。津の国のりうせん寺といふ寺に宿りたりしを、鬼どもの来て、『所せばし』とて、『あたらしき不動尊、しばし雨だりにもおはしませ』と言ひて、かき抱(いだ)きて、雨だりについ据ゆと思ひしに、肥前国の奥の郡にこそ居たりしか。かかる、あさましきことにこそ、あひたりしか」とぞ、京に来て語りけるとぞ。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今は昔修行者の有けるか津国まていきたりけるに日暮てりうせん寺 
 +  とて大なる寺のふりたるか人もなき有けりこれは人やとらぬ所といへとも 
 +  其あたりに又やとるへき所もなかりけれは如何せんと思て負打おろして内に 
 +  入てゐたり不動の呪をとなへてゐたるに夜中斗にや成ぬらんと思程に人々/18オy39 
 + 
 +  の声あまたしてくるをとすみれは手ことに火をともして人百人斗 
 +  此堂の内にきつとひたり近くてみれは目一つつきたりなと様々なり人 
 +  にもあらすあさましき物ともなりけり或は角おひたり頭もえもいはす 
 +  おそろしけなる物とも也おそろしと思へともすへき様もなくてゐたれは 
 +  をのをのみなゐぬひとりそまた所もなくてえゐすして火を打ふりて 
 +  我をつらつらとみていふやう我ゐるへき座にあたらしき不動尊こそゐ給 
 +  たれ今夜斗は外におはせとて片手して我を引さけて堂の軒の下にすへ 
 +  つさる程に暁になりぬとて此人々ののしりて帰ぬ実にあさましくおそろし 
 +  かりける所かなとく夜の明よかしいなんと思ふにからうして夜明たりうち 
 +  みまはしたれはありし寺もなしはるはるとある野の来しかたもみえす人の 
 +  ふみ分たる道もみえす行へきかたもなけれはあさましと思ひてゐたる 
 +  程にまれまれ馬に乗たる人ともの人あまたくして出きたりいとうれ 
 +  しくてここはいつくとか申ととへはなとかくは問給そ肥前国そかしとい/18ウy40 
 + 
 +  へはあさましきわさ哉と思て事のやうくはしくいゑこの馬なる人もい 
 +  とけうの事かな肥前国にとりても是はおくの郡なり是はみたち 
 +  へまいるなりといへ修行者悦て道も知候はぬにさら道迄もまいらん 
 +  といひていきけれ是より京へ行き道なをしへけれふねた 
 +  て京へのりにけりさて人ともにかかるあさましき事こそありしか津 
 +  の国のりうせん寺といふてらにやとりたりしを鬼とものきて所せはし 
 +  とてあたらしき不動尊しはし雨たりにもおはしませといひてかきいたき 
 +  て雨たりについすゆと思しに肥前国奥の郡にこそゐたりしかかかる 
 +  浅猿き事にこそあひたりしかとそ京にきて語けるとそ/19オy41
  
-さて人どもに「かかるあさましき事こそありしか。津の国のりうせん寺といふてらにやどりたりしを、鬼どものきて、『所せばし』とて『あたらしき不動尊、しばし雨だりにもおはしませ』といひて、かきいだきて雨だりについすゆと思しに、肥前国奥の郡にこそゐたりし。かかる浅猿き事にこそあひたりしか」とぞ、京にきて語けるとぞ。 
text/yomeiuji/uji017.txt · 最終更新: 2017/12/20 23:56 by Satoshi Nakagawa