text:yomeiuji:uji012
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text:yomeiuji:uji012 [2014/09/27 17:18] – Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji012 [2017/10/21 16:40] – Satoshi Nakagawa | ||
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**児のかい餅するに空寝したる事** | **児のかい餅するに空寝したる事** | ||
- | 是も今はむかし、比叡の山に児ありけり。 | + | これも今は昔、比叡の山に児(ちご)ありけり。 |
- | 僧たち、よひのつれづれに「いざ、かひもちいせん」といひけるを、この児、心よせにききけり。さりとて「しいださんをまち、ねざらんもわろかりなん」と、思ひて、かたかたによりて寝たるよしにて出くるを待けるに、すでにしいだしいたるさまにてひしめきあひたり。 | + | 僧たち、宵のつれづれに、「いざ、かいもちひせん」と言ひけるを、この児、心寄せに聞きけり。「さりとて、し出ださんを待ち、寝ざらんも悪(わろ)かりなん」と思ひて、かたかたに寄りて、寝たるよしにて、出で来るを待ちけるに、すでにし出だしたるさまにて、ひしめきあひたり。 |
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+ | この児、「さだめて、おどろかさんずらん」と待ち居たるに、僧の、「もの申しさぶらはむ。おどろかせ給へ」と言ふを、「うれし」とは思へども、「ただ一度(いちど)にいらへんも、『待ちけるか』ともぞ思ふ」とて、「今一声呼ばれていらへん((「いらへん」は底本「いみへん」。諸本により訂正))」と念じて寝たるほどに、「や、な起こし奉りそ。幼き人は寝入り給ひにけり」と言ふ声のしければ、「あなわびし」と思ひて、「今一度起こせかし」と思ふほどに、聞けば、「ひしひし」と、ただ食ひに食ふ音のしければ、ずちなくて、無期(むご)の後に、「えい」といらへたりければ、僧達、笑ふこと限りなし。 | ||
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+ | ===== 翻刻 ===== | ||
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+ | 是も今はむかし比叡の山に児ありけり僧たちよひのつれつれに | ||
+ | いさかひもちいせんといひけるをこの児心よせにききけりさりとて | ||
+ | しいたさんをまちねさらんもわろかりなんと思ひてかたかたに | ||
+ | よりて寝たるよしにて出くるを待けるにすてにしいたしたるさま | ||
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+ | に僧の物申さふらはむおとろかせ給へといふをうれしとは思へとも | ||
+ | たた一とにいらへんも待けるかともそおもふとて今一こゑよはれて | ||
+ | いみへんと念してねたる程にやなおこしたてまつりそおさなき人は/15オy33 | ||
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+ | 寝入給にけりといふこゑのしけれはあなわひしとおもひて今一と | ||
+ | おこせかしと思程にきけはひしひしとたたくひにくふ音のしけ | ||
+ | れはすちなくてむこの後にえいといらへたりけれは僧達わらふ | ||
+ | 事かきりなし/15ウy34 | ||
- | 此児「定ておどろかさんずらん」と、待ゐたるに、僧の「物申さぶらはむ、おどろかせ給へ」といふを「うれし」とは思へども「ただ一どにいらへんも『待けるか』ともぞおもふ」とて、「今一こゑよばれていらへん」と念じてねたる程に「やなおこしたてまつりそ。おさなき人は寝入給にけりといふこゑのしければ「あなわびし」とおもひて「今一どおこせかし」と、思寝にきけば、「ひしひし」とただくひにくふ音のしければ、ずちなくて、むごの後に「えい」といらへたりければ、僧達わらふ事かぎりなし。 |
text/yomeiuji/uji012.txt · 最終更新: 2017/12/20 23:53 by Satoshi Nakagawa