text:yomeiuji:uji006
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text:yomeiuji:uji006 [2014/09/27 17:16] – Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji006 [2017/10/18 21:36] – Satoshi Nakagawa | ||
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**中納言師時、法師ノ玉茎検知の事** | **中納言師時、法師ノ玉茎検知の事** | ||
- | これもいまはむかし、中納言師時といふ人おはしけり。 | + | これも今は昔、中納言師時((源師時))といふ人、おはしけり。その御もとに、ことのほかに色黒き墨染の衣の短かきに、不動袈裟といふ袈裟かけて、木練子(もくれんじ)の念珠の大きなる、繰り下げたる聖法師、入り来て立てり。 |
- | その御もとに、ことのほかに色くろき墨染の衣のみじかきに、不動袈裟と[をヲケシテとトセリ]いふけさかけて、木練子の念珠の大きなるくりさげたる、聖法師入きてたてり。中納言「あれはなにする僧ぞ」と、尋らるるに、ことのほかにこゑをあはれげになして「かりの世はかなく候を、しのびがたくて、無始よりこのかた、生死に流転するは、せんずる所煩悩にひかへられて、今にかくてうき世を出やらぬにこそ。是を無益なりと思とりて、煩悩を切すてて、ひとへにこのたび生死のさかひを出なんと、思とりたる聖人に候」といふ。 | + | 中納言、「あれは何する僧ぞ」と、尋ねらるるに、ことのほかに声をあはれげになして、「仮の世、はかなく候ふを、しのびがたくて、無始(むし)よりこのかた、生死に流転するは、せんずる所、煩悩にひかへられて、今にかくて憂き世を出でやらぬにこそ。これを無益なりと思ひとりて、煩悩を切り捨てて、ひとへに、『この度(たび)、生死の境(さかひ)を出でなん』と思ひとりたる聖人に候ふ」と言ふ。中納言、「さて、『煩悩を切り捨つる』とは、いかに」と問へば、「くは、これを御覧ぜよ」と言ひて、衣の前をかき上げて見すれば、まことにまめやかのはなくて、髭(ひげ)ばかりあり。 |
- | 中納言「さて、『煩悩をきりすつる』とはいかに」と、問へば「くは、これを御らんぜよ」と、いひて、衣のまへをかきあげてみすれば、誠にまっめやかのはなくて、ひげばかりあり。 | + | 「こは、不思議の事かな」と見給ふほどに、下(しも)に下がりたる袋の、ことのほかに思えて、「人やある」と呼び給へば、侍、二・三人出で来たり。中納言、「その法師、引きはれ」とのたまへば、聖、まのしをして、阿弥陀仏申して「とくとく、いかにもし給へ」と言ひて、あはれげなる顔・気色(けしき)して、足をうち広げて、おろねぶりたるを、中納言、「足を引き広げよ」とのたまへば、二・三人寄りて、引き広げ、さて、小侍の十二・三ばかりなるがあるを召し出でて、「あの法師の股の上を、手を広げて上げ下しさすれ」とのたまへば、そのままに、ふくらかなる手して、上げ下しさする。 |
- | 「こはふしぎの事哉」と、み給程に、しもにさがりたるふくろの、事の外におぼえて「人やある」と、よび給へば、侍二三人いできたり。中納言「その法師ひきはれ」と、の給へば、ひじりまのしをして、あみだ仏申て「とくとく、いかにもし給へ」と、いひて、あはれげなるかほけしきして、足をうちひろげて、をろねぶりたるを、中納言「足を引[のきてト有ルヲ消ス]ひろげよ」と、のたまへば、二三人よりて引ひろげさして、小侍の十二三ばかりなるがあるをめしいでて「あの法しのまたのうへを、てをひろげてあげおろしさすれ」と、の給へば、そのままに、ふくらかなる手して、あげおろしさする。 | + | とばかりあるほどに、この聖、まのしをして、「今はさておはせ」と言ひけるを、中納言、「良げになりにたり。たださすれ。それそれ」とありければ、聖、「さま悪しく候ふ。今はさて」と言ふを、あやにくにさすり、ふせけるほどに、毛の中より、松茸の大きやかなる物の、ふらふらと出で来て、腹にすはすはと打ち付けたり。 |
- | とばかりある程に、この聖、まのしをして「いまはさておはせ」と、いひけるを、中納言「よげになりにたり。たださすれ。それそれ」と、ありければ、聖「さまあしく候。いまはさて」といふを、あやにくにさすりふせける程に、毛の中より、松茸のおほきやかなる物の、ふらふらといできて、腹にすはすはとうちつけ《た》り。 | + | 中納言を始めて、そこらに集ひたる者ども、もろ声に笑ふ。聖も手を打ちて、伏しまろび笑ひけり。 |
- | 中納言をはじめて、そこらにつどひたる物ども、もろこゑにわらふ。聖も、手をうちて、ふしまろびわらひけり。 | + | はやう、まめやか物を、下の袋へひねり入れて、続飯(そくい)にて毛を取付けて、さりげなくして、人を謀(はか)りて、物を乞はんとしたりけるなり。狂惑の法師にてありける。 |
- | はやう、まめやか物を、したのふくろへひねりいれて、そくいにて毛をとりつけて、さりげなくして、人をはかりて、物をこはんとしたりけるなり。 | + | ===== 翻刻 ===== |
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+ | これもいまはむかし中納言師時といふ人おはしけりその御もとに | ||
+ | ことのほかに色くろき墨染の衣のみしかきに不動袈裟と | ||
+ | いふけさかけて木練子の念珠の大きなるくりさけたる聖法師 | ||
+ | 入きてたてり中納言あれはなにする僧そと尋らるるにことのほかに | ||
+ | こゑをあはれけになしてかりの世はかなく候をしのひかたくて | ||
+ | 無始よりこのかた生死に流転するはせんする所煩悩にひかへられ | ||
+ | て今にかくてうき世を出やらぬにこそ是を無益なりと思とりて | ||
+ | 煩悩を切すててひとへにこのたひ生死のさかひを出なんと思とり | ||
+ | たる聖人に候といふ中納言さて煩悩をきりすつるとはいかにと問へはくは/10ウy24 | ||
+ | |||
+ | これを御らんせよといひて衣のまへをかきあけてみすれは誠 | ||
+ | にまめやかのはなくてひけはかりありこはふしきの事哉とみ給程に | ||
+ | しもにさかりたるふくろの事の外におほえて人やあるとよひ | ||
+ | 給へは侍二三人いてきたり中納言その法師ひきはれとの給へは | ||
+ | ひしりまのしをしてあみた仏申てとくとくいかにもし給へといひて | ||
+ | あはれけなるかほけしきして足をうちひろけてをろねふり | ||
+ | たるを中納言足を引ひろけよとのたまへは二三人よりて引 | ||
+ | ひろけさて小侍の十二三はかりなるかあるをめしいててあの法し | ||
+ | のまたのうへをてをひろけてあけおろしさすれとの給へはそ | ||
+ | のままにふくらかなる手してあけおろしさするとはかりある程 | ||
+ | にこの聖まのしをしていまはさておはせといひけるを中納言 | ||
+ | よけになりにたりたたさすれそれそれとありけれは聖さまあしく候 | ||
+ | いまはさてといふをあやにくにさすりふせける程に毛の中より松茸/11オy25 | ||
+ | |||
+ | のおほきやかなる物のふらふらといてきて腹にすはすはとうちつけ《た》り | ||
+ | 中納言をはしめてそこらにつとひたる物とももろこゑにわらふ聖も | ||
+ | 手をうちてふしまろひわらひけりはやうまめやか物をしたのふく | ||
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- | 狂惑の法師にてありける。 |
text/yomeiuji/uji006.txt · 最終更新: 2017/12/20 23:46 by Satoshi Nakagawa