text:yamato:u_yamato173
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text:yamato:u_yamato173 [2017/09/28 21:15] – 作成 Satoshi Nakagawa | text:yamato:u_yamato173 [2017/09/28 21:20] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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と、声をかしくて言へば、女、驚きて、「人もなしと思ひつるに、ものしきさまを見えぬること」と思ひて、ものも言はずなりぬ。 | と、声をかしくて言へば、女、驚きて、「人もなしと思ひつるに、ものしきさまを見えぬること」と思ひて、ものも言はずなりぬ。 | ||
- | 男、縁(えん)にのぼりて往ぬ。「などか、もののたまはぬ。雨のわりなく侍れば、やまむまでは、かくて」など言へば、「大路よりは漏りまさりてなん、ここは中々」といらへけり。 | + | 男、縁(えん)にのぼりて居ぬ。「などか、もののたまはぬ。雨のわりなく侍れば、やまむまでは、かくて」など言へば、「大路よりは漏りまさりてなん、ここは中々」といらへけり。 |
時は正月十日のほどなりけり。御簾の内より、しとねさし出でたり。引き寄せて居ぬ。簾もへりは蝙蝠(かはほり)に食はれて、所々なし。内のしつらひ見入るれば、昔思えて、畳などよかりけれど、口惜しくなりにけり。 | 時は正月十日のほどなりけり。御簾の内より、しとねさし出でたり。引き寄せて居ぬ。簾もへりは蝙蝠(かはほり)に食はれて、所々なし。内のしつらひ見入るれば、昔思えて、畳などよかりけれど、口惜しくなりにけり。 | ||
行 26: | 行 26: | ||
君がため衣(ころも)の裾(すそ)を濡らしつつ春の野に出でて摘める若菜ぞ | 君がため衣(ころも)の裾(すそ)を濡らしつつ春の野に出でて摘める若菜ぞ | ||
- | 男、これを見るに、いとあはれに思えて、引き寄せて食ふ。女、わりなく恥かしと思ひて、臥したり。少将、起きて、小舎人童を走らせて、すなはち車にて、まめなる物、さまざまに持(も)て来たり。「迎へに人のあれば、今またも参り来ん」とて、出でぬ。 | + | 男、これを見るに、いとあはれに思えて、引き寄せて食ふ。女、わりなく恥かしと思ひて、臥したり。 |
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+ | 少将、起きて、小舎人童を走らせて、すなはち車にて、まめなる物、さまざまに持(も)て来たり。「迎へに人のあれば、今またも参り来ん」とて、出でぬ。 | ||
それよりのち、絶えずみづからも来(き)とぶらひけり。「よろづのもの食へども、なほ五条にてありしものは、めづらしく、めでたかりき」と思ひ出でける。 | それよりのち、絶えずみづからも来(き)とぶらひけり。「よろづのもの食へども、なほ五条にてありしものは、めづらしく、めでたかりき」と思ひ出でける。 |
text/yamato/u_yamato173.txt · 最終更新: 2017/09/28 21:20 by Satoshi Nakagawa