text:yamato:u_yamato170
大和物語
第170段 伊衡の宰相中将にものしたまひける時・・・
校訂本文
伊衡(これひら)の宰相1)、中将にものしたまひける時、故式部卿の宮2)の別当し給ひければ、つねに参りなれて3)、御達(ごたち)も語らひ給ひけり4)。
その君、内裏(うち)よりまかで給ひけるままに5)、風邪になんあひ給ひて、わづらひ給ける6)。とぶらひに薬の酒・肴(さかな)7)などして、兵衛の命婦のやり8)給ひけるに、その返事に、「いと嬉しう、問ひ賜びつること。あさましう、かかる病もなん、つくものになんありける」とて、
青柳の糸ならねども春かぜの吹けばかたよるわが身なりけり
とあれば、兵衛の命婦、返事、
いささめに吹くかぜにやはなびくべき野分(のわき)過ぐしし君にやはあらぬ
翻刻
参議右兵衛督敏行男延喜十六年左少将十七年 蔵人延喜三年四位同十月中将八年正四位下 伊衡の宰相中将にものしたまひ けるときこ式部卿のみやの別当し たまひけれはつねにまいり□れて こたちもかたらひたまひけ□その きみうちよりまかて給け□□□/d77l
かせになんあひ給てわつらひ給け□ とふらひにくすりのさけさ□□ なとしてひやうゑのみやうふのや□ たまひけるにその返事にいとう れしうとひたひつることあさま しうかかるやまひもなんつくも のになんありけるとて あをやきのいとならねとも春 風のふけはかたよる我みなりけり とあれはひやうゑのみやうふ返事 いささめにふく風にやはなひく/d78r
へきのわきすくししきみにやはあらぬ/d78l
text/yamato/u_yamato170.txt · 最終更新: 2017/09/20 20:59 by Satoshi Nakagawa