text:yamato:u_yamato168
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— | text:yamato:u_yamato168 [2017/09/19 18:23] (現在) – 作成 Satoshi Nakagawa | ||
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+ | 大和物語 | ||
+ | ====== 第168段 深草の御門と申しける御時良少将といふ人いみじき時にありけり・・・ ====== | ||
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+ | ===== 校訂本文 ===== | ||
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+ | 深草の御門(仁明天皇)と申しける御時、良少将((良峯宗貞。後の僧正遍昭(遍照)。))といふ人、いみじき時にありけり。いと色好みになんありける。 | ||
+ | |||
+ | 忍びて時々逢ひける女、同じ内裏(うち)にありけり。「今宵、必ず逢はん」と契りたりける夜(よ)なりけり。女、いたう化粧(けさう)じて待つに、音もせず。目を覚まして、「夜や更けぬらん」と思ふほどに、時申す音のしければ、聞くに、「丑三つ」と申しけるを聞きて、男のもとに言ひやりける、 | ||
+ | |||
+ | 人心うしみつ今は頼まじよ | ||
+ | |||
+ | と言ひやりけるに、おどろきて、 | ||
+ | |||
+ | 夢に見ゆやとねぞ過ぎにける | ||
+ | |||
+ | とぞ、付けてやりける。「しばし」と思ひてうち休みけるほどに、寝過ぎにたるになんありける。 | ||
+ | |||
+ | かくて、世にも労(らう)あるものに思え、つかうまつる御門、かぎりなく思されてあるほどに、この御門、失せ給ひぬ。御葬(はふ)りの夜、御供にみな人つかうまつる中に、その夜(よ)より、この良少将失せにけり。友達も妻(め)も、「いかならん」とて、しばしはここかしこ求むれども、音にも耳にも聞こえず。「法師にやなりにけん、身をや投げてけん。法師になりたらば、さてなんあるとも聞こえなん。なほ身をなん投げたるなるべし」と思ふに、世の中にもいみじくあはれがり、妻子(めこ)どもは、さらにも言はず、夜昼(よるひる)、精進(さうじ)潔斎(いもひ)をして、世間の仏(ほとけ)・神に願を立ててまどへど、音にも聞こえず。 | ||
+ | |||
+ | 妻は三人なんありけるを、よろしく思ひけるには、「『なほ、世に経じ』となん思ふ」と、二人にはなん言ひけり。かぎりなく思ひて、子どもなどある妻には、塵ばかりもさる気色も見せざりけり。このことをかけても言はば、女も「いみじ」と思ふべし。われもえかくなるまじき心地のしければ、寄りだに来で、にはかになん失せにける。 | ||
+ | |||
+ | ともかくもなれ、「かくなん思ふ」とも言はざりけることの、いみじきことを思ひつつ、泣き入られて、初瀬の御寺(みてら)((長谷寺))に、この妻、詣でにけり。この少将は、法師になりて、蓑(みの)一つをうち着て、世間世界を行ひ歩(あり)きて、初瀬の御寺に行ふほどになんありける。ある局(つぼね)近く居て行へば、この女、導師に言ふやう、「この人、かくなくなりにたるを、生きて世にあるものならば、いま一度(ひとたび)あひ見せ給へ。身を投げ死にたるものならば、その道になし給へ。さてなん、死にたるとも、この人のあらんやうを、夢にても、うつつにても、聞き見せ給へ」と言ひて、わが装束・上下(かみしも)・帯・太刀まで、みな誦経(ずきやう)にしけり。みづからも、申しもやらず泣きけり。 | ||
+ | |||
+ | 初めは、「何人の詣でたらん」と聞き居たるに、わが上をかく申しつつ、わが装束をかく誦経にするを見るに、心肝(こころきも)もなく、悲しきことものに似ず。「走りや出でなまし」と千度(ちたび)思ひけれど、思ひ返し思ひ返し居てて、夜一夜(よひとよ)泣き明かしけり。わが妻子(めこ)どもの、泣く泣く申す声どもも聞こゆ。いといみじき心地しけり。 | ||
+ | |||
+ | されど念じて泣き明かして、朝(あした)に見れば、蓑も何も、涙のかかりたる所は、血の涙にてなんありける。「いみじく泣けば、血の涙といふものはあるものになんありける」とぞ言ひける。「その折なん、走りも出でぬべき心地せし」とぞ、のちに言ひける。 | ||
+ | |||
+ | かかれど、なほえ聞かず。御果てになりぬ。御服脱ぎに、よろづの殿上人、河原に出でたるに、童の異様(ことやう)なるなん、柏に書きたる文を持(も)て来たる。取りて見れば、 | ||
+ | |||
+ | 皆人は花の衣(ころも)になりぬなり苔のたもとよ乾きだにせよ | ||
+ | |||
+ | とありみれば、この良少将のてにみなしつつ、「いづら」と言ひて、持て来し人を世界に求むれどなし。法師になりたるべしとは、これにてなん皆人知りにける。されど、いづこにかあらんといふこと、さらにえ知らず。 | ||
+ | |||
+ | かくて、世の中にありといふことを聞こし召して、五条の后の宮((仁明天皇皇后藤原順子)) | ||
+ | より、内舎人、御使ひにて、山々尋ねさせ給ひけり。「ここにあり」と聞きて行けば、失せぬ。「かしこにあり」と聞きて尋ねければ、また失せぬ。え会はず。 | ||
+ | |||
+ | からうじて、隠れたる所にゆくりもなく入りにけり。え隠れえで、あわて会ひにけり。「宮より御使ひになん参り来つる」とて、「仰せごとには、『かう御門もおはしまさず、むつまじく思し召しし人も、かたへ((諸本「かたみ(形見)」))と思ふべきに、かく世に失せ隠れ給ひにたれば、いとなん悲しき。などか山林に行ひ給ふとも、ここにだに消息ものたまはぬ。御里とありし所にも、音もし給はざらんなれば、いとあはれになん泣き給ふなる。いかなる御心(みこころ)にてか、かうはものし給ひけんと聞こえよ』となん、仰せられつる。ここかしこ尋ね奉りてなん参り来つる」と言ふ。 | ||
+ | |||
+ | 少将大徳、うち泣きて、「仰せごと、かしこまりて承りぬ。御門隠れたまひて、かしこき御かげにならひて、おはしまさぬ世に、しばしもあり経(ふ)べき心地のし侍らざりしかば、かかる山の末にこもり侍りて、死なんを期(ご)にてと思ひ給ふるを、まだなん、かくあやしきことは生きめぐらひ侍る。いともかしこく問はせ給へる。ことに童(わらはべ)の侍ること、さらに忘れ侍る時も侍らず」とて、 | ||
+ | |||
+ | 「『かぎりなき雲居のよそに別るとも人を心に送らざらめや | ||
+ | |||
+ | となん申しつる』と啓し給へ」と言ひける。 | ||
+ | |||
+ | この大徳の顔・形・姿を見るに、悲しきことものに似ず。その人にもあらず、影のごとくになりて、ただ蓑をのみなん着たりける。少将にてありし時のさま、いときよげなりしを思ひ出でて、涙もとどまらざりけり。悲しとても、片時(かたとき)人の居たるべき所にもあらぬ山の中なりければ、泣く泣く、「さらば」と言ひて、帰り来て、この大徳尋ね出でてありつるよしを、かんのくだり((底本「こんのくたり」。諸本により訂正))啓せさせけり。 | ||
+ | |||
+ | 后の宮も、いといたう泣き給ふ。さぶらふ人々も、いらなくなん泣きあはれがりける。宮の御返りも、人々の消息も、言ひつけてまたやれりければ、ありし所にもまたなくなりにけり。 | ||
+ | |||
+ | 小野小町といふ人、正月に清水((清水寺))に詣でにけり。行ひなどして聞くに、あやしう貴き法師の声にて、読経し陀羅尼読む。この小野小町、あやしがりて、つれなきやうにて、人をやりて見せ((底本「せ」磨滅。諸本により補う。))ければ、蓑一つを着たる法師((法師は底本「ほ□し」。「う」字磨滅。諸本により補う。))の、腰に火打笥(ひうちげ)など結ひ付けたるなん、隅(すみ)に居たる」と言ひけり。 | ||
+ | |||
+ | かくて、なほ聞くに、声いと貴くめでたう聞こゆれば、「ただなる人には、よもあらじ。もし、少将大徳にやあらん」と思ひにけり。「いかが言ふ」とて、「この御寺になん侍る」と、「いと寒きに、御衣一つ、しばし貸し給へ」とて、 | ||
+ | |||
+ | 岩の上に旅寝をすればいと寒し苔の衣をわれに貸さなん | ||
+ | |||
+ | と言ひやりたる返しに、 | ||
+ | |||
+ | 世をそむく苔の衣はただ一重かさねばつらし((底本「つら」に「うと」と傍注。傍注を採用すると「うとし」となる。))いざ二人寝ん | ||
+ | |||
+ | と言ひたるに、「さらに少将なりけり」と思ひて、ただにも語らひし仲なれば、「会ひてもの言はん」と思ひて行きければ、掻い消つやうに失せにけり。一寺(ひとてら)求めさすれど、さらになし。逃げて失せぬ。 | ||
+ | |||
+ | かくて、失せにける大徳なん僧正までなりて、花山(くわざん)といふ寺に住み給ひける。 | ||
+ | |||
+ | 俗にいますかりける時の子どもありけり。太郎、左近将監にて殿上してありける。かく世にいますかりと聞く時だに、とてもかくてもやりければ、行きたりければ、「法師の子は法師なるぞよき」とて((底本「て」磨滅。諸本により補う。))、これも法師((由性))になしてけり。かくてなん、 | ||
+ | |||
+ | 折りつればたぶさにけがる((底本「けが」磨滅。諸本により補う。))たてながら三世(みよ)の仏に花奉る((底本「る」磨滅。諸本により補う。)) | ||
+ | |||
+ | といふも、僧正の御歌になんありける。 | ||
+ | |||
+ | この、子を押し成し給ひける大徳は、心にもあらでなりたりければ、親にも似で、京にも通ひてなんし歩(あり)きける。この大徳の親族(しぞく)なりける人のむすめの、「内裏(うち)に奉らん」とてかしづきけるを、みそかに語らひけり。 | ||
+ | |||
+ | 親聞きつけて、男をも女をも、すげなくいみじく言ひて、この大徳を寄せずなりにければ、山に坊して居て、言通(ことかよ)ひもえせざりけり。いと久しくありて、このさわかれし女の兄人(せうと)どもなどなん、人のわざしに山に登りたりける。この大徳の住む所に来て物語などして、うち休みたりけるに、衣(きぬ)のくびに書き付けける。 | ||
+ | |||
+ | |||
+ | 白雲の宿る峰にぞおくれぬる思ひのほかにある世なりけり | ||
+ | |||
+ | と書きたりけるを、この兄人の兵衛の尉は、知らで京へ往ぬ。妹、見付けて、「あはれ」とや思ひけん。これは僧都になりて、京極の僧都といひていますかりける。 | ||
+ | |||
+ | ===== 翻刻 ===== | ||
+ | |||
+ | 良峯宗貞蔵人頭右近少将従五位上 | ||
+ | 大納言右大将安世四男 | ||
+ | (仁明天皇)ふかくさのみかとと申ける御とき良 | ||
+ | 少将といふ人いみしきときにありけり | ||
+ | いといろこのみになんありけるしのひ | ||
+ | てときときあひける女同うちにあり | ||
+ | けりこよひかならすあはんとちきり | ||
+ | たりけるよなりけり女いたうけさ | ||
+ | うしてまつにおともせすめをさ | ||
+ | ましてよやふけぬらんとおもふほとに/d66l | ||
+ | |||
+ | 時申をとのしけれはきくにうし三と申 | ||
+ | けるをききておとこのもとにいひやりける | ||
+ | ひとこころうしみついまはたのましよ | ||
+ | といひやりけるにおとろきて | ||
+ | ゆめにみゆやとねそすきにける | ||
+ | とそつけてやりけるしはしとおもひ | ||
+ | てうちやすみけるほとにねすき | ||
+ | にたるになんありける | ||
+ | かくてよにもらうあるものにおほえ | ||
+ | つかうまつるみかとかきりなくお | ||
+ | ほされてあるほとにこの御かとうせ/d67r | ||
+ | |||
+ | 給ぬ 嘉祥二年正月蔵人頭三年(乙巳)帝崩御(丙午)出家三十五 | ||
+ | 御はふりのよ御ともにみな人つかうま | ||
+ | つるなかにそのよよりこの良少将 | ||
+ | うせにけりともたちもめも | ||
+ | いかならんとてしはしはここかしこもと | ||
+ | むれともおとにもみみにもきこえす | ||
+ | ほうしにやなりにけんみをやなけ | ||
+ | てけんほうしになりたらはさて | ||
+ | なんあるともきこえなんなをみを | ||
+ | なんなけたるなるへしとおもふに | ||
+ | よのなかにもいみしくあはれかりめ/d67l | ||
+ | |||
+ | こともはさらにもいはすよるひるさう | ||
+ | しいもゐをしてせけんのほとけか | ||
+ | みにくわんをたててまとへとおと | ||
+ | にもきこえすめは三人なんあり | ||
+ | けるをよろしくおもひけるには | ||
+ | なをよにへしとなんおもふとふた | ||
+ | りにはなんいひけりかきりな | ||
+ | くおもひてこともなとあるめに | ||
+ | はちりはかりもさるけしきも | ||
+ | みせさりけりこのことをかけても | ||
+ | いはは女もいみしとおもふへしわれも/d68r | ||
+ | |||
+ | えかくなるましき心ちのしけれは | ||
+ | よりたにこてにはかになんうせに | ||
+ | けるともかくもなれかくなんおもふ | ||
+ | ともいはさりけることのいみしきこ | ||
+ | とをおもひつつなきいられてはつせ | ||
+ | のみてらにこのめまうてにけり | ||
+ | この少将はほうしになりてみのひ | ||
+ | とつをうちきてせけんせかいをお | ||
+ | こなひありきてはつせのみてら | ||
+ | におこなふほとになんありける | ||
+ | あるつほねちかくゐてをこなへは/d68l | ||
+ | |||
+ | この女たうしにいふやうこのひと | ||
+ | かくなくなりにたるをいきて | ||
+ | よにあるものならはいまひとたひ | ||
+ | あひみせ給へみをなけしにたる | ||
+ | ものならはそのみちになし給へ | ||
+ | さてなんしにたるともこの人の | ||
+ | あらんやうをゆめにてもうつつ | ||
+ | にてもききみせ給へといひてわかしや | ||
+ | うそくかみしもをひたちまて | ||
+ | みなすきやうにしけり身つか | ||
+ | らも申もやらすなきけり/d69r | ||
+ | |||
+ | はしめはなに人のまうてたらん | ||
+ | とききゐたるにわかうへをかく | ||
+ | 申つつわかさうそくをかくすき | ||
+ | やうにするをみるにこころきも | ||
+ | もなくかなしきことものににすはしりやいてなましと | ||
+ | ちたひおもひけれとおもひかへしおもひかへし | ||
+ | ゐてよひとよなきあかしけりわか | ||
+ | めことものなくなく申こへともも | ||
+ | きこゆいといみしき心ちしけり | ||
+ | されとねんしてなきあかしてあし | ||
+ | たにみれはみのもなにもなみたの/d69l | ||
+ | |||
+ | かかりたる所はちのなみたにてな | ||
+ | んありけるいみしくなけはちの | ||
+ | なみたといふものはある物になんありけるとそ | ||
+ | いひけるそのをりなんはしりも | ||
+ | いてぬへき心ちせしとそのちに | ||
+ | いひけるかかれとなをえきかす御 | ||
+ | はてになりぬ御ふくぬきによ | ||
+ | ろつのてんしやう人かはらにいて | ||
+ | たるにわらはのことやうなるなん | ||
+ | かしわにかきたるふみをもて | ||
+ | きたるとりてみれは/d70r | ||
+ | |||
+ | みな人ははなのころもになりぬ | ||
+ | なりこけのたもとよかはきたにせよ | ||
+ | とありみれはこの良少将のてにみなし | ||
+ | つついつらといひてもてこし人をせか | ||
+ | ひにもとむれとなしほうしにな | ||
+ | りたるへしとはこれにてなんみな | ||
+ | ひとしりにけるされといつこにかあら | ||
+ | んといふことさらにえしらすかくて | ||
+ | よのなかにありといふことをきこ | ||
+ | (五条皇太后宮順子文徳天皇母后左大臣冬嗣女) | ||
+ | しめして五てうのきさいのみや | ||
+ | よりうとねり御つかひにてやまやま/d70l | ||
+ | |||
+ | たつねさせたまひけりここにありと | ||
+ | ききていけはうせぬかしこにありと | ||
+ | ききてたつねけれはまたうせぬえあ | ||
+ | はすからうしてかくれたるところに | ||
+ | ゆくりもなくいりにけりえかくれ | ||
+ | えてあはてあひにけりみやより御 | ||
+ | つかひになんまいりきつるとてお | ||
+ | ほせことにはかうみかともおはしまさ | ||
+ | すむつましくおほしめしし人も | ||
+ | かたへとおもふへきにかくよにう | ||
+ | せかくれたまひにたれはいとなん/d71r | ||
+ | |||
+ | かなしきなとか山林にをこなひ給とも | ||
+ | ここにたにせうそこものたまはぬ御さ | ||
+ | ととありしところにもおともし給 | ||
+ | はさらんなれはいとあはれになんなき | ||
+ | たまふなるいかなるみこころにてか | ||
+ | かうはものし給けんときこえよとなん | ||
+ | おほせられつるここかしこたつねたて | ||
+ | まつりてなんまいりきつるといふ | ||
+ | 少将たいとくうちなきておほせ | ||
+ | ことかしこまりてうけ給はりぬみ | ||
+ | かとかくれたまひてかしこき御かけに/d71l | ||
+ | |||
+ | ならひておはしまさぬよにしはしも | ||
+ | ありふへき心ちのし侍らさりしかは | ||
+ | かかるやまのすゑにこもり侍てし | ||
+ | なんをこにてとおもひたまふるを | ||
+ | またなんかくあやしきことはいきめく | ||
+ | らひ侍いともかしこくとはせたまえる | ||
+ | ことにわらはへの侍ことさらにわすれ | ||
+ | 侍ときも侍らすとて | ||
+ | かきりなき雲井のよそにわ | ||
+ | かるとも人をこころにおくらさらめや | ||
+ | となん申つるとけいし給へといひける/d72r | ||
+ | |||
+ | このたいとくのかほかたちすかたをみ | ||
+ | るにかなしきこと物ににすその人に | ||
+ | もあらすかけのことくになりてたた | ||
+ | みのをのみなんきたりける少将にて | ||
+ | ありしときのさまいときよけなり | ||
+ | しをおもひいててなみたもととまら | ||
+ | さりけりかなしとてもかたとき人の | ||
+ | ゐたるへきところにもあらぬやま | ||
+ | のなかなりけれはなくなくさらはと | ||
+ | いひてかへりきてこのたいとくた | ||
+ | つねいててありつるよしをこん/d72l | ||
+ | |||
+ | のくたりけいせさせけりきさいの | ||
+ | みやもいといたうなきたまふさふら | ||
+ | ふひとひともいらなくなんなきあは | ||
+ | れかりけるみやの御かへりも人々 | ||
+ | のせうそこもいひつけて又やれり | ||
+ | けれはありし所にもまたなく | ||
+ | なりにけりおののこまちといふ人 | ||
+ | 正月にきよみつにまうてにけり | ||
+ | おこなひなとしてきくにあや | ||
+ | しうたうときほうしのこゑに | ||
+ | てときやうしたらによむこの/d73r | ||
+ | |||
+ | をののこまちあやしかりてつれ | ||
+ | なきやうにて人をやりてみ□ | ||
+ | けれはみのひとつをきたるほ□ | ||
+ | しのこしにひうちけなとゆひつけ | ||
+ | たるなんすみにゐたるといひ | ||
+ | けりかくてなをきくにこゑいと | ||
+ | たうとくめてたうきこゆれ | ||
+ | はたたなる人にはよもあらし | ||
+ | もし少将たいとくにやあらんと | ||
+ | おもひにけりいかかいふとてこのみ | ||
+ | てらになん侍といとさむきにみ(御)そひとつ/d73l | ||
+ | |||
+ | しはしかしたまへとて | ||
+ | いはのうへにたひねをすれは | ||
+ | いとさむしこけのころもをわれにかさなん | ||
+ | といひやりたるかへしに | ||
+ | よをそむくこけのころもはたた | ||
+ | ひとへかさねはつら(うと)しいさふたりねん | ||
+ | といひたるにさらに少将なりけり | ||
+ | とおもひてたたにもかたらひしなかな | ||
+ | れはあひてものいはんとおもひていき | ||
+ | けれはかいけつやうにうせに | ||
+ | けりひとてらもとめさすれと/d74r | ||
+ | |||
+ | さらになしにけてうせぬかくて | ||
+ | うせにけるたいとくなん僧正まて | ||
+ | なりてくわさんといふてらにすみ | ||
+ | たまひけるそくにいますかり | ||
+ | けるときのこともありけり太郎 | ||
+ | 左近将監にててんしやうして | ||
+ | ありけるかくよにいますかりときく | ||
+ | ときたにとてもかくてもやりけれは | ||
+ | いきたりけれはほうしのこはほう | ||
+ | しなるそよきと□これもほう | ||
+ | しになしてけりかくてなん/d74l | ||
+ | |||
+ | おりつれはたふさに□□るたて | ||
+ | なからみよのほとけに花たてまつ□ | ||
+ | といふもそうしやうの御うたに | ||
+ | なんありけるこのこををしなし | ||
+ | たまひけるたいとくは心にもあら | ||
+ | てなりたりけれはをやにもにて | ||
+ | 京にもかよひてなんしありきけ | ||
+ | るこのたいとくのしそくなり | ||
+ | ける人のむすめのうちにたて | ||
+ | まつらんとてかしつきけるを | ||
+ | みそかにかたらひけり/d75r | ||
+ | |||
+ | をやききつけておとこをも女を | ||
+ | もすけなくいみしくいひてこの | ||
+ | たいとくをよせすなりにけれは | ||
+ | やまにはうしてゐてことかよひも | ||
+ | えせさりけりいとひさしくあり | ||
+ | てこのさはかれし女のせうととも | ||
+ | なとなん人のわさしにやまにのほ | ||
+ | りたりけるこのたいとくのすむ | ||
+ | ところにきてものかたりなとし | ||
+ | てうちやすみたりけるにきぬの | ||
+ | くひにかきつけける/d75l | ||
+ | |||
+ | しら雲のやとるみねにそおくれ | ||
+ | ぬるおもひのほかにあるよなりけり | ||
+ | とかきたりけるをこのせうとの | ||
+ | ひやうゑのせうはしらて京へいぬい | ||
+ | もうとみつけてあはれとやおもひ | ||
+ | けんこれはそうつになりて京 | ||
+ | こくのそうつといひていますかり | ||
+ | ける 由性僧都雲林院別当/d76r | ||
text/yamato/u_yamato168.txt · 最終更新: 2017/09/19 18:23 by Satoshi Nakagawa