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text:yamato:u_yamato157
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text:yamato:u_yamato157 [2017/09/14 22:23] (現在) – 作成 Satoshi Nakagawa
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 +大和物語
 +====== 第157段 下野の国に男女住みわたりけり・・・ ======
 +
 +===== 校訂本文 =====
 +
 +下野の国に、男・女住みわたりけり。年ごろ住みけるほどに、男、妻(め)まうけて、心変り果てて、この家にありける物どもを、今の妻のがり、かき払ひ運び行く。「心憂し」と思へど、なほまかせて見けり。塵(ちり)ばかりの物も残さず、みな持(も)て往(い)ぬ。
 +
 +ただ残りたるものは、馬舟(うまぶね)のみなんありける。それを、この男の従者、「まかぢ」といひける童を使ひけるして、この舟をさへ取りにおこせたり。
 +
 +この童に女の言ひける。「なむぢも今はここに見えじかし」など言ひければ、「などてか、さぶらはざらん。主(ぬし)おはせずとも、さぶらひなん」など言ひたてり。女、「主に消息聞こえんは。申してんや。文(ふみ)はよに見給はじ。ただ言葉にて申せよ」と言ひければ、「いとよく申してん」と言ひければ、かく言ひける、
 +
 +  「『舟も往ぬまかぢも見えじ今日よりは憂き世の中をいかで渡らん』
 +
 +と申せ」と言ひければ、男に、「かく」と言ひければ、物かきふるひ去(い)にし男なん、しかしながら運び返して、もとのごとく、あからめもせで、添ひゐにける。
 +
 +===== 翻刻 =====
 +
 +  しもつけのくににおとこ女すみわたり
 +  けりとしころすみけるほとにおとこ
 +  めまうけてこころかはりはててこの
 +  いへにありけるものともをいまのめ
 +  のかりかきはらひはこひいくこころ
 +  うしとおもへとなをまかせてみけり
 +  ちりはかりのものものこさすみな
 +  もていぬたたのこりたるものはむま/d59r
 +
 +  ふねのみなんありけるそれをこの
 +  おとこのすさまかちといひけるわらは
 +  をつかひけるしてこのふねをさへとり
 +  におこせたりこのわらはに女のいひける
 +  なむちもいまはここにみえしかしなと
 +  いひけれはなとてかさふらはさらんぬし
 +  おはせすともさふらひなんなといひ
 +  たてり女ぬしにせうそこきこえん
 +  は申てんやふみはよにみたまはし
 +  たたことはにて申よといひけれは
 +  いとよく申てんといひけれはかくいひ/d59l
 +
 +  ける
 +    ふねもいぬまかちもみえしけふよ
 +    りはうきよのなかをいかてわたらん
 +  と申せといひけれはおとこにかくと
 +  いひけれはものかきふるひいにしおと
 +  こなんしかしなからはこひかへして
 +  もとのことくあからめもせてそい
 +  ゐにける/d60r
  
text/yamato/u_yamato157.txt · 最終更新: 2017/09/14 22:23 by Satoshi Nakagawa