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text:yamato:u_yamato156
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text:yamato:u_yamato156 [2017/09/14 01:14] (現在) – 作成 Satoshi Nakagawa
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 +大和物語
 +====== 第156段 信濃の国に更級といふ所に男住みけり・・・ ======
 +
 +===== 校訂本文 =====
 +
 +信濃の国に、更級(さらしな)といふ所に、男住みけり。若き時に親は死にければ、をばなん親のごとくに、若くよりあひ添ひてあるに((底本「に」虫損。諸本により補入))、この妻(め)の心、いと心憂きことに思えて、この姑(しうとめ)の老い((「老い」底本、「□ひ」で「お」を虫損。諸本により補う。))かがまりて居たるを、つねに憎みつつ、男にも、をばのみ心のさがなく悪しきことを言ひ聞かせければ、昔のごとくにあらず、おろかなること多く、このをばのためになりゆきけり。
 +
 +このをば、いといたう老いて、二重にて居たり。これをなほ、この嫁、ところせがりて、「今まで死なぬこと」と思ひて、良からぬことを言ひて、「持ていまして、深き山に捨て給ひてよ」とのみ責めければ、責められわびて、「さしてん」と思ひなりぬ。
 +
 +月のいと明かき夜、「嫗(おうな)ども、いざ給へ。寺に貴きわざする、見せ奉らん」と言ひければ、かぎりなく喜びて、負はれにけり。高き山の麓(ふもと)に住みければ、その山に、はるばると入りて、かぎりなく高き山の峰の、下り来べくもあらぬに置きて、逃げて来ぬ。「やや」と言へど、いらへもせで、逃げて、家に来て、思ひをるに、言ひ腹立てける折は、腹立ちて、かくしつれど、年ごろ親のごと養ひつつ、あひ添ひてければ、いと悲しく思えけり。
 +
 +この山の上(かみ)より、月もいとかぎりなく明かくて出でたるを眺めて、夜一夜(よひとよ)いも寝られず、悲しく思えければ、かく詠みたりける。
 +
 +  わが心なぐさめかねつ更級や姨捨山(をばすてやま)に照る月を見て
 +
 +と詠みてなん、また行きて迎へ持て来にける。それよりなん、姨捨山といひける。「なぐさめがたし」とは、これがよしになんありける。
 +
 +===== 翻刻 =====
 +
 +  しなののくににさらしなといふと
 +  ころにおとこすみけりわかき時
 +  におやはしにけれはをはなんおやのこ
 +  とくにわかくよりあひそひてある
 +  □このめのこころいとこころうき/d57r
 +
 +  ことにおほえてこのしうとめの□ひ
 +  かかまりてゐたるをつねににくみ
 +  つつおとこにもおはのみこころのさか
 +  なくあしきことをいひきかせけれ
 +  はむかしのことくにあらすおろかなる
 +  ことおほくこのをはのためになり
 +  ゆきけりこのをはいといたうおひ
 +  てふたへにてゐたりこれをなを
 +  このよめところせかりていままて
 +  しなぬこととおもひてよからぬことを
 +  いひてもていましてふかきやまにす/d57l
 +
 +  てたまひてよとのみせめけれはせめられ
 +  わひてさしてんとおもひなりぬ月の
 +  いとあかきよおうなともいさ給へてら
 +  にたうときわさするみせたてまつ
 +  らんといひけれはかきりなくよろこひ
 +  ておはれにけりたかきやまのふも
 +  とにすみけれはそのやまにはるはると
 +  いりてかきりなくたかきやまのみ
 +  ねのをりくへくもあらぬにおきて
 +  にけてきぬややといへといらへもせて
 +  にけていへにきておもひをるにいひ/d58r
 +
 +  はらたてけるをりははらたちて
 +  かくしつれととしころをやのことや
 +  しなひつつあひそひてけれはいとかな
 +  しくおほえけりこのやまのかみよ
 +  り月もいとかきりなくあかくてい
 +  てたるをなかめてよひとよいも
 +  ねられすかなしくおほえけれはかく
 +  よみたりける
 +    わかこころなくさめかねつさらし
 +    なやをはすてやまにてる月をみて
 +  とよみてなんまたいきてむかへもてき/d58l
 +
 +  にけるそれよりなんおはすてやまと
 +  いひけるなくさめかたしとはこれか
 +  よしになんありける/d59r
  
text/yamato/u_yamato156.txt · 最終更新: 2017/09/14 01:14 by Satoshi Nakagawa