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text:yamato:u_yamato149 [2017/09/10 22:37] – 作成 Satoshi Nakagawatext:yamato:u_yamato149 [2017/09/10 22:40] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 昔、大和の国葛城の郡(こほり)に住む、男・女ありけり。この女、顔・形、いときよらなり。 昔、大和の国葛城の郡(こほり)に住む、男・女ありけり。この女、顔・形、いときよらなり。
  
-年ごろ思ひかはして住むに、 この女いとわろくなりにければ、男わづらひて、かぎりなく思ひながら、妻(め)をまうけてけり。この今の妻は富みたる女になんありける。ことに思はねど、行けばいみじくいたはり、身の装束(さうぞく)もいときよらかにせさせけり。+年ごろ思ひかはして住むに、 この女いとわろくなりにければ、男わづらひて、かぎりなく思ひながら、妻(め)をまうけてけり。この今の妻は富みたる女になんありける。ことに思はねど、行けばいみじくいたはり、身の装束(さうぞく)もいときよらかにせさせけり。
  
 かくにぎにぎしき所にならひて、来たれば、この女いとわろげにて居て、かくほかに歩(あり)けど、さらに妬(ねた)げにも見えずなどあれば、いとあはれと思ひけり。心には、「かぎりなく妬く、心憂し」と思ふを、忍ぶるになんありける。 かくにぎにぎしき所にならひて、来たれば、この女いとわろげにて居て、かくほかに歩(あり)けど、さらに妬(ねた)げにも見えずなどあれば、いとあはれと思ひけり。心には、「かぎりなく妬く、心憂し」と思ふを、忍ぶるになんありける。
行 16: 行 16:
   風吹けば沖つ白波立田山夜半にも君が一人越ゆらん   風吹けば沖つ白波立田山夜半にも君が一人越ゆらん
  
-と詠みければ、「わがかうへを思ふなりけり」と思ふに、いとかなしくなりぬ。この今の妻の家は、立田山越えて行く道になんありける。+と詠みければ、「わがかうへを思ふなりけり」と思ふに、いとかなしくなりぬ。この今の妻の家は、立田山((龍田山))越えて行く道になんありける。
  
 かくて、なほ見をりければ、この女うち泣きて、臥して、鋺(かなまり)に水を入れて、胸になん据ゑたりける。「あやし、いかにするにかあらん」とて、なほ見る。されば、この水、熱湯(あつゆ)にたぎりぬれば、湯捨(ふ)てつ。また水を入る。 かくて、なほ見をりければ、この女うち泣きて、臥して、鋺(かなまり)に水を入れて、胸になん据ゑたりける。「あやし、いかにするにかあらん」とて、なほ見る。されば、この水、熱湯(あつゆ)にたぎりぬれば、湯捨(ふ)てつ。また水を入る。
text/yamato/u_yamato149.txt · 最終更新: 2017/09/10 22:40 by Satoshi Nakagawa