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大和物語
第119段 同じ女に陸奥国の守にて死にし藤原の真興が詠みておこせたりける・・・
校訂本文
同じ女1)に、陸奥国(みちのくに)の守にて死にし藤原の真興(さねき)2)が、詠みておこせたりける。
病(やまひ)いと重くして、おこたりけるころなりける。「いかで対面(たいめん)し給はらん」とて、
からくして惜しみとめたる命もて逢ふことをさへやまんとやする
と言へりければ、大君(おほいきみ)、返し、
もろともにいざとは言はで死出の山などかは一人越えんとはせし
と言ひたりける。
夜(よ)もえ逢ふまじきことやありけん、え逢はざりければ、帰りにけり。さて、あしたに男のもとより言ひおこせたりける。
あか月のなくゆふつけのわび声におとらぬ音(ね)をぞ泣きて帰りし
おほきみかへし
あか月の寝覚めの耳に聞きしかば鳥よりほかの声はせざりき
翻刻
藤真材弾正忠保生男 右大臣是公後延喜 十年正月蔵人兵部丞十二年式部丞 十五念十二月叙刑部少輔 おなし女にみちのくにのかみにて しにし藤原のさねきかよみて をこせたりけるやまひいとをもくし ておこたりけるころなりけるい かてたいめんしたまはらんとて からくしてをしみとめたるいのち もてあふことをさへやまんとやする といへりけれはおほいきみかへし/d13l
もろともにいさとはいはてしてのやま なとかはひとりこえんとはせし といひたりけるよもえあふましき ことやありけんえあはさりけれは かえりにけりさてあしたにおとこの もとよりいひをこせたりける あか月のなくゆふつけのわひこゑ にをとらぬねをそなきてかへりし おほきみかへし あか月のねさめのみみにきき しかはとりよりほかのこゑはせさりき/d14r
text/yamato/u_yamato119.txt · 最終更新: 2017/08/27 13:34 by Satoshi Nakagawa