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text:uchigiki:uchigiki16

打聞集

第16話 智証大師、験の事

校訂本文

智証大師1)、入唐して青龍寺に住む。帰朝の後、山2)の座主の時、弟子を遣りて、堂の香水3)を取りて、散杖をして、西方に向ひて、空に灑(そそ)くに三度なり。

弟子、問ふ、「何事にか」と。大師、答へていはく、「青龍寺焼け、金堂の戸(つま)に火付くなり。それを消すなり」云々。

明年の秋、唐人来たりつきて、消息を大師のもとに奉る。その状いはく、「去年の四月其日、青龍寺の金堂に火付きき。しかるに、日本の方より雨風にはかに吹きて、火消す。もし、せらるることある」云々。

その時、弟子、已前の合点す云々。

翻刻

□證大師入唐シテ青龍寺住帰朝之後山座主之時遣弟子堂
□香水取散杖ヲシテ向西方灑空三度也弟子問何事ニカト大師
答云青龍寺焼金堂戸(ツマ)ニ火付也其消也云々明年秋唐人
来付テ消息ヲ奉大師許其状云
去年四月其日青龍寺金堂火付キ然ニ日本方ヨリ雨風頓吹テ
火消若シセラルル事有云々尓時弟子已前合点云々/d29

http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1192812/29

1)
円珍。智証大師は、底本「□證大師」。一字破損。『今昔物語集』11-12により補う。
2)
比叡山延暦寺
3)
底本「堂□香水」。一字破損。文脈により補う。
text/uchigiki/uchigiki16.txt · 最終更新: 2018/05/12 16:04 by Satoshi Nakagawa