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text:turezure:k_tsurezure014.txt [2018/06/05 23:07] (現在) – 作成 - 外部編集 127.0.0.1
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 +徒然草
 +====== 第14段 和歌こそなほをかしきものなれ・・・ ======
 +
 +===== 校訂本文 =====
 +
 +和歌こそ、なほをかしきものなれ。
 +
 +あやしのしづ・山がつのしわざも、言ひ出でつれば、おもしろく、怖しき猪(ゐのしし )も、「臥す猪(ゐ)の床(とこ)」と言へば、やさしくなりぬ。
 +
 +
 +このごろの歌は、一節(ひとふし)をかしく言ひかなへたりと見ゆるはあれど、古き歌どものやうに、いかにぞや、言葉の外に、あはれに気色(けしき)思ゆるはなし。
 +
 +貫之((紀貫之))が、「糸によるものならなくに」と言へるは、古今集((『古今和歌集』))の中の歌屑(うたくづ)とかや言ひ伝へたれど、今の世の人の詠みぬべきことがらとは見えず。その世の歌には、姿・言葉、このたぐひのみ多し。この歌にかぎりて、かく言ひ立てられたるも知りがたし。
 +
 +源氏物語には、「物とはなしに」とぞ書ける。新古今((『新古今和歌集』))には、「残る松さへ峰にさびしき」と言へる歌をぞ言ふなるは、まことに、少しくだけたる姿にもや見ゆらん。
 +
 +されど、この歌も、衆議判の時、よろしきよし沙汰ありて、後にも、ことさらに感じ仰せ下されけるよし、家長が日記((『源家長日記』))には書けり。
 +
 +歌の道のみ、いにしへに変らぬなど言ふこともあれど、いさや、今も詠みあへる同じ詞・歌枕も、昔の人の詠めるは、さらに同じものにあらず。易く、素直にして、姿も清げに、あはれも深く見ゆ。
 +
 +梁塵秘抄の郢曲(えいきょく)の言葉こそ、また、あはれなることは多かめれ。昔の人は、ただいかに言ひ捨てたることぐさも、みないみじく聞こゆるにや。
 +
 +===== 翻刻 =====
 +
 +  和歌こそなをおかしき物なれ。あやし
 +  のしづ山がつのしわざもいひ出つれば
 +  おもしろく。をそろしき猪のしし
 +  もふす猪の床といへばやさしくなりぬ。
 +  この比の歌は一ふしおかしくいひかなへ
 +  たりと見ゆるはあれど。ふるき哥どもの/w1-12r
 +
 +  やうにいかにそやことばの外に。あはれに
 +  けしきおぼゆるはなし。貫之がいと
 +  による物ならなくにといへるは。古今集
 +  の中の。哥くづとかやいひつたへたれ
 +  ど今の世の人のよみぬべきことがらとは
 +  みえず。其世の歌には。すがた言葉此
 +  たぐひのみおほし。此歌に限てかく
 +  いひたてられたるもしりがたし。源氏
 +  物語には物とはなしにとぞかける。
 +  新古今にはのこる松さへ峯にさびし/w1-12l
 +
 +http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0012.jpg
 +
 +  き。といへるうたをぞいふなるはまことに。す
 +  こしくだけたるすがたにもや見ゆらん。
 +  されどこのうたも。衆議判の時よろし
 +  きよし沙汰ありて。後にも特更に
 +  感じ仰下されけるよし。家長が日
 +  記にはかけり。歌の道のみいにし
 +  へにかはらぬなどいふ事もあれど。いさ
 +  や今もよみあへるおなじ詞歌枕も。
 +  むかしの人のよめるはさらに。おなじ物
 +  にあらず。やすくすなほにして。/w1-13r
 +
 +  姿もきよげに。あはれもふかくみゆ。
 +  梁塵秘抄の郢曲のこと葉こそ又。
 +  あはれなる事はおほかめれ。昔の人は
 +  ただいかにいひすてたることくさも。
 +  皆いみじくきこゆるにや/w1-13l
 +
 +http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0013.jpg
  
text/turezure/k_tsurezure014.txt.txt · 最終更新: 2018/06/05 23:07 by 127.0.0.1