text:towazu:towazu5-27
とはずがたり
巻5 27 御幸の還御は今宵ならせおはしましぬ・・・
校訂本文
御幸の還御は今宵ならせおはしましぬ。御所ざまも御人少なに、しめやかに見えさせおはしまししも、そぞろにもの悲しく覚えて、帰らん空も覚え侍らねば、御所近きほどに、なほ休みてゐたるに、久我の前の大臣(おとど)1)は、同じ草葉のゆかりなるも、忘れがたき心地して、時々申し通ひ侍るに、文つかはしたりしついでに、彼より、
都だに秋の気色は知らるるをいく夜ふしみの有明の月
問ふにつらさのあはれも、忍びがたく思えて、
秋を経て過ぎにしみよも伏見山またあはれ添ふ在明の空
また立ち返り、
さぞなげに昔を今と忍ぶらむ伏見の里の秋のあはれに
まことや、十五日は、「もし僧などに賜びたき御事や」とて、扇を参らせし包み紙に、
思ひきや君が三年(みとせ)の秋の露また干ぬ袖にかけんものとは
翻刻
におもひまいらせてなと申なしてたちのき侍ぬ御幸の/s238l k5-61
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/238
くわんきよはこよひならせおはしましぬ御所さまも御人 すくなにしめやかに見えさせをはしまししもそそろにもの かなしくおほえてかへらん空も覚侍らねは御所ちかき程に なをやすみていたるに久我のさきのおととはおなしくさ葉 のゆかりなるもわすれかたき心ちして時々申かよひ 侍にふみつかはしたりしつゐてにかれより 都たに秋のけしきはしらるるをいくよふしみの在明の月 とふにつらさのあはれもしのひかたくおほえて 秋をへてすきにしみよもふしみ山またあはれそふ在明のそら 又たちかへり さそなけに昔をいまと忍ふらむふしみのさとの秋の哀に/s239r k5-62
まことや十五日はもし僧なとにたひたき御ことやとてあふき をまいらせしつつみ紙に おもひきや君か三とせの秋の露またひぬ袖にかけん物とは/s239l k5-63
1)
作者従兄、久我通基。またはその子、久我通雄。
text/towazu/towazu5-27.txt · 最終更新: 2019/11/16 15:56 by Satoshi Nakagawa