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text:towazu:towazu2-19 [2019/06/21 22:37] – 作成 Satoshi Nakagawatext:towazu:towazu2-19 [2019/09/03 15:12] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 西園寺の大納言((西園寺実兼))、傅(めのと)に付く。縹裏(はなだうら)の水干袴に、紅(くれなゐ)の袿(うちき)重ぬ。左の袖に沈(ぢん)の岩を付けて、白き糸にして滝を落し、右に桜を結びて付けて、ひしと散らす。袴には岩・堰(いせき)などして、花をひしと散らす。「涙もよほす滝の音かな((『源氏物語』若紫「吹き迷ふ深山おろしに夢覚めて涙もよほす滝の音かな」))」の心なるべし。権大納言殿((女房名))、資季入道沙汰す。萌黄裏(もよぎうら)の水干袴、袖には((「袖には」は底本「袖」なし。))、左に西楼(せいろう)、右に桜、袴((「袴」は底本「はる(か歟)ま」。「る」に「か歟」と傍書。))左に竹結びて付け、右に灯台一つ付けたり。紅の単衣を重ぬ。面々にこの式なり。中の御所の広所(ひろどころ)を、屏風にて隔て分けて、二十四人出で立つさま、思ひ思ひにをかし。 西園寺の大納言((西園寺実兼))、傅(めのと)に付く。縹裏(はなだうら)の水干袴に、紅(くれなゐ)の袿(うちき)重ぬ。左の袖に沈(ぢん)の岩を付けて、白き糸にして滝を落し、右に桜を結びて付けて、ひしと散らす。袴には岩・堰(いせき)などして、花をひしと散らす。「涙もよほす滝の音かな((『源氏物語』若紫「吹き迷ふ深山おろしに夢覚めて涙もよほす滝の音かな」))」の心なるべし。権大納言殿((女房名))、資季入道沙汰す。萌黄裏(もよぎうら)の水干袴、袖には((「袖には」は底本「袖」なし。))、左に西楼(せいろう)、右に桜、袴((「袴」は底本「はる(か歟)ま」。「る」に「か歟」と傍書。))左に竹結びて付け、右に灯台一つ付けたり。紅の単衣を重ぬ。面々にこの式なり。中の御所の広所(ひろどころ)を、屏風にて隔て分けて、二十四人出で立つさま、思ひ思ひにをかし。
  
-さて、「風流(ふりう)の鞠を作りて、ただ新院の御前ばかりに置かむずるを、ことさら懸(かか)りの上へ上ぐるよしをして、落つる所を袖に受けて、沓を脱ぎて、新院の御前に置くべし」とてありし。みな人、この上げ鞠を泣く泣く辞退申ししほどに、「器量の人なり」とて、女院((東二条院・後深草院中宮藤原公子))の御方の新衛門督殿を上八人に召し入れて、勤められたりし、これも時にとりてはひびしかりしかとも申してん。さりながら、うらやましからずぞ。袖に受けて御所に置くことは、その日の八人((「八人」は底本「父」))、上首(じやうしゆ)につきて、勤め侍りき。いと晴れがましかりしことどもなり。+さて、「風流(ふりう)の鞠を作りて、ただ新院の御前ばかりに置かむずるを、ことさら懸(かか)りの上へ上ぐるよしをして、落つる所を袖に受けて、沓を脱ぎて、新院の御前に置くべし」とてありし。みな人、この上げ鞠を泣く泣く辞退申ししほどに、「器量の人なり」とて、女院((東二条院・後深草院中宮西園寺公子))の御方の新衛門督殿を上八人に召し入れて、勤められたりし、これも時にとりてはひびしかりしかとも申してん。さりながら、うらやましからずぞ。袖に受けて御所に置くことは、その日の八人((「八人」は底本「父」))、上首(じやうしゆ)につきて、勤め侍りき。いと晴れがましかりしことどもなり。
  
 南庭(なんてい)の御簾上げて、両院・春宮、階下(かいか)に公卿、両方に着座す。殿上人は、ここかしこにたたずむ。塀の下を過ぎて、南庭を渡る時、みな傅(めのと)ども、色々の狩衣にて、かしづきに具す。新院、「交名(けうみやう)を承はらん」と申さる。御幸、昼よりなりて、九献(くこん)もとく始まりて、「遅し。御鞠、とくとく」と奉行為方((中御門為方))責むれども、「今、今」と申して、松明(しようめい)を取る。やがて、面々のかしづき、紙燭(しそく)を持ちて、「誰がし、御達(ごたち)の局(つぼね)と申して、ことさら御前へ向きて、袖かき合はせて過ぎしほど、なかなか言の葉なく侍り((「侍り」は底本「侍/侍」。衍字とみて削除。))。 南庭(なんてい)の御簾上げて、両院・春宮、階下(かいか)に公卿、両方に着座す。殿上人は、ここかしこにたたずむ。塀の下を過ぎて、南庭を渡る時、みな傅(めのと)ども、色々の狩衣にて、かしづきに具す。新院、「交名(けうみやう)を承はらん」と申さる。御幸、昼よりなりて、九献(くこん)もとく始まりて、「遅し。御鞠、とくとく」と奉行為方((中御門為方))責むれども、「今、今」と申して、松明(しようめい)を取る。やがて、面々のかしづき、紙燭(しそく)を持ちて、「誰がし、御達(ごたち)の局(つぼね)と申して、ことさら御前へ向きて、袖かき合はせて過ぎしほど、なかなか言の葉なく侍り((「侍り」は底本「侍/侍」。衍字とみて削除。))。
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 下八人より、次第に懸りの下へ参りて、面々の木の本(もと)にゐるありさま、われながら珍らかなりき。まして、上下男(おとこ)たちの興に入りしさまは、ことわりにや侍らん。 下八人より、次第に懸りの下へ参りて、面々の木の本(もと)にゐるありさま、われながら珍らかなりき。まして、上下男(おとこ)たちの興に入りしさまは、ことわりにや侍らん。
  
-御鞠を御前に置きて、急ぎまかり出でんとせしを、しし召し置かれて、その姿にて御酌に参りたりし、いみじく堪へがたかりしことなり。二・三日かねてより、局々(つぼねつぼね)に伺候して、髪結ひ、水干・沓など着ならはししほど、傅(めのと)たち経営いして、「養ひ君もてなす」とて、かたよりにことどものありしさま、推し量るべし。+御鞠を御前に置きて、急ぎまかり出でんとせしを、しし召し置かれて、その姿にて御酌に参りたりし、いみじく堪へがたかりしことなり。二・三日かねてより、局々(つぼねつぼね)に伺候して、髪結ひ、水干・沓など着ならはししほど、傅(めのと)たち経営いして、「養ひ君もてなす」とて、かたよりにことどものありしさま、推し量るべし。
  
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