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text:towazu:towazu1-29 [2019/04/08 19:21] – 作成 Satoshi Nakagawatext:towazu:towazu1-29 [2019/04/18 15:59] (現在) – [翻刻] Satoshi Nakagawa
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 雪はかこち顔に、峰も軒端(のきば)も一つに積もりつつ、夜もすがら吹荒るる音もすさまじとて、明け行けども起きも上がられず、馴れ顔なるも、なべてそら恐しけれども、何とすべき方なくて案じゐたるに、日高くなるほどに、さまざまのことども用意して、伺候(しこう)の者二人ばかり来たり。「あなむつかし」と見るほどに、主の尼たちの取り散らすべき物など、分かちやる。「年の暮れの風の寒けさも忘れぬべく」など言ふほどに、念仏の尼たちの袈裟・衣、仏の手向けになど思ひ寄らるるに、いよいよ、「山賤(やまがつ)の垣穂(かきほ)も光出で来て」など、面々に言ひ合ひたるこそ、聖衆(しやうじゆ)の来迎(らいがう)よりほかは、君の御幸に過ぎたるやあるべきに、いとかすかに見送り奉りたるばかりにて、「ゆゆし」、「めでたし」など言ふ人もなかりき。 雪はかこち顔に、峰も軒端(のきば)も一つに積もりつつ、夜もすがら吹荒るる音もすさまじとて、明け行けども起きも上がられず、馴れ顔なるも、なべてそら恐しけれども、何とすべき方なくて案じゐたるに、日高くなるほどに、さまざまのことども用意して、伺候(しこう)の者二人ばかり来たり。「あなむつかし」と見るほどに、主の尼たちの取り散らすべき物など、分かちやる。「年の暮れの風の寒けさも忘れぬべく」など言ふほどに、念仏の尼たちの袈裟・衣、仏の手向けになど思ひ寄らるるに、いよいよ、「山賤(やまがつ)の垣穂(かきほ)も光出で来て」など、面々に言ひ合ひたるこそ、聖衆(しやうじゆ)の来迎(らいがう)よりほかは、君の御幸に過ぎたるやあるべきに、いとかすかに見送り奉りたるばかりにて、「ゆゆし」、「めでたし」など言ふ人もなかりき。
  
-「言ふにや及ぶ、かかることやは」とも言ふべきことは、ただいまのにぎははしさに((「にぎははしさに」は底本「わ(に歟)きははしさに」。「わ」に「に歟」と傍注。))、誰も誰もめでまどふさま、世の習ひもむつかし。春待つべき装束華やかならねど、縹(はなだ)にや、あまた重なりたるに、白き三つ小袖取り添へなどせられたるも、「よろづ聞く人やあらむ」とわびしきに、今日は日暮し九献(くこん)にて暮れぬ。+「言ふにや及ぶ、かかることやは」とも言ふべきことは、ただいまのにぎははしさに((「にぎははしさに」は底本「わ(に歟)きははしさに」。「わ」に「に歟」と傍注。))、誰も誰もめでまどふさま、世の習ひもむつかし。春待つべき装束華やかならねど、縹(はなだ)にや、あまた重なりたるに、白き三つ小袖取り添へなどせられたるも、「よろづ聞く人やあらむ」とわびしきに、今日は日暮し九献(くこん)にて暮れぬ。
  
 明くれば、「さのみも」とて帰られしに、「立ち出でてだに見送り給へかし」とそそのかされて、起き出でたるに、ほのぼのと明くる空に、峰の白雪光あひて、すさまじげに見ゆるに、色なき狩衣着たる者二・三人見えて、帰り給ひぬる名残も、また忍びがたき心地するこそ、われながらうたて思え侍りしか。 明くれば、「さのみも」とて帰られしに、「立ち出でてだに見送り給へかし」とそそのかされて、起き出でたるに、ほのぼのと明くる空に、峰の白雪光あひて、すさまじげに見ゆるに、色なき狩衣着たる者二・三人見えて、帰り給ひぬる名残も、また忍びがたき心地するこそ、われながらうたて思え侍りしか。
行 54: 行 54:
   かりきたりあなむつかしとみるほとにあるしのあまたちの   かりきたりあなむつかしとみるほとにあるしのあまたちの
   とりちらすへき物なとわかちやるとしのくれの風の寒け   とりちらすへき物なとわかちやるとしのくれの風の寒け
-  さもわすれぬへくなといふ程に念仏のあまたちのけさ/k39l k1-69+  さもわすれぬへくなといふ程に念仏のあまたちのけさ/s39l k1-69
  
 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/39 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/39
行 68: 行 68:
   しろき三小袖とりそへなとせられたるもよろつきく人や   しろき三小袖とりそへなとせられたるもよろつきく人や
   あらむとわひしきにけふは日くらしくこんにてくれぬ   あらむとわひしきにけふは日くらしくこんにてくれぬ
-  あくれはさのみもとてかへられしに立いててたにみをくり/k40r k1-70+  あくれはさのみもとてかへられしに立いててたにみをくり/s40r k1-70
  
   給へかしとそそのかされておきいてたるにほのほのとあくる空   給へかしとそそのかされておきいてたるにほのほのとあくる空
   にみねのしら雪光あひてすさましけに見ゆるに色なき   にみねのしら雪光あひてすさましけに見ゆるに色なき
   かりきぬきたる物二三人みえてかへり給ぬるなこりも又忍ひ   かりきぬきたる物二三人みえてかへり給ぬるなこりも又忍ひ
-  かたき心ちするこそ我なからうたておほえ侍しかつもり/k40l k1-71+  かたき心ちするこそ我なからうたておほえ侍しかつもり/s40l k1-71
  
 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/40 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/40
text/towazu/towazu1-29.1554718871.txt.gz · 最終更新: 2019/04/08 19:21 by Satoshi Nakagawa