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text:towazu:towazu1-25

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text:towazu:towazu1-25 [2019/05/19 12:41]
Satoshi Nakagawa [校訂本文]
text:towazu:towazu1-25 [2019/09/01 01:25] (現在)
Satoshi Nakagawa [校訂本文]
ライン 10: ライン 10:
 「あな悲し」と思ふほどに、「『秋の夜長く侍り。弾碁(たぎ)しなどして遊ばせ侍らむ』と、御父(てて)申す。入らせ給へ」と訴訟顔(そしようがほ)になりかへりて言ふさまだに、いとむつかしきに、「何事かせまし。誰かし候ふ、かれも候ふ」など、継子・実(じち)の子が名乗り言ひ続け、九献(くこん)((「九献」は底本「しこん」))の式行なふべきこといしいし、伊予の湯桁(ゆげた)とかや、数へゐたるも悲しさに、「心地わびしき」などもてなしてゐたれば、「例の、わらはが申すことをば、御耳に入らず」とて立ちぬ。なまさかしく、「女子をば近くを」にや、言ひならはして、常の居所も庭続きなるに、さまざまのことども聞こゆるありさまは、「夕顔の宿りに踏みとどろかしけん唐臼(からうす)の音をこそ聞かめ((『源氏物語』夕顔「鳴神よりもおどろおどろしく、踏みとどろかす唐臼の音も、枕上と覚ゆ。あな耳かしがましと、これにぞ思さる」))」と思えて、いと口惜し。 「あな悲し」と思ふほどに、「『秋の夜長く侍り。弾碁(たぎ)しなどして遊ばせ侍らむ』と、御父(てて)申す。入らせ給へ」と訴訟顔(そしようがほ)になりかへりて言ふさまだに、いとむつかしきに、「何事かせまし。誰かし候ふ、かれも候ふ」など、継子・実(じち)の子が名乗り言ひ続け、九献(くこん)((「九献」は底本「しこん」))の式行なふべきこといしいし、伊予の湯桁(ゆげた)とかや、数へゐたるも悲しさに、「心地わびしき」などもてなしてゐたれば、「例の、わらはが申すことをば、御耳に入らず」とて立ちぬ。なまさかしく、「女子をば近くを」にや、言ひならはして、常の居所も庭続きなるに、さまざまのことども聞こゆるありさまは、「夕顔の宿りに踏みとどろかしけん唐臼(からうす)の音をこそ聞かめ((『源氏物語』夕顔「鳴神よりもおどろおどろしく、踏みとどろかす唐臼の音も、枕上と覚ゆ。あな耳かしがましと、これにぞ思さる」))」と思えて、いと口惜し。
  
-「とかくのあらましごとも、まねばむもなかなかにて、もらしぬるも念なく」とさへ思え侍れども、事柄もむつかしければ、「とくだに静まりなん」と思ひて寝たるに、門(かど)いみじく叩きて来る人あり。「誰ならん」と思へば、仲頼仲頼((作者乳母子。亀山院近習。))なり。「陪膳(ばいぜん)遅くて」など言ひて、「さてもこの太宮の隅に、ゆゑある八葉の車が立ちたるを、うち寄りて見れば、車の中に供の人は一はた寝たり。とうに牛は繋ぎてありつる。いづくへ行きたる人の車ぞ」と言ふ。「あな、あさまし」と聞くほどに、例の御姆、「いかなる人ぞと、人して見せよ」と言ふ。御父(てて)が声にて、「何しにか見せける。人の上ならむに。よしなし。また、御里居の暇をうかがひて、忍びつつ入りおはしたる人もあらば、築地(ついぢ)の崩れより、『うちも寝ななむ』とてもやあるらん。懐(ふところ)の内なるだに、高きも賤しきも、女は後ろめたなし((「後ろめたなし」は底本「うしろめためし」))」など言へば、また御姆、「あな、まがまがし。誰か参り候はん。御幸ならば、またなにゆゑか忍び給はん」など言ふも、ここもとに聞こゆ。「『六位宿世((『源氏物語』少女「『めでたくとも、もののはじめの六位宿世よ』とつぶやくも、ほの聞こゆ」))』とや、とがめられん」と、御姆なる人言はるるぞわびしき。+「とかくのあらましごとも、まねばむもなかなかにて、もらしぬるも念なく」とさへ思え侍れども、事柄もむつかしければ、「とくだに静まりなん」と思ひて寝たるに、門(かど)いみじく叩きて来る人あり。「誰ならん」と思へば、仲頼((藤原仲頼。作者乳母子。亀山院近習。))なり。「陪膳(ばいぜん)遅くて」など言ひて、「さてもこの太宮の隅に、ゆゑある八葉の車が立ちたるを、うち寄りて見れば、車の中に供の人は一はた寝たり。とうに牛は繋ぎてありつる。いづくへ行きたる人の車ぞ」と言ふ。「あな、あさまし」と聞くほどに、例の御姆、「いかなる人ぞと、人して見せよ」と言ふ。御父(てて)が声にて、「何しにか見せける。人の上ならむに。よしなし。また、御里居の暇をうかがひて、忍びつつ入りおはしたる人もあらば、築地(ついぢ)の崩れより、『うちも寝ななむ』とてもやあるらん。懐(ふところ)の内なるだに、高きも賤しきも、女は後ろめたなし((「後ろめたなし」は底本「うしろめためし」))」など言へば、また御姆、「あな、まがまがし。誰か参り候はん。御幸ならば、またなにゆゑか忍び給はん」など言ふも、ここもとに聞こゆ。「『六位宿世((『源氏物語』少女「『めでたくとも、もののはじめの六位宿世よ』とつぶやくも、ほの聞こゆ」))』とや、とがめられん」と、御姆なる人言はるるぞわびしき。
  
 子さへ今一人添ひてひしめくほどに、寝ぬべきほどもなきに、聞こゆる者ども出で来たりとおぼしくて、「こなたへと申せ」とささめく人来て、案内(あんない)すなり((「すなり」は底本「すな□(り歟)」。一字空白に「り歟」と傍書。))。前なる人、「御心地を損じて」と言ふに、内の障子荒らかに打ち叩きて、御姆来たり。 子さへ今一人添ひてひしめくほどに、寝ぬべきほどもなきに、聞こゆる者ども出で来たりとおぼしくて、「こなたへと申せ」とささめく人来て、案内(あんない)すなり((「すなり」は底本「すな□(り歟)」。一字空白に「り歟」と傍書。))。前なる人、「御心地を損じて」と言ふに、内の障子荒らかに打ち叩きて、御姆来たり。


text/towazu/towazu1-25.txt · 最終更新: 2019/09/01 01:25 by Satoshi Nakagawa