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text:towazu:towazu1-12

とはずがたり

巻1 12 あらたまの年どもにもなほ御わづらはしければ・・・

校訂本文

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あらたまの年どもにも、なほ御わづらはしければ、何事もはへなき御ことなり。正月の末になりぬれば、「かなふまじき御さまなり」とて、嵯峨御幸なる。御輿(こし)にて入らせ給ふ。

新院1)、やがて御幸。御車の後(しり)に参る。両女院2)、御同車にて、御匣殿(みくしげどの)3)、御後に参り給ふ。

道に参るべき御煎じ物を、胤成4)・師成5)二人して、御前にて御水瓶(みづがめ)二つにしたため入れて、経任(つねたう)6)、北面の下臈信友に仰せて持たせられたるを、内野(うちの)にて参らせむとするに、二つながらつゆばかりもなし。いと不思議なりしことなり。それより、いとど臆させさせ給ひてやらん、「御心地も重らせ給ひて見えさせおはします」などぞ、聞き参らせし。

この御所は、大井殿の御所に渡らせ給ひて、暇なく、男・女房、上臈・下臈をきらはず、「ただ今のほど、いかに、いかに」と申さるる御使、夜昼暇なきに、中廊(なからう)を渡るほど、大井河の波の音、いとすさまじくぞ覚え侍りし。

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翻刻

御けしきのみありとてとしもくれぬあらたまのとしとも/s16l k1-23

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/16

にも猶御わつらはしけれはなに事もはへなき御事也正月の
すゑになりぬれはかなうましき御さまなりとてさか御幸
なる御こしにていらせ給新院やかて御幸御車の
しりにまいる両女院御同車にて御くしけ殿御しりに
まいり給みちにてまいるへき御せむし物をたねなりもろなり
二人して御前にて御みつかめふたつにしたため入てつね
たう北面の下らうのふともにおほせてもたせられたるを
うちのにてまいらせむとするに二なから露はかりもなしいと
ふしきなりし事也それよりいととおくせさせ給てやらん
御心ちもをもらせ給てみえさせおはしますなとそききま
いらせしこの御所は大井とのの御所にわたらせ給てひまなく/s17r k1-24
おとこ女房上らう下臈をきらはすたたいまの程いかにいかにと
申さるる御つかひよるひるひまなきになからうをわたる
ほと大井河のなみのをといとすさましくそおほえ侍し/s17l k1-25

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/17

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1)
後深草院
2)
大宮院・東二条院
3)
藤原房子
4)
侍医、和気胤成
5)
侍医、和気師成
6)
中御門経任
text/towazu/towazu1-12.txt · 最終更新: 2019/03/18 21:12 by Satoshi Nakagawa