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text:towazu:towazu1-04

とはずがたり

巻1 4 還御なりぬと聞けども同じさまにて引きかづきて寝たるに・・・

校訂本文

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「還御なりぬ」と聞けども、同じさまにて、引きかづきて寝たるに、いつのほどにか、「御文」といふもあさまし。大納言1)の北の方、尼上(あまうへ)など来て、「いかに。などか起きぬ」など言ふも悲しければ、「夜より心地わびしくて」と言へば、新枕(にゐまくら)の名残かな」と、人、思ひたるさまもわびしきに、この御文を持ち騒げども、誰かは見む。「御使、立ちわづらふ。いかに、いかに」と言ひわびて、「大納言に申せ」など言ふも耐へがたきに、「心地わぶらむは」とておはしたり。「この御文を持て騒ぐに、いかなるいふかひなさぞ。御返事は、また申さじにや」とて、来る音す。

  あまた年さすがになれし小夜衣(さよごろも)重ねぬ袖に残る移り香(が)

紫の薄様に書かれたり。

この御歌を見て、面々に、「このごろの若き人には違(たが)ひたり」など言ふに、いとむつかしくて、起きも上がらぬに、「さのみ宣旨書きも、なかなか便なかりぬべし」など言ひわびて、御使の禄(ろく)などばかりにて、「いふかひなく、同じさまに臥して侍るほどに、かかるかしこき御文をも、いまだ見侍らで」などや申されけん。

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翻刻

還御なりぬときけともおなしさまにてひきかつきて
ねたるにいつの程にか御ふみといふもあさまし大納言の北方/s9l k1-9

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/9

あまうへなときていかになとかおきぬなといふもかなし
けれは夜より心ちわひしくてといへはにゐ枕の名
こりかなと人思たるさまもわひしきにこの御ふみをもち
さはけとも誰かはみむ御つかひたちわつらふいかにいかに
といひわひて大納言に申せなといふもたえかたきに
心ちわふらむはとておはしたりこの御文をもてさは
くにいかなるゆふかひなさそ御返事は又申さしにやとて
くるをとす
 あまたとしさすかになれしさよ衣かさねぬ袖にのこる
うつりかむらさきのうすやうにかかれたりこの御哥をみて
めむめむに此ころのわかき人にはたかひたりなといふにいとむつ/s10r k1-10
かしくておきもあからぬにさのみせむしかきも中々ひんなかり
ぬへしなといひわひて御つかひのろくなとはかりにていふ
かひなくおなしさまにふして侍ほとにかかるかしこき御
ふみをもいまたみ侍らてなとや申されけんひるつかた思ひ/s10l k1-11

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/10

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1)
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text/towazu/towazu1-04.txt · 最終更新: 2019/03/18 21:15 by Satoshi Nakagawa