text:shaseki:ko_shaseki09b-06
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— | text:shaseki:ko_shaseki09b-06 [2019/03/27 21:52] (現在) – 作成 Satoshi Nakagawa | ||
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+ | 沙石集 | ||
+ | ====== 巻9第6話(115) 証月房上人の遁世の事 ====== | ||
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+ | ===== 校訂本文 ===== | ||
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+ | 松の尾の証月房の上人((慶政))は三井の流を受けて、三密の行たけく、道心ある人と聞こえて、遁世の初めのことを人の語りしは、「人間に長らへてもよしなし。如説修行(によせつしゆぎやう)して臨終せん」と思ひ立ちて、ただ一人、松の尾の奥に人にも知られずして、七日が時料を用意して、仮に庵を結びて修行せられけり。七日の食(じき)尽きて、「芋の茎の干(ひ)たるを水に入れて、柔らかになして食ひて、今日の命を延べん」と思はれけるほどに、薪取る山人見あひて、その日の食は供養してけり。また芋の茎をば干して置きて、次の日、水に入れて食にあてがへば、また山人見付けて供養しけり。その後、連々(つれづれ)人見あひて時料送りければ、つひに芋の茎を用ゐずして、食物あひついで行はれけり。 | ||
+ | |||
+ | 三宝の冥助、諸天の守護のゆゑにや、次第に寺となりて、如法に勤行年積みて、臨終めでたくして終られにけりと聞こゆ((「聞こゆ」は底本「聞ヱ」。文脈により訂正))。末代にはありがたきことなり。 | ||
+ | |||
+ | 真実に仏道に身を入れて、如説に修行せん人、衣食の二事、欠くべからず。比良の山の真知房と聞こえし上人も、止観修行のため、二十日彼時料用意して、比良の山へ入りて修行せられけるにも、山人見あひて供養しけると聞こえ、年久しく行はれけり。 | ||
+ | |||
+ | 山野の獣、江海の鱗(いろくづ)、十悪の業によりて、つたなき報ひなるすら、衣食住処おのづからそなへたり。毛を被、鱗を着たり。穴に住み、水に泳ぐ。分々の身を助くる果報あり。いはんや、五戒十善の因縁によりて、人間に生まれたり。衣食住所おのづからあるべし。業報をわきまへ、天運に任せて、夢の世を渡り、仮の身を助けて憂へ歎かずは、身も心もやすかるべし。愚かにして過分の振舞ひ、おほけなき果報を望み、名聞利養の心をほしいままにするほどに、不足にのみ覚ゆるなるべし。「欲に頂(いただき)なし」とて、欲心はその極まることを知らず。 | ||
+ | |||
+ | 頂生王(ちやうしやうわう)は南州の王なり。不足に思ひて四州を打ち取る。なほ不足に思ひて、四天王を打ちぬ。忉利天を打ち取らんとして、果報尽きて、堕ちて死ににけり。されば、身の分を知て振舞ふべし。 | ||
+ | |||
+ | 南都の故一乗院((藤原実信))へ、故光明院の僧正((覚遍))参ぜられたりける時、御物語に、「人貧しきは心と貧しきなり」と仰せらる。光明院、申されけるは、「誰か貧しからんと思ひ候ふべき。人ごとに富み栄へんとこそ思へども、貧しきは常の習ひなり」と申さる。一乗院の仰せられけるは、「まことに貧しからんとは思はねども、心の企て愚かにして、過分の振舞ひするこそ、心と貧しきにて侍れ。わが分斉(ぶんざい)を知りて、その果報のほどに振舞はば、こと欠くべからず。十人かへりみるほどの人も、二・三十人をかへりみ、出仕の供にも二・三人具すべき人、五人十人具し過分に出で立つ。衣食什物をも、果報に過ぎて用ひんとすれば不足なり」と仰せられければ、「さては覚遍なんどが公請(くじやう)勤めんは、とざまなる疲駄に乗りて、檜笠なんど着て、出仕もすべくや」と申されければ、「やがてさだにもおはさば、よも御不足あらじ」とのたまひけり。 | ||
+ | |||
+ | 故金剛王院の僧正((実賢))、公請勤められける時、僧正の牛飼、御室(おむろ)の御車と車立論(くるまたてろん)して、御室の御車を散々としたりけるを、房官侍(ばうくわんさぶらひ)、牛飼を制しかねて、僧正に、「しかじか」と申しければ、「某丸(それがしまろ)が申す、僻事(ひがごと)はなし。子細を知りてこそ申せ。東寺の一の長者の上に居る僧なし。御室は上郎はさる御ことなれども、遁世門の御振舞ひにて、御室に引き籠りて、昔より御室と申す。しかれども、世にしたがふことなれば制せよ」とぞ下知せられける。 | ||
+ | |||
+ | 故法性寺の禅定殿下、御物語ありける折節にて申されけるは、「実賢なんどが車に乗りて出仕つかまつるも、おほかたあるまじきことなり。されども、近代は昔の儀を振舞ふは狂ぜるやうに侍れば、世にしたがひてこそ振舞ひ候へ。醍醐の尊師((聖宝))、僧正になり給ひて、悦び申し給ひけるには、『雨の降りたりける日、蓑笠着て参内して、蓑笠をば紫宸殿の高欄にかけられたりけり。伴(とも)には般若寺の観賢僧正一人、履物持ちておはしけり。御門も敬ひ給ひて、『観賢は法器の者なり。不便にし給へ』と仰せられける。古き日記なり。かくこそ、上代は名聞の心なくして、徳をもつて公家に仕はれしに、今はよろづすたれたる」よし、僧正申されければ、禅定殿下も感じ仰せられけり。 | ||
+ | |||
+ | 上代の僧の官途は、上より賞し給ふを、名聞にあらず、ただ法をあがむるしるしなり。近代は、望みて官を求めむさぼりて、禄を思ふ。釈門の風すたれ、道人の儀欠けたるゆゑなり。 | ||
+ | |||
+ | 都率の僧都覚超は、天台の密宗の先達なり。行徳聞こえありて、時の后の難産御加持のため、宣旨をもつて召されけれども、行法にひまなくて参らず。宣旨たびたび申し返しければ、勧修寺の誰がしとかや、名人なる公卿相((「公卿相」は底本「公郷相」。文脈により訂正。))に仰せて、「いかにもして召してまいれ」と宣下ありければ、かの人、横川の房に行きて、「宣旨たびたび返し申さるるところ、王土にはらまれて、その言ひなく侍る上、仰せを承りて侍れば、御参内なくば、命をここにて亡ぼすべし」とて居られたりければ、こと苦々しく思えて、「さらば参らん」とて、歩行(かち)にて参内して、御加持ありければ、御産平安なりけり。やがて退出せられける。後ろに僧都の宣命を読みかけてけり。 | ||
+ | |||
+ | 一条院((一条天皇))の御時にや、時の摂禄、御堂の関白道長((藤原道長))の御女(むすめ)、二歳になり給ひけるが、后にも立てんと思し召して、かしづき給ひけるほどに、少し悩みて、にはかに息絶え給ひぬ。あまりに悲しく思ひ給ひけるままに、「いかにして助けん」と思ひめぐらし給ふに、「高野((高野山金剛峰寺))の大御室((性信か。))こそ、頼もしくおはすれ」とて、錦の袋に姫宮を入れて、わが御頸にかけて、高野山へ馳せ上りて、ことの子細申し入れ給ひければ、「幼なくおはせども女人なれば、惣門の中へは入れ給ふまじ」とて、五鈷ばかりを持ちて、門の外にて加持し給ひければ、蘇生して、つひに后に立たせ給けり。上東門院の女院これなり。 | ||
+ | |||
+ | 大御室は慈悲深くして、仏法の効験あらたにおはしけり。御室の御所には、御架の菓子、日々に式々((梵舜本「色々」))と参らす。この菓子、夜々失せければ、近習の人々あさましく覚えて、うかがひ見るほどに、夜更け人静まりて、たけ高き僧の白衣なるが、袋をもつて御架の菓子を取り入れけり。「誰ならん」と見れば、御所にておはしけり。さて、袋うちかづきて出で給ふを、追ひ追ひ忍びて見奉れば、大内裏の墻(かき)の外に、諸の非人・乞丐(こつがい)・病者の出だされたるに、加持して賜びければ、多くは病も癒えにけり。慈悲は仏の心なれば、法の徳もことにあらはれけり。 | ||
+ | |||
+ | 上代は、かかる慈悲もあり、智慧深き高僧おはしければ、世もおだしくこそ。その時も衆生の業報はなほ逃れがたし。末代には、年にしたがひて、世間の災難は多く、仏法の効験まれなり。世下れりといふとも、随分に仏の制戒をも守り、大乗の修行怠らずは、わが眼精を守(まぼ)るがごとく守らんと、仏の御前にて誓ひを発せる諸天・善神・日月・星宿等、世界に満ち満てり。などか、その本誓むなしからん。 | ||
+ | |||
+ | たとひ、また仏道修行のゆゑには命を失なふとも、何の歎きかあらん。多生曠却(たしやうくわうごふ)いたづらにこそ捨てにしか。また一期のわづかの身助けんため、名を惜しみてだに、合戦の場に命をば捨つる習ひぞかし。それは勲功をいふにも、わづかの栄花なり。あるかひもなきこともあり。あるいは、悪しざまに振舞ひて、かへりて頭をはねらるることもあり。また、ゆゆしく猛きは、いよいよ命を失ふ。今生なほその益なし((「益なし」は底本「益ヲシ」。諸本により訂正。))。来世は言ふに及ばず。 | ||
+ | |||
+ | 一旦の我執・名聞にだに命をば捨つる習ひなり、仏道に捨てなば、仏の引摂(いんぜう)にあづかり菩提の岸に至るべし。いたづらに捨てんずる命を、同じくは法のために捨つべし。古人のいはく、「法あつては死すとも、法なくては生きじ。法あつて死するは納種(なうしゆ)懐(ふところ)にあり。法なうして生ずるは、長劫に沈迷す」と言へり。あるいはまた、「朝に道を聞きて、夕に死するは可なり」とも言へり。 | ||
+ | |||
+ | 一期ほどなき浮世なり。有るに付けても愁へ、無きに付けても苦し。しかじ、ただこのたび大乗の修行を励み、たちまちに心地を開通し、浄刹往生して、菩提の妙果を開かんには。 | ||
+ | |||
+ | ===== 翻刻 ===== | ||
+ | |||
+ | 沙石集巻第九 下 | ||
+ | 証月房上人之遁世事 | ||
+ | 松ノ尾ノ証月房ノ上人ハ三井ノ流ヲ受テ三密ノ行タケク | ||
+ | 道心アル人ト聞ヘテ遁世ノ初ノ事ヲ人ノ語シハ人間ニナカ | ||
+ | ラヘテモヨシナシ如説修行シテ臨終セント思ヒ立テ只一人松 | ||
+ | ノ尾ノ奥ニ人ニモシラレスシテ七日カ時料ヲ用意シテカリニ庵ヲ | ||
+ | ムスヒテ修行セラレケリ七日ノ食尽テ芋ノ茎ノヒタルヲ水ニ | ||
+ | 入テヤハラカニナシテ食テ今日ノ命ヲノヘント思ハレケル | ||
+ | 程ニ薪取山人見アヒテ其日ノ食ハ供養シテケリ又イモノクキ | ||
+ | ヲハホシテヲキテ次ノ日水ニ入テ食ニアテカヘハ又山人見ツ | ||
+ | ケテ供養シケリ其後連々人見アヒテ時料ヲクリケレハツヰニ | ||
+ | イモノクキヲモチヰスシテ食物アヒツイテ行ハレケリ三宝ノ冥助/k9-345l | ||
+ | |||
+ | https:// | ||
+ | |||
+ | 諸天ノ守護ノ故ニヤ次第ニ寺ト成テ如法ニ勤行年ツミテ | ||
+ | 臨終目出度クシテヲハラレニケリト聞ヱ末代ニハ有難キコト | ||
+ | 也真実ニ仏道ニ身ヲ入テ如説ニ修行セン人衣食ノ二事 | ||
+ | カクヘカラス比良ノ山ノ真知房ト聞ヘシ上人モ止観修行ノ | ||
+ | タメ廿日彼時料用意シテ比良ノ山ヘ入テ修行セラレケルニモ | ||
+ | 山人見アヒテ供養シケルトキコヱ年久ク行レケリ山野ノ獣 | ||
+ | 江海ノ鱗十悪ノ業ニヨリテツタナキ報ナルスラ衣食住処ヲ | ||
+ | ノツカラソナヘタリ毛ヲ被鱗ヲキタリ穴ニスミ水ニオヨク分々 | ||
+ | ノ身ヲタスクル果報アリイハンヤ五戒十善ノ因縁ニヨリテ人 | ||
+ | 間ニ生タリ衣食住所ヲノツカラ有ヘシ業報ヲワキマヘ天運 | ||
+ | ニマカセテ夢ノ世ヲワタリカリノ身ヲ助テ憂歎スハ身モ心モヤ | ||
+ | スカルヘシヲロカニシテ過分ノ振舞ヲホケナキ果報ヲ望ミ名聞/k9-346r | ||
+ | |||
+ | 利養ノ心ヲ恣ママニスルホトニ不足ニノミオホユルナルヘシ欲 | ||
+ | ニ頂ナシトテ欲心ハソノキハマル事ヲシラス頂生王ハ南州ノ | ||
+ | 王ナリ不足ニ思テ四州ヲ打取猶不足ニ思テ四天王ヲウ | ||
+ | チヌ忉利天ヲ打取ラントシテ果報尽テ堕テ死ニケリサレハ身 | ||
+ | ノ分ヲ知テ振舞ヘシ南都ノ故一乗院ヘ故光明院ノ僧正 | ||
+ | 参セラレタリケル時御物語ニ人マツシキハ心ト貧シキ也ト被 | ||
+ | 仰光明院申サレケルハ誰カ貧シカラント思候ヘキ人コトニ | ||
+ | トミサカヘントコソ思ヘトモ貧シキハツネノ習也ト申サル一乗 | ||
+ | 院ノ仰ラレケルハマコトニ貧シカラントハ思ハネトモ心ノ企テヲ | ||
+ | ロカニシテ過分ノフルマヒスルコソ心トマツシキニテ侍レ我カ分 | ||
+ | 斉ヲシリテ其果報ノホトニフルマハハ事カクヘカラス十人カヘ | ||
+ | リミルホトノ人モ二三十人ヲカヘリ見出仕ノトモニモ二三/k9-346l | ||
+ | |||
+ | https:// | ||
+ | |||
+ | 人具スヘキ人五人十人具シ過分ニ出立ツ衣食什物ヲモ | ||
+ | 果報ニスキテ用ヒントスレハ不足也ト仰ラレケレハサテハ覚 | ||
+ | 遍ナントカ公請ツトメンハトサマナル疲駄ニ乗テ檜笠ナントキ | ||
+ | テ出仕モスヘクヤト申サレケレハヤカテ左タニモオハサハヨモ御 | ||
+ | 不足アラシトノ給ケリ故金剛王院ノ僧正公請ツトメラレケ | ||
+ | ル時僧正ノ牛飼御室ノ御車ト車立論シテ御室ノ御車ヲ | ||
+ | 散々トシタリケルヲ房官侍牛飼ヲ制シカネテ僧正ニシカシカト | ||
+ | 申ケレハ某丸カ申ス僻事ハナシ子細ヲシリテコソ申セ東寺ノ | ||
+ | 一ノ長者ノ上ニ居ル僧ナシ御室ハ上郎ハサル御コトナレトモ | ||
+ | 遁世門ノ御フルマヒニテ御室ニ引籠リテ昔ヨリ御室ト申然 | ||
+ | レ共世ニシタカフ事ナレハ制セヨトソ下知セラレケル故法性 | ||
+ | 寺ノ禅定殿下御物語有ケル折節ニテ申サレケルハ実賢ナン/k9-347r | ||
+ | |||
+ | トカ車ニ乗テ出仕ツカマツルモ大方アルマシキ事也サレトモ | ||
+ | 近代ハ昔ノ儀ヲ振舞ハ狂セルヤウニ侍レハ世ニ随テコソフル | ||
+ | マヒ候ヘ醍醐ノ尊師僧正ニナリタマヒテ悦申給ケルニハ雨ノ | ||
+ | フリタリケル日蓑笠キテ参内シテミノ笠ヲハ紫宸殿ノ高蘭ニカ | ||
+ | ケラレタリケリ伴ニハ般若寺ノ観賢僧正一人ハキモノモチテ | ||
+ | オハシケリ御門モ敬ヒ給テ観賢ハ法器ノ者ナリ不便ニシ給 | ||
+ | ヘト被仰ケル古キ日記ナリカクコソ上代ハ名聞ノ心ナクシテ | ||
+ | 徳ヲ以公家ニツカハレシニ今ハ万スタレタルヨシ僧正申サレ | ||
+ | ケレハ禅定殿下モ感シ仰ラレケリ上代ノ僧ノ官途ハ上ヨリ | ||
+ | 賞シ給ヲ名聞ニアラス只法ヲアカムルシルシナリ近代ハ望テ | ||
+ | 官ヲモトメムサホリテ録ヲ思フ釈門ノ風スタレ道人ノ儀カケタ | ||
+ | ル故也都率ノ僧都覚超ハ天台ノ密宗ノ先達ナリ行徳聞/k9-347l | ||
+ | |||
+ | https:// | ||
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+ | ヘ有テ時ノ后ノ難産御加持ノタメ宣旨ヲ以メサレケレトモ | ||
+ | 行法ニ隙ナクテ不参宣旨度々申返ケレハ勧修寺ノタレカ | ||
+ | シトカヤ名人ナル公郷相ニ仰テイカニモシテ召テマイレト宣下 | ||
+ | 有ケレハ彼人横川ノ房ニユキテ宣旨度々返申サルルトコロ | ||
+ | 王土ニハラマレテソノイヒナク侍ル上仰ヲ承テ侍レハ御参 | ||
+ | 内ナクハ命ヲ爰ニテホロホスヘシトテ居ラレタリケレハ事ニカニカ | ||
+ | シク覚テサラハ参ラントテ歩行ニテ参内シテ御加持アリケレハ | ||
+ | 御産平安也ケリヤカテ退出セラレケルウシロニ僧都ノ宣命 | ||
+ | ヲヨミカケテケリ一条院ノ御時ニヤ時ノ摂禄御堂ノ関白道 | ||
+ | 長ノ御女二歳ニナリ給ケルカ后ニモ立ント思食テカシツキ給 | ||
+ | ケル程ニスコシナヤミテニハカニイキタヱ給ヌアマリニ悲ク思給 | ||
+ | ケルママニイカニシテタスケント思ヒメクラシ給ニ高野ノ大御室/k9-348r | ||
+ | |||
+ | コソタノモシクオハスレトテ錦ノ袋ニ姫宮ヲ入テ我御頸ニカケ | ||
+ | テ高野山ヘ馳ノホリテ事ノ子細申入給ケレハ幼ナクオハセト | ||
+ | モ女人ナレハ惣門ノ中ヘハ入給マシトテ五古計ヲ持テ門ノ | ||
+ | 外ニテ加持シ給ケレハ蘇生シテツヰニ后ニ立セ給ケリ上東門院ノ | ||
+ | 女院是也大御室ハ慈悲フカクシテ仏法ノ効験アラタニ御坐 | ||
+ | ケリ御室ノ御所ニハ御架ノ菓子日々ニ式々トマイラス此 | ||
+ | 菓子夜々ウセケレハ近習ノ人々アサマシク覚テ伺見ルホトニ | ||
+ | 夜フケ人シツマリテ長高キ僧ノ白衣ナルカ袋ヲ以御架ノ菓 | ||
+ | 子ヲ取入ケリ誰ナラント見レハ御所ニテ御坐シケリサテフクロ | ||
+ | ウチカツキテ出給ヲ追々シノヒテ見奉レハ大内裏ノ墻ノ外ニ | ||
+ | 諸ノ非人乞丐病者ノイタサレタルニ加持シテタヒケレハ多ハ病 | ||
+ | モイヘニケリ慈悲ハ仏ノ心ナレハ法ノ徳モコトニアラハレケリ/k9-348l | ||
+ | |||
+ | https:// | ||
+ | |||
+ | 上代ハカカル慈悲モアリ智慧フカキ高僧御坐ケレハ世モオ | ||
+ | タシクコソ其時モ衆生ノ業報ハ猶ノカレ難シ末代ニハ年ニ | ||
+ | 随テ世間ノ災難ハ多ク仏法ノ効験希ナリ世クタレリトイフ | ||
+ | トモ随分ニ仏ノ制戒ヲモ守リ大乗ノ修行ヲコタラスハ我 | ||
+ | 眼精ヲマホルカコトクマホラント仏ノ御前ニテ誓ヲ発セル諸 | ||
+ | 天善神日月星宿等世界ニミチミテリナトカ其本誓ムナシ | ||
+ | カランタトヒ又仏道修行ノユヘニハ命ヲウシナフトモ何ノナケ | ||
+ | キカ有ラン多生曠却徒ニコソステニシカ又一期ノワツカノ身 | ||
+ | タスケンタメ名ヲオシミテタニ合戦ノ場ニ命ヲハスツル習ヒソ | ||
+ | カシソレハ勲功ヲ云ニモワツカノ栄花ナリアルカヒモナキ事モ | ||
+ | アリ或ハアシサマニ振舞テカヘリテ頭ヲハネラルルコトモアリ又 | ||
+ | ユユシクタケキハイヨイヨ命ヲ失フ今生尚其益ヲシ来世ハイフ/k9-349r | ||
+ | |||
+ | ニ不及一旦ノ我執名聞ニタニ命ヲハスツル習ナリ仏道ニス | ||
+ | テナハ仏ノ引摂ニアツカリ菩提ノ岸ニ至ルヘシ徒ニステンス | ||
+ | ル命ヲ同クハ法ノタメニスツヘシ古人ノ云ク法アツテハ死スト | ||
+ | モ法ナクテハイキシ法有テ死スルハ納種懐ニアリ法ナウシテ生 | ||
+ | スルハ沈迷長劫ト云リ或ハ又朝ニ道ヲ聞テ夕ニ死スルハ可 | ||
+ | ナリトモイヘリ一期程ナキ浮世ナリ有ニ付テモ愁ヘ無ニ付テ | ||
+ | モ苦シ不如タタ此度大乗ノ修行ヲハケミ忽ニ心地ヲ開通 | ||
+ | シ浄刹往生シテ菩提ノ妙果ヲヒラカンニハ/k9-349l | ||
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+ | https:// | ||
text/shaseki/ko_shaseki09b-06.txt · 最終更新: 2019/03/27 21:52 by Satoshi Nakagawa