text:sesuisho:n_sesuisho3-072
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— | text:sesuisho:n_sesuisho3-072 [2021/10/19 14:08] (現在) – 作成 Satoshi Nakagawa | ||
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+ | [[index.html|醒睡笑]] 巻3 文の品々 | ||
+ | ====== 6 祖父と祖母と何事をいさかひけんさうなく祖母を追ひ出だしけり・・・ ====== | ||
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+ | ===== 校訂本文 ===== | ||
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+ | [[n_sesuisho3-071|<< | ||
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+ | 祖父と祖母と、何事をいさかひけん、さうなく祖母を追ひ出だしけり。しかはあれど、老いたるを愛する者なければ、日にそひて互ひになつかしく思ふ折節、魚を売る商人来たれり。 | ||
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+ | 祖父喜び、「その里のそれと尋ね、この文を届けて給び候へ。もしまた((「また」は底本「文」。諸本により訂正。))返事のあらば、立ち寄りて取り給び候へ」など言ひふくめけるが、姥(うば)、文を見て、雨やさめと泣き、「久しくも会はぬに、文章の上がりたることや」と感じ、返事とて頼み渡す。 | ||
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+ | 商人、帰るさに、祖父に渡してあれば、栃(とち)ほどなる涙を流して、手を放さず。商人、あはれさに、文のやうを尋ね聞く。祖父の方よりは、いばらに小石を包み添へつかはしぬ。姥が方よりは、その中へ小糠(こぬか)を包み添へて返しぬ。「むばら恋し」とあるに、「むばら恋しくは来ぬか」と互ひに通ふむつまじさ、読むも書くも同じ心なる、浜の真砂の数々や。 | ||
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+ | 年寄れば腰にあづさの弓をはりしわのいる矢にしし((獣・肉・尿))ぞ少なき | ||
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+ | 『荘子』に、「寿者多辱(いのちながき者は辱(はぢ)多し)」。 | ||
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+ | 長かれと何祈りけん世の中のうきめ見するは命なりけり | ||
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+ | おしまれぬ身の残るかなしさ | ||
+ | |||
+ | あやにくに道ある人はとどまらで | ||
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+ | 楽天((白居易))が「今朝向鏡看、疑是逢別人(今朝(こんてう)鏡に向かつて看れば、疑ふらくはこれ別人に逢ふかと)」。 | ||
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+ | ます鏡向かひて見ればわが姿知らぬ翁に逢ふ心地する | ||
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+ | 老にけり今年ばかりとながむれば花より先に散る涙かな | ||
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+ | [[n_sesuisho3-071|<< | ||
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+ | ===== 翻刻 ===== | ||
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+ | 一 祖父と祖母と何事をいさかひけんさうな | ||
+ | く祖母を追出しけりしかはあれと老たる | ||
+ | をあいするものなけれは日にそひて互に | ||
+ | なつかしく思ふ折節魚をうる商人来 | ||
+ | れり祖父よろこひ其里のそれとたつね | ||
+ | この文をととけて給候へもし文返事のあらは | ||
+ | たちよりてとりたび候へなといひふくめけるか | ||
+ | 姥文を見てあめやさめとなき久しくも | ||
+ | あはぬに文章のあかりたる事やとかんし/n3-32l | ||
+ | |||
+ | 返事とてたのみわたす商人かへるさに祖父 | ||
+ | にわたしてあればとちほとなる涙をながし | ||
+ | て手をはなさず商人あはれさに文のやう | ||
+ | を尋きく祖父のかたよりはいはらに小石 | ||
+ | をつつみそへつかはしぬむばかかたよりは其 | ||
+ | 中へこぬかをつつみそへてかへしぬむばら | ||
+ | 恋しとあるにむはら恋しくはこぬかと互 | ||
+ | にかよふむつましさよむもかくもおなし心 | ||
+ | なる浜の真砂(まさご)の数々や/n3-33r | ||
+ | |||
+ | 年よれは腰にあつさの弓をばり | ||
+ | しはのいる矢にししそすくなき | ||
+ | 荘子に 寿者(いのちなかきもの)は多辱(はぢ) | ||
+ | ながかれとなに祈けん世の中の | ||
+ | うきめ見するは命なりけり | ||
+ | おしまれぬ身の残るかなしさ | ||
+ | あやにくに道ある人はととまらで | ||
+ | 楽天が 今朝(こんてう)向(むかつて)鏡(かかみに)看(みれば)疑(うたがふらくは)是(これ)逢(あふ)別人(べつしんに) | ||
+ | ますかかみむかひて見れは我すかた/n3-33l | ||
+ | |||
+ | しらぬ翁にあふ心ちする | ||
+ | 老にけり今年はかりと詠むれは | ||
+ | 花よりさきにちる涙かな/n3-34r | ||
text/sesuisho/n_sesuisho3-072.txt · 最終更新: 2021/10/19 14:08 by Satoshi Nakagawa