text:senjusho:m_senjusho05-02
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text:senjusho:m_senjusho05-02 [2016/06/15 19:07] – 作成 Satoshi Nakagawa | text:senjusho:m_senjusho05-02 [2016/06/15 19:08] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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- | 昔、頼義((源頼義))が郎等に、大瀬の三郎近宗といふ者侍り。むらなき剛の者にて侍りけり。頼義に具して、貞任を責めける時、多くの者を害したりける罪を思ひて、常には心を澄して、念仏をぞ申しける。 | + | 昔、頼義((源頼義))が郎等に、大瀬の三郎近宗といふ者侍り。むらなき高の者にて侍りけり。頼義に具して、貞任を責めける時、多くの者を害したりける罪を思ひて、常には心を澄して、念仏をぞ申しける。 |
かくて、年月を過ぐすほどに、しかるべき善知識識にや侍りけむ、日ごろつれたりける女、さしもの事もなかりけるに、気悪(けあ)しく腹立ちて、瞋恚の炎おびたたしく炊き上げたりけるを見て、けうとくあさましくて、いづちともなくまぎれ出でて、手づから髻(もとどり)押し切りて、所々し歩(あり)きて、念仏し侍りけるなり。善悪に強かりける心なればにや、道心よぎりなく見え侍りけるなり。 | かくて、年月を過ぐすほどに、しかるべき善知識識にや侍りけむ、日ごろつれたりける女、さしもの事もなかりけるに、気悪(けあ)しく腹立ちて、瞋恚の炎おびたたしく炊き上げたりけるを見て、けうとくあさましくて、いづちともなくまぎれ出でて、手づから髻(もとどり)押し切りて、所々し歩(あり)きて、念仏し侍りけるなり。善悪に強かりける心なればにや、道心よぎりなく見え侍りけるなり。 | ||
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まことに、ありがたかりけることには侍らずや。理をわきまへる人すら、この枷(かせ)ぎはさりやらぬわざなるを、思ひはかりなき身にて、瞋恚をいとひて、住みなれし境を捨て、山深く思ひ入りつらむ心ばせ、ことごとたとへもなくぞ侍る。 | まことに、ありがたかりけることには侍らずや。理をわきまへる人すら、この枷(かせ)ぎはさりやらぬわざなるを、思ひはかりなき身にて、瞋恚をいとひて、住みなれし境を捨て、山深く思ひ入りつらむ心ばせ、ことごとたとへもなくぞ侍る。 | ||
- | おほかた、「随心浄処即浄土摂」と説かれ侍れば、心だにも澄みなば、浄土ぞかし。しかはあれども、いづれの所も浄土にして、なじかはなれど、乱れやすき心の、澄みがたきには、悪しき境・悪しき友に会ひなんには、なにとてか乱れざるべき。「われは嗔(いか)り起さじ」と念じ侍れど、人、ゆゑなく腹立つには、また我も怒ることにこそ。しかれば、これを振り捨てて、知らぬ所にも行くべきを、心弱きの願ひは、「ここ住みよし」と思はねど、われときざせる思ひ失せやらで離れえぬに、思ひとりけむ心なれば、「何とてかは、仏の御心にも背き奉るべき」と、昔の跡を思ひやれば、ただ今も、「さる心の付けかし」と思はれて、涙、げにところせきまで侍れば、「縁起難思のかぎりならむ」と、いとど貴(たつと)く侍る。 | + | おほかた、「随心浄処即浄土摂」と説かれ侍れば、心だにも澄みなば、浄土ぞかし。しかはあれども、いづれの所も浄土にして、なじかはなれど、乱れやすき心の、澄みがたきには、悪しき境・悪しき友に会ひなんには、なにとてか乱れざるべき。「われは嗔(いか)り起さじ」と念じ侍れど、人、ゆゑなく腹立つには、また我も怒ることにこそ。 |
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+ | しかれば、これを振り捨てて、知らぬ所にも行くべきを、心弱きの願ひは、「ここ住みよし」と思はねど、われときざせる思ひ失せやらで離れえぬに、思ひとりけむ心なれば、「何とてかは、仏の御心にも背き奉るべき」と、昔の跡を思ひやれば、ただ今も、「さる心の付けかし」と思はれて、涙、げにところせきまで侍れば、「縁起難思のかぎりならむ」と、いとど貴(たつと)く侍る。 | ||
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text/senjusho/m_senjusho05-02.1465985267.txt.gz · 最終更新: 2016/06/15 19:07 by Satoshi Nakagawa