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text:senjusho:m_senjusho01-06 [2016/05/13 00:41] – 作成 Satoshi Nakagawatext:senjusho:m_senjusho01-06 [2016/05/13 00:42] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 過ぎにしころ、越後国したの上村といふかたに、まかり侍りたりしに、かの里は海のほとりにて、奥よりの津にて、貴賤集まりて、朝の市のごとし。 過ぎにしころ、越後国したの上村といふかたに、まかり侍りたりしに、かの里は海のほとりにて、奥よりの津にて、貴賤集まりて、朝の市のごとし。
  
-ただ、海の鱗(いろくづ)・山の木の実・布・絹のたぐひを売り買ふのみにあらず、人馬の族を売買せり。その中に、いとけなき、また、さかりなるは申すに及ばず、頭はしきりに霜雪をいただき、腰にはそぞろにあづさの弓を張りかがめて、今明とも知らぬ者の、「しばしのほどの命をたすけん」とて、そこばくの偽りをかまへ、人の心をたぶらかし売り買ひせる、見侍りしに、すずろ涙のこぼれて侍りき。+ただ、海の鱗(いろくづ)・山の木の実・布・絹のたぐひを売り買ふのみにあらず、人馬の族を売買せり。その中に、いとけなき、また、さかりなるは申すに及ばず、頭はしきりに霜雪をいただき、腰にはそぞろにあづさの弓を張りかがめて、今明とも知らぬ者の、「しばしのほどの命をたすけん」とて、そこばくの偽りをかまへ、人の心をたぶらかし売り買ひせるを((「を」底本なし。書諸本により補う。))、見侍りしに、すずろ涙のこぼれて侍りき。
  
 空也上人の、山かげの寂寞の扉(とぼそ)を、「もの騒がし」と悲しみて。都の四条が辻を、さこそもの騒がしきに、「これこそ、閑かなれ」とて、筵(むしろ)・薦(こも)にて庵引き廻しておはしけん昔も、あはれに思ひ出だされ侍りて、とにかくに、悲しみの涙せきかねて侍りき。 空也上人の、山かげの寂寞の扉(とぼそ)を、「もの騒がし」と悲しみて。都の四条が辻を、さこそもの騒がしきに、「これこそ、閑かなれ」とて、筵(むしろ)・薦(こも)にて庵引き廻しておはしけん昔も、あはれに思ひ出だされ侍りて、とにかくに、悲しみの涙せきかねて侍りき。
text/senjusho/m_senjusho01-06.1463067702.txt.gz · 最終更新: 2016/05/13 00:41 by Satoshi Nakagawa