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text:mogyuwaka:ndl_mogyuwaka13-14

蒙求和歌

第13第14話(194) 陶侃酒限

校訂本文

陶侃酒限

陶侃は孝子なり。母湛氏、賢明にして法訓に明らかなり。

陶侃、夢のうち、八翅生ひて天門に入ると見てけり。後に八州の都督たり。

陶侃、武昌にある時、もろもろの賢人(かしこびと)、来たり集まりて、酒を勧むるに、陶侃、三盃を飲みけり。客(かく)、おのおの強ひけり。やや久しくありていはく、「われ若くいとけなかりし昔、父の侍(はんべ)りし時、酒の失(しつ)ありき。父に誓ひし限りを過ぎて、飲むべからず」と答へて、固くいなびて止(や)みぬ。

母失せてのころ、墓に居て、一人泣きけるに、二人の客、来たりとぶらふあり。帰るを見れば、白き鶴となりて、飛び去りてけり。

陶侃、武昌の道のほとりに植ゑたる柳を、人、盗みて、家に植ゑてけり。陶侃、後(のち)に見て、「盗まれたる柳」と言ふに、主、「神なり」と驚きけり1)

  誓ひ置きし心のすゑを2)変へじとぞ亡きあとまでも思ひ定めし

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陶(タウ)偘(カン)酒(シユ)限(カム) 〃〃ハ孝子ナリ母湛(タ)氏(シ)賢明ニシテ法訓(クヰムニ)/アキラカナリ陶偘ユメノウチ八翅ヲイテ天門ニ
イルトミテケリ後ニ八州ノ都督(トトク)タリ陶偘武昌(シヤウ)ニアルトキモロモロノ
カシコ人キタリアツマリテ酒ヲススムルニ陶偘三盃ヲノミケリ客(カク)各(ヲノ)々
シヒケリヤヤヒサシクアリテイハクワレハカクイトケナカリシムカシ
父ノハムヘリシトキ酒ノ失(シツ)アリキ父ニチカヒシカキリヲスキテノムヘ
カラストコタヘテカタクイナヒテヤミヌ母ウセテノコロハカニヰテヒ
トリナキケルニ二人ノ客キタリトフラフアリカヘルヲミレハ白キ鶴(ツル)
トナリテトヒサリテケリ陶偘武昌ノミチノホトリニウヘタルヤナ
キヲ人ヌスミテ家ニウヘテケリ陶偘ノチニミテヌスマレタル
柳トイフニヌシカミナリトヲロキケリ
  チカヒヲキシ□□スヘヲカヘシトソナキアトマテモ思サタメシ/d2-36r
1)
「驚きけり」は底本「ヲロキケリ」。書陵部本により訂正。
2)
「心の」は底本虫損。書陵部本により補う。
text/mogyuwaka/ndl_mogyuwaka13-14.txt · 最終更新: 2018/03/10 13:40 by Satoshi Nakagawa