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text:mogyuwaka:ndl_mogyuwaka13-12

蒙求和歌

第13第12話(192) 劉伶解酲

校訂本文

劉伶解酲

劉伶、字(あざな)は伯倫。たけ六尺、形醜かりけり。

常に鹿車に乗りて、一壺酒と鋤(すき)を供人(ともびと)に持たせて歩(あり)く。「われ、飲み酔(ゑ)ひて死なば、いづくにも掘り埋(うづ)め」と言ひけり。

劉伶、昔、喉渇きて、酒を求めけるに、その妻(め)、しきりに泣きわびていはく、「君が酒を飲むこと、おほきに過ぎたり。生(しやう)をおさむる道にあらず。これを止(とど)むべし」と言へり。

劉伶、答へていはく、「よく言ひたり。まさに神に誓ふべし。酒肉をもうけよ」と言ひけり。妻、言ふままにに、さまざま調(ととの)へてけり。劉伶、ひざまづきていはく、「天、劉伶を生めり。酒をもて名を得たり。一度(ひとたび)一石五斗を飲みて、酲(さかやまひ)1)を解(と)く。婦人の言葉、はなはだ聞くべからず」と言ひて、劉伶、酒肉をすすめて、隈然として、また酔ひぬ。

  春風とともに酔(ゑ)ひをばすすむとも情けなかれとわれないさめそ

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劉伶解(カイ)酲(エイ)  〃〃字ハ伯(ハク)倫タケ六尺カタチミニク/カリケリツネニ鹿車ニノリテ一壺(コ/ツボ)酒ト
スキヲトモ人(ヒト)ニモタセテアリク我ノミエイテシナハイツクニモ
ホリウツメトイヒケリ
劉伶ムカシノトカハキテ酒ヲモトメケルニソノ妻(メ)シキリニナキ
ワヒテイハクキミカサケヲノムコトヲホキニスキタリ生(シヤウ)ヲオサムル
ミチニアラスコレヲトトムヘシト云ヘリ劉伶コタヘテイハクヨク
イヒタリマサニカミニチカフヘシ酒肉ヲモウケヨト云ケリメイフママニ/d2-35r
ニサマサマトトノヘテケリ劉伶ヒサマツキテイハク天劉伶ヲ
ウメリ酒ヲモテナヲエタリヒトタヒ一石五斗ヲノミテ解(トク)
酲(ナカヤマヒヲ)婦(フ)人ノコトハハナハタキクヘカラストイヒテ劉伶酒
肉ヲススメテ隈(クハイ)然トシテ又酔ヌ
      ハル風トトモニエヒヲハススムトモ
      ナサケナカレトワレナイサメソ/d2-35l
1)
底本「ナカヤマヒヲ」と読み仮名。『説文解字』等に、「病酒也。一曰醉而覺也。」とあるのにより、酒病の誤りとみて訂正。
text/mogyuwaka/ndl_mogyuwaka13-12.txt · 最終更新: 2018/03/07 17:09 by Satoshi Nakagawa