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text:mogyuwaka:ndl_mogyuwaka07-10

蒙求和歌

第7第10話(110) 長房縮地

校訂本文

長房縮地

費長房、壺公に従ひて壺に入りて後1)、長房が仙道習ひて、極むまじきことを見て、一つの竹竿を与へて、故郷へ返すに、長房、竹竿に乗りて、思へば遥かなる道なれども、地をつづめて、ほどなく帰りにけり。その竹竿を葛陂内に投げけれは、化して竜になりにけり。

後漢書にいはく、長房、壺公に仙の道を習ひて、荊(おどろ)を群虎2)のうちに踏みて、深き山に従ひ行くに、恐るる心なし。長房を伏せて、朽ちたる縄に、万斤の石をかけて、胸の上に当ててかけたるに、衆蛇、きほひ来たりて、この縄を噛むに、石の落ちむことを恐れず3)、身を動かすことなし。壺公、これをなでて、道を教ふべきことを思ひ定めつ。

次に、糞中虫三つを与ふるに、臭穢ことに甚し。長房、心に、「うとましく、汚なし」と思ひて、厭ひ捨ててけり。壺公がいはく、「なんぢ、いくばくか道を得たる。恨むらくは、心にして、極めざることを、如何」。

長房、つひに辞して帰る。壺公、一つの竹杖を与へて、「これに乗りて、行く所にまかせば、必ず故郷に至りなむ」と教ふ。また、一つの符の書きて、地上の鬼神につかさどると言へり。

  いく里のこめける竹の杖なればひとよにかへる家路なるらむ

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長房縮地
費長房壺公ニシタカヒテツホニイリテ後長房カ仙道ナ
ラヒテキハムマシキコトヲミテヒトツノ竹竿ヲアタヘテ古
郷ヘカヘスニ長房竹竿ニノリテ思ハハルカナルミチナレトモ
地ヲツツメテホトナクカヘリニケリソノ竹竿ヲ葛陂内ニ
ナケケレハ化シテ龍ニナリニケリ後漢書云長房壺公ニ
仙ノミチヲナラヒテヲトロヲ郡虎ノウチニフミテフカキ山ニ
シタカヒユクニヲソルル心ナシ長房ヲフセテクチタルナワニ
万斤ノ石ヲカケテムネノウエニアテテカケタルニ衆蛇キホ/d1-53l
ヒキタリテコノナハヲカムニ石ノヲチムコトヲヲソレヌミヲウコ
カスコトナシ壺公コレヲナテテミチヲヲシフヘキコトヲヲモヒ
サタメツツキニ糞中虫三ヲアタフルニ臭穢コトニハナハタ
シ長房ココロニウトマシクキタナシトヲモヒテイトイステテ
ケリ壺公カ云汝チイクハクカミチヲエタルウラムラクハココロ
ニシテキハメサルコトヲ如何長房ツイニ辞シテカヘル壺公
ヒトツノ竹杖ヲアタエテコレニノリテユクトコロニマカセハカ
ナラス古郷ニイタリナムトヲシフ又ヒトツノ符ノカキテ
地上ノ鬼神ニツカサトルト云リ
      イクサトノコメケルタケノツヱナレハ
      ヒトヨニカヘルイヘチナルラム/d1-54r
1)
第1第16話参照。
2)
底本「郡虎」。諸本により訂正。
3)
「恐れず」は、底本「ヲソレヌ」。書陵部本により訂正。
text/mogyuwaka/ndl_mogyuwaka07-10.txt · 最終更新: 2018/01/07 18:25 by Satoshi Nakagawa