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蒙求和歌

第6第1話(91) 王戎簡要 裴楷清通

校訂本文

王戎簡要 裴楷清通

晋の文王の時、吏部郎、闕ありて、この司に置かるべき人を鍾会に問はるるに、「王戎は簡要なり。裴楷清通なり。この二人を」と申せり。裴楷を用ゐられぬ。

武帝、位に即きて、治数の策を探りて一を得、おほやけの世を治め給ふ年の多少、この数によるがゆゑに、一を得たることを、おほやけ憂へ給へり。群臣の中にも、これを言ひ開くものなくして、おのおの色を失なへり。

時に、侍中裴楷、進みて申していはく、「臣、聞けり。天、一を得て、以て清し。地は一を得て、以て寧(しづか)なり。王侯、一を得て、以て貞(てい)なり」と申せり。この後、おほやけ、懇ろに悦び給ひて、裴楷が才智の明らかなることを、いよいよ讃め給へり。

簡要は簡略なり。要は約なり。要妙は約好の形(かたち)なり。清通は清は朗潔澄清なり。通は達なり。古今を博覧する者を通人となす。一を得ること事は孝子経にあり。王弼注に曰く、「一は数の始め、物の極まるなり。おのおの、これ一物の主たる所以なり。おのおの、その一を以って、この清寧貞を致すなり。1)

王戎、幼くて、成人の智ありき。幼人(をさなびと)あまた連れて、出でて遊ぶに、道のほとりに、李(すもも)の木あり。実を結ぶこと盛りなりければ、「われ先に」と争ひ行きて、手ごとに折り取らむとするに、王戎一人、「苦き李なるべし」と言ひて2)退けり。人、そのゆゑを問ふに、答へていはく、「この李、道のほとりにあり。甘き李ならば、道行き人、残すべからず。盛りにて、人のめでぬに3)、苦きことを知りぬ」と言へり。李、王戎が言葉のごとくに苦かりけり。

  思ひきやよそに聞き来し花の名の4)わがみの上にならむものとは

翻刻

王戎簡要 裴楷清通
晋ノ文王ノ時吏部郎闕アリテコノツカサニヲカルヘキ人ヲ鍾
会ニトハルルニ王戎ハ簡要ナリ裴楷清通ナリコノフタリヲト
申セリ裴楷ヲモチヰラレヌ武帝位ニツキテ探(サクテ)治数ノ
策ヲ得一ヲヲホヤケノヨヲヲサメ給トシノ多少コノカスニヨ/d1-45l
ルカユエニ一ヲエタルコトヲヲホヤケウレヘタマヘリ群臣ノナカニモ
コレヲイヒヒラクモノナクシテヲノヲノイロヲウシナヘリ時ニ侍中
裴楷ススミテ申テ云ク臣キケリ天得一ヲ以清(キヨシ)地ハ得テ一ヲ以寧(シツカナリ)
王侯得一ヲ以貞(テイ)也ト申セリコノ後ヲホヤケネムコロニヨロコヒ給ヒテ裴
楷カ才智ノアキラカナルコトヲイヨイヨホメタマヘリ簡要ハ簡略(リヤク)
ナリ要ハ約ナリ要妙ハ約好ノカタチ也清通ハ清ハ朗潔澄(スミ)
清也通ハ達也博覧古今ヲ者ヲ為通人得コト一ヲ事ハ孝
子経ニ有リ王弼注ニ曰ク一ハ数之始メ物之極ル也各是一物之
所以(ユエナリ)為(タル)主也各以其一ヲ致此清寧貞也王戎ヲサナクテ成人ノ智
アリキヲサナ人アマタツレテイテテアソフニミチノホトリニスモモ
ノ木アリミヲムスフコトサカリナリケレハワレサキニトアラソヒ
ユキテ手コトニヲリトラムトスルニ王戎ヒトリニカキスモモナルヘシト
□□シリソケリ人ソノユヘヲトフニコタエテ云クコノスモモミチノホ/d1-46r
トリニアリアマキスモモナラハミチユキ人ノコスヘカラスサカリ
ニテ人ノメテヌニシリヌニカキコトヲシリヌトイヘリスモモ王
戎カコトハノコトクニニカカリケリ
  ヲモヒキヤヨソニキキコシハルノナノワカミノウヘニナラムモノトハ/d1-46l
1)
底本、本文と同等に書かれているが、注釈の混入だろう。
2)
底本「言ひて」虫損。書陵部本(桂宮本)により補う。
3)
底本「人ノメデヌニ知リヌ」。「知りぬ」を衍字と見て削除。
4)
「花の名の」は底本「ハルノナノ」。文脈により訂正。
text/mogyuwaka/ndl_mogyuwaka06-01.txt · 最終更新: 2017/12/12 19:33 by Satoshi Nakagawa
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