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text:mogyuwaka:ndl_mogyuwaka05-15

蒙求和歌

第5第15話(85) 龐倹掘井

校訂本文

龐倹掘井1)

龐倹は魏都人なり。昔、世の乱れにあひて、父、行方(ゆきかた)を知らずなり果てて、母阿宏に従ひつかへて、二十年を送りけり。

龐倹、盧里に住みて井を掘るに、銅の銭、十万を掘り出でて、家、豊かになりて、奴(やつこ)を求むるに、一人の翁を語らひ得たり。

家の内に使はれて、日数(ひかず)経て後(のち)いはく、「堂上の母は、これ昔の妻たりし人なり」と言へり。母、そのゆゑを問ふに、重ねていはく、「なんぢは艾氏の女(むすめ)、字(あざな)は阿宏、左の足の下に黒子(ははくそ)あり。右の脇の下に赤誌(せきし)あり。半櫛のごとし」と言へり。母のいはく、「まことのわが夫(をとこ)なり」。すなはち、昔のごとく夫婦(めをとこ)なりぬ。

時の人のいはく、「盧里の龐公は井を鑿て銅の銭を得たり。奴を買ふて翁(てて)を得たり」。

  隔て来し昔の影を並べしはほりかねの井のあるじなりけり

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龐(マウ)倹(ケム)掘(クツ)井(セイ)
〃〃ハ魏都人也昔世ノミタレニアヒテ父ユキカタヲシラス
ナリハテテ母阿(ア)宏ニシタカヒツカヘテ廿年ヲ送ケリ龐倹
廬里ニスミテ井ヲホルニ銅ノ銭十万ヲホリイテテ家ユタカニ
ナリテ奴(ヤツコ)ヲモトムルニヒトリノヲキナヲカタラヒエタリ家ノ内ニ/d1-42l
ツカハレテヒカスヘテ後云ク堂上ノ母ハコレ昔ノ妻タリシ人也
ト云リ母ソノユエヲトフニカサネテ云ク汝ハ艾(カイ)氏(シノ)ムスメアサナハ阿宏
左リノ足ノシタニ黒子(ハハクソ)アリ右ノワキノシタニ赤誌(セキシ)アリ如シ半
櫛(クシノ)トイヘリ母ノ云クマコトノワカヲトコナリスナハチ昔シノコトクメヲ
トコナリヌ時ノ人ノ云ク廬(ロ)里(リ)ノ龐公ハ鑿井テヲ得タリ銅ノ銭ヲ買(カフテ)奴ヲ
得タリ翁(テテヲ)
  ヘタテコシ昔ノカケヲナラヘシハホリカネノ井ノアルシナリケリ/d1-43r
1)
『蒙求』は「龐倹鑿井」とする。
text/mogyuwaka/ndl_mogyuwaka05-15.txt · 最終更新: 2017/12/06 12:06 by Satoshi Nakagawa