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蒙求和歌

第5第4話(74) 楚荘絶纓

校訂本文

楚荘絶纓

楚の荘王、夜、人を集めて、酒を勧めて遊び給ふに、灯火(ともしび)の風に消えたるを、ひまを得て、御傍らなる后(きさき)の袖を引く人ありけり。后、その人の冠(かぶり)の纓を取りて、「わが袖を引く人あり。灯火をかかげて、纓無からむ人をとがめ給へ」と申すに、王、もとより人をあはれび、情け深き心にて、その科(とが)をなだめむために、人に勧むるには、「酒、人を責むるには、礼をもてす。今宵、灯火をかかげざる先に、人々、みな纓を取るべし」と仰せられければ、おのおの纓を取り奉りけり。さて、后の袖引きける人も、まぎれにけり。

心一つにこそ思ひ知りにけれ。その後、晋の軍(いくさ)、楚(そ)を囲むこと幾重(いくへ)といふ数を知らず。楚の軍の中に、ただ一人、鉾(ほこ)を上げて、抜け出でて戦ふ者あり。すなはち、晋の軍を破りつ。王、あやしび問ひ給ふに、そのかみ、后に纓を取られたりし人なりけり。身を捨てて、王の情けを思ひ知りにけるなり。

  誰としもわかぬ名残の灯火を心に消えぬ情けなりける

翻刻

楚(ソ)荘(サウ)絶(ゼツ)纓(エイ)
〃ノ〃王ヨル人ヲアツメテ酒ヲススメテアソヒ給ニトモシヒノ
風ニキエタルヲヒマヲエテ御カタハラナルキサキノソテヲヒク
人有リケリキサキソノ人ノカフリノ纓ヲトリテ我カソテヲヒク
人有リトモシヒヲカカケテ纓ナカラム人ヲトカメ給ト申ニ
王モトヨリ人ヲアハレヒナサケフカキ心ニテソノトカヲナタ/d1-36r
メムタメニ人ニススムルニハ酒人ヲセムルニハ礼ヲモテスコヨヒトモ
シヒヲカカケサルサキニ人々ミナ纓ヲトルヘシトヲホセラレケレハ
ヲノヲノ纓ヲトリテタテマツリケリサテキサキノソテヒキケル
人モマキレニケリココロヒトツニコソ思ヒシリニケレソノ後晋(シム)ノイ
クサ楚(ソ)ヲカコムコトイクヱト云カスヲシラス楚ノイクサ
ノ中ニタタヒトリホコヲアケテヌケイテテタタカウモノ有リ
スナハチ晋ノイクサヲヤフリツ王アヤシヒトヒタマフニソノカ
ミキサキニ纓ヲトラレタリシ人ナリケリミヲステテ王ノナ
サケヲ思ヒシリニケルナリ
  タレトシモワカヌナコリノトモシヒヲココロニキヘヌナサケナリケル/d1-36l
text/mogyuwaka/ndl_mogyuwaka05-04.txt · 最終更新: 2017/11/25 16:11 by Satoshi Nakagawa
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