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蒙求和歌
第4第5話(60) 鍾離委珠 霰
校訂本文
鍾離委珠 霰
後漢の鍾離意、字は子阿と云ふ。顕宗、位に即きて、召して尚書とす。
時に交趾(かうし)の守、罪に行なはれけり。その資物を、おほやけ1)、群臣にあかち賜はするに、鍾離、珠璣(しゆき)を得て、地に捨てけり。
そのゆゑを問はるるに、答へて申していはく、「孔子は盗泉2)の水に渇するを忍び、曽参は勝母の閭に車を廻らす。その名を憎むなり」と申せり。
おほやけ、これを聞きて、「賢なるかな尚書」と讃め給ひて、倉の銭四十万を賜はせて、右僕射になし給ひけり。大臣なり。
盗泉水は、「盗人(ぬすびと)の泉」と書きたり。孔子、水に飢ゑても、その水を飲み給はず。勝母閭は、「母に勝つ里」と書きたり。曽参、急ぐ道なれども、その里を避(よ)きて過ぎき。みな、その里を厭ふゆゑなり。
雲居より霰(あられ)に似たる玉の色を一人や庭に思ひ捨つべき
翻刻
鍾離委珠 霰 後漢の鍾離意あさなは子阿と云ふ顕宗位につきてめして 尚書とす時交趾(かうし)の守つみにをこなはれけりその資物を をほや□群臣にあかちたまはするに鍾離珠璣(しゆき)をえて地にすてけ/d1-30l
りそのゆえをとはるるにこたえて申云く孔子は忍(しのひ)渇於資泉 之水曽参は廻車於勝母之閭(りよに)其名をにくむなりと申せり をほやけこれをききて賢なる□な尚書とほめ給て倉の銭 卌万をたまはせて右僕射(いうほくしやに)なしたまいけり大臣なり \盗泉水はぬす人のいつみとかきたり孔子水にうえてもそのみつ をのみたまはす勝母閭は母にかつさととかきたり曽参いそ くみちなれとも其里をよきてすききみなそのさとをいとふゆへなり くもゐよりあられににたる玉の色をひとりやにはにをもひすつへき/d1-31r
text/mogyuwaka/ndl_mogyuwaka04-05.1510654590.txt.gz · 最終更新: 2017/11/14 19:16 by Satoshi Nakagawa