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text:kohon:kohon061 [2014/09/21 13:29] – [第61話 伊良縁野世恒、毘沙門の下文を給はり、鬼神田、物を与へ給ふ事] Satoshi Nakagawatext:kohon:kohon061 [2019/12/04 16:01] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 ===== 校訂本文 ===== ===== 校訂本文 =====
  
-今は昔、越前の国に伊良縁野((底本「伊曽へ野」もしくは「いそへ野」。標題「伊良縁野(いらえの)」に従う。))世恒といふ者ありけり。もとはいと不合(ふがう)にて、あやしき者にてぞ有りける。+今は昔、越前の国に伊良縁野((底本「伊曽へ野」もしくは「いそへ野」。標題「伊良縁野(いらえの)」に従う。なお、[[:text:k_konjaku:k_konjaku17-47|『今昔物語集』17ー47]]は「生江の世経」、[[text:yomeiuji:uji192|『宇治拾遺物語』192]]は伊良縁世恒となっている。))世恒といふ者ありけり。もとはいと不合(ふがう)にて、あやしき者にてぞ有りける。
  
 とりわきて、つかうまつりける毘沙門(びさもん)に、物も食はで、物の欲しかりける日、「頼み奉りたる毘沙門、助け給へ」と言ひけるほどに、「門(かど)に、いとをかしげなる女房の、『家主(いへあるじ)に物言はむ』との給へあり」と言ひければ、「誰にかあらん」とて、出でて会ひたりければ、盛りたる物を一盛り(ひともり)、「これ食ひ給へ。『物欲し』とありつるに」と、取らせたれば、喜びて取りて、持ちて入りたれば、ただ少しを食ひたるが、飽き満ちたる心地して、二・三日と物も欲しからざりければ、これを置きて、物欲しき折ごとに、少しづつ食ひてありけるほどに、月すぎて、この御物も失せにけり。 とりわきて、つかうまつりける毘沙門(びさもん)に、物も食はで、物の欲しかりける日、「頼み奉りたる毘沙門、助け給へ」と言ひけるほどに、「門(かど)に、いとをかしげなる女房の、『家主(いへあるじ)に物言はむ』との給へあり」と言ひければ、「誰にかあらん」とて、出でて会ひたりければ、盛りたる物を一盛り(ひともり)、「これ食ひ給へ。『物欲し』とありつるに」と、取らせたれば、喜びて取りて、持ちて入りたれば、ただ少しを食ひたるが、飽き満ちたる心地して、二・三日と物も欲しからざりければ、これを置きて、物欲しき折ごとに、少しづつ食ひてありけるほどに、月すぎて、この御物も失せにけり。
  
-「いかがせんずる」とて、また念じ奉りければ、また、ありしやうに人の告げければ、初めにならひて惑ひ出でて見れば、このありし女房ののたまふやう、「いかにかは、しあへんとする」とて、下文(くだしぶみ)を取らすれば、米二斗が下文なり。「これは、いづくにまかりて受け取らんずるぞ」と申せば、これより谷・峰百町を越えて、中に高き峰あり。その峰の上に立ちて『なりた』と呼ばば、物出で来なむ。会ひて受けよ」と言ひければ、そのままに行きて見ければ、まことに高き峰あり。その峰の上にて「なりた」と呼びければ、高く恐しげに答(いら)へて出で来たる物あり。+「いかがせんずる」とて、また念じ奉りければ、また、ありしやうに人の告げければ、初めにならひて惑ひ出でて見れば、このありし女房ののたまふやう、「いかにかは、しあへんとする」とて、下文(くだしぶみ)を取らす。見れば、米二斗が下文なり。「これは、いづくにまかりて受け取らんずるぞ」と申せば、これより谷・峰百町を越えて、中に高き峰あり。その峰の上に立ちて『なりた』と呼ばば、物出で来なむ。会ひて受けよ」と言ひければ、そのままに行きて見ければ、まことに高き峰あり。その峰の上にて「なりた」と呼びければ、高く恐しげに答(いら)へて出で来たる物あり。
  
 見れば、額に角生ひて、目一つ付きたる物の、赤き犢鼻褌(たうさぎ)したる物の出で来て、ひざまづきてゐたり。「これ御下文なり。この米得させよ」と言へば、「さること候ふらん」とて、下文を見て、「これは二斗と候へども、『一斗奉れ』となん候ひつる」とて、一斗をぞ取らせたりける。 見れば、額に角生ひて、目一つ付きたる物の、赤き犢鼻褌(たうさぎ)したる物の出で来て、ひざまづきてゐたり。「これ御下文なり。この米得させよ」と言へば、「さること候ふらん」とて、下文を見て、「これは二斗と候へども、『一斗奉れ』となん候ひつる」とて、一斗をぞ取らせたりける。
text/kohon/kohon061.txt · 最終更新: 2019/12/04 16:01 by Satoshi Nakagawa