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text:kohon:kohon027 [2015/01/11 14:36] – [校訂本文] Satoshi Nakagawatext:kohon:kohon027 [2016/01/21 13:11] (現在) Satoshi Nakagawa
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 ===== 校訂本文 ===== ===== 校訂本文 =====
  
-今は昔、河原院は融の左大臣の作りたりける家なり。陸奥(みちのく)の塩竃(しほがま)のかたを作りて、潮(うしほ)の水を汲みて湛たり。さまざま、をかしきことを尽くして住み給ひける。+今は昔、河原院は融の左大臣((源融))の作りたりける家なり。陸奥(みちのく)の塩竃(しほがま)のかたを作りて、潮(うしほ)の水を汲みて湛たり。さまざま、をかしきことを尽くして住み給ひける。
  
-大臣(おとど)失せて後、宇多の院には奉りたるなり。醍醐御門は御子にておはしましければ、たびたび行幸ありけり。+大臣(おとど)失せて後、宇多の院((宇多天皇))には奉りたるなり。醍醐御門((醍醐天皇))は御子にておはしましければ、たびたび行幸ありけり。
  
-まだ院の住ませ給ひけるをりに、夜中ばかりに、西の対(たい)の塗籠(ぬりこめ)を開けて、そよめきて人の参るやうに思されければ、見させ給へば、昼(ひ)の装束、うるはしくしたる人の、太刀はき、笏取りて、二間ばかり退きて、かしこまりてたり。「あれは誰そ」と、問はせ給へば、「ここの主(ぬし)に候ふ翁なり」と申す。「融(とほる)の大臣か」と問はせ給へば、「しかに候ふ」と申す。「そは何ぞ」と仰せらるれば、「家なれば住み候ふに、おはしますが、かたじけなく、所狭く候ふなり。いかがつかまつるべからん」と申せば、「それはいと異様(ことやう)のなり。故大臣の子孫の、我に取らせたれはば住むにこそあれ、我、押し取りて居たらばこそあらめ、礼も知らず、いかにかくは恨むるぞ」と、高やかに仰せられければ、かい消つやうに失せぬ。+まだ院の住ませ給ひけるをりに、夜中ばかりに、西の対(たい)の塗籠(ぬりこめ)を開けて、そよめきて人の参るやうに思されければ、見させ給へば、昼(ひ)の装束、うるはしくしたる人の、太刀はき、笏取りて、二間ばかり退きて、かしこまりてたり。「あれは誰そ」と、問はせ給へば、「ここの主(ぬし)に候ふ翁なり」と申す。「融(とほる)の大臣か」と問はせ給へば、「しかに候ふ」と申す。「そは何ぞ」と仰せらるれば、「家なれば住み候ふに、おはしますが、かたじけなく、所狭く候ふなり。いかがつかまつるべからん」と申せば、「それはいと異様(ことやう)のことなり。故大臣の子孫の、我に取らせたれはば住むにこそあれ、我、押し取りて居たらばこそあらめ、礼も知らず、いかにかくは恨むるぞ」と、高やかに仰せられければ、かい消つやうに失せぬ。
  
-そのをりの人、「なほ、御門はかたことにおはしますなり。ただ人はその大臣に会ひて、さやうにすくよかに言ひてむや」とぞひける。+そのをりの人、「なほ、御門はかたことにおはしますものなり。ただ人はその大臣に会ひて、さやうにすくよかに言ひてむや」とぞひける。
  
-かくて院失せさせ給て後、住む人も無くて荒れゆきけるを、貫之、土佐より上りて参りて見けるに、あはれにおぼえければ、ひとりごちける+かくて院失せさせ給て後、住む人も無くて荒れゆきけるを、貫之((紀貫之))、土佐より上りて参りて見けるに、あはれにえければ、ひとりごちける
  
   君なくて煙絶えにし塩竈の浦さびしくも見えわたるかな   君なくて煙絶えにし塩竈の浦さびしくも見えわたるかな
  
-その後、この院を寺になして、安法君(あほうきみ)といふ人ぞ住みける。冬の夜、月明かかりけるに、めて詠める+その後、この院を寺になして、安法君(あほうきみ)といふ人ぞ住みける。冬の夜、月明かかりけるに、ながめて詠める
  
   天の原空さへ冴えやわたるらん氷と見ゆる冬の夜の月   天の原空さへ冴えやわたるらん氷と見ゆる冬の夜の月
  
-昔の松の木の、対の西面に生ひたるを、そのころ、歌詠みども集まりて、安法君の房にて詠みける。古曽部(こそべ)の入道+昔の松の木の、対の西面に生ひたるを、そのころ、歌詠みども集まりて、安法君の房にて詠みける。古曽部(こそべ)の入道((能因法師))
  
   年経れば河原に松は生ひにけり子の日しつへき寝屋の上かな   年経れば河原に松は生ひにけり子の日しつへき寝屋の上かな
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   (里人の汲むだに今はなかるべし板井の清水水草ゐにけり)((カッコ内は傍書を採用した場合の本文。添付画像参照。))   (里人の汲むだに今はなかるべし板井の清水水草ゐにけり)((カッコ内は傍書を採用した場合の本文。添付画像参照。))
  
-道済が歌+道済((源道済))が歌
  
   行く末のしるしばかりに残るべき松さへいたくおひにけるかな   行く末のしるしばかりに残るべき松さへいたくおひにけるかな
text/kohon/kohon027.txt · 最終更新: 2016/01/21 13:11 by Satoshi Nakagawa