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text:kohon:kohon027 [2014/09/15 21:48] – [第27話 河原院の事] Satoshi Nakagawatext:kohon:kohon027 [2015/01/11 14:36] – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 大臣(おとど)失せて後、宇多の院には奉りたるなり。醍醐御門は御子にておはしましければ、たびたび行幸ありけり。 大臣(おとど)失せて後、宇多の院には奉りたるなり。醍醐御門は御子にておはしましければ、たびたび行幸ありけり。
  
-まだ院の住ませ給ひけるをりに、夜中ばかりに、西の対(たい)の塗籠(ぬりこめ)を開けて、そよめきて人の参るやうにおぼされければ、見させ給へば、昼(ひ)の装束、うるはしくしたる人の、太刀はき、笏取りて、二間ばかり退きて、かしこまりてゐたり。「あれは誰そ」と、問はせ給へば、「ここの主(ぬし)に候ふ翁なり」と申す。「融(とほる)の大臣か」と問はせ給へば、「しかに候ふ」と申す。「そは何ぞ」と仰せらるれば、「家なれば住み候ふに、おはしますが、かたじけなく、所狭く候ふなり。いかがつかまつるべからん」と申せば、「それはいと異様(ことやう)の事なり。故大臣の子孫の、我に取らせたれはば住むにこそあれ、我、押し取りてたらばこそあらめ、礼も知らず、いかにかくは恨むるぞ」と、たかやかに仰せられければ、かい消つやうに失せぬ。+まだ院の住ませ給ひけるをりに、夜中ばかりに、西の対(たい)の塗籠(ぬりこめ)を開けて、そよめきて人の参るやうにされければ、見させ給へば、昼(ひ)の装束、うるはしくしたる人の、太刀はき、笏取りて、二間ばかり退きて、かしこまりてゐたり。「あれは誰そ」と、問はせ給へば、「ここの主(ぬし)に候ふ翁なり」と申す。「融(とほる)の大臣か」と問はせ給へば、「しかに候ふ」と申す。「そは何ぞ」と仰せらるれば、「家なれば住み候ふに、おはしますが、かたじけなく、所狭く候ふなり。いかがつかまつるべからん」と申せば、「それはいと異様(ことやう)の事なり。故大臣の子孫の、我に取らせたれはば住むにこそあれ、我、押し取りてたらばこそあらめ、礼も知らず、いかにかくは恨むるぞ」と、やかに仰せられければ、かい消つやうに失せぬ。
  
 そのをりの人、「なほ、御門はかたことにおはします物なり。ただ人はその大臣に会ひて、さやうにすくよかに言ひてむや」とぞいひける。 そのをりの人、「なほ、御門はかたことにおはします物なり。ただ人はその大臣に会ひて、さやうにすくよかに言ひてむや」とぞいひける。
行 22: 行 22:
 その後、この院を寺になして、安法君(あほうきみ)といふ人ぞ住みける。冬の夜、月明かかりけるに、眺めて詠める その後、この院を寺になして、安法君(あほうきみ)といふ人ぞ住みける。冬の夜、月明かかりけるに、眺めて詠める
  
-天の原空さへ冴えやわたるらん氷と見ゆる冬の夜の月+  天の原空さへ冴えやわたるらん氷と見ゆる冬の夜の月
  
 昔の松の木の、対の西面に生ひたるを、そのころ、歌詠みども集まりて、安法君の房にて詠みける。古曽部(こそべ)の入道 昔の松の木の、対の西面に生ひたるを、そのころ、歌詠みども集まりて、安法君の房にて詠みける。古曽部(こそべ)の入道
text/kohon/kohon027.txt · 最終更新: 2016/01/21 13:11 by Satoshi Nakagawa