text:kohon:kohon026
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text:kohon:kohon026 [2016/01/21 12:21] – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | text:kohon:kohon026 [2016/01/21 12:33] – Satoshi Nakagawa | ||
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===== 校訂本文 ===== | ===== 校訂本文 ===== | ||
- | 今は昔、長能(ながたう)((藤原長能))、道済(みちなり)((源道済))といふ歌詠みども、いみじう挑み交はして詠みけり。長能は蜻蛉の日記したる人の兄人(せうと)、伝はりたる歌詠みの孫にて、いみじく挑み交はしたるに、鷹狩の歌を二人詠みけるに、長能、 | + | 今は昔、長能(ながたう)((藤原長能))、道済(みちなり)((源道済))といふ歌詠みども、いみじう挑み交はして詠みけり。長能は蜻蛉の日記したる人の兄人(せうと)、伝はりたる歌詠み、道済、信明(さねあきら)((源信明))といひし歌詠みの孫にて、いみじく挑み交はしたるに、鷹狩の歌を二人詠みけるに、長能、 |
霰降る交野(かたの)のみののかり衣濡れぬ宿貸す人しなければ | 霰降る交野(かたの)のみののかり衣濡れぬ宿貸す人しなければ | ||
行 16: | 行 16: | ||
濡れ濡れもなを狩り行かむはしたかの上毛の雪をうち払ひつつ | 濡れ濡れもなを狩り行かむはしたかの上毛の雪をうち払ひつつ | ||
- | と詠みて、おのおの「我が勝りたりと論じつつ、四条大納言((藤原公任))のもとへ二人参り判ぜさせたてまつるに、大納言のたまふ「ともによきにとりて、あられは、宿借るばかりは、いかで濡れむぞ。ここもとぞ劣りたる。歌柄はよし。道済がは、さ言はれたり。末の世にも集などにも入りなむ」と、ありければ、道済、舞ひ奏でて出でぬ。長能、物思ひ姿にて、出でにけり。さきざき、何事も長能は上手(うはて)を打ちけるに、この度は本意(ほい)なかりけりとぞ。 | + | と詠みて、おのおの「われが勝りたり」と論じつつ、四条大納言((藤原公任))のもとへ、二人参り判ぜさせ奉るに、大納言のたまふ、「ともによきにとりて、あられは、宿借るばかりは、いかで濡れむぞ。ここもとぞ劣りたる。歌柄はよし。道済がは、さ言はれたり。末の世にも集などにも入りなむ」と、ありければ、道済、舞ひ奏でて出でぬ。長能、物思ひ姿にて、出でにけり。さきざき、何事も長能は上手(うはて)を打ちけるに、この度は本意(ほい)なかりけりとぞ。 |
春を惜しみて、三月小ありけるに、長能、 | 春を惜しみて、三月小ありけるに、長能、 | ||
- | 心憂き年にもあるかな廿日あまり九日(ここぬか)といふに春の暮れぬる | + | 心憂き年にもあるかな二十日あまり九日(ここぬか)といふに春の暮れぬる |
- | と詠み上げけるを、例の大納言。「春は廿九日のみあるか」とのたまひけるを聞きて、「ゆゆしき誤ち」と思ひて、物も申さず音もせで出でにけり。さて、そのころより、例ならで重きよし聞き給ひて、大納言とぶらひにつかはしたりける返り事に、「『春は廿九日あるか』と候ひしを、『あさましきひ僻事(ひがごと)をもして候けるかな』と心憂く嘆かしく候ひしより、かかる病になりて候なり」と申て、程なく失せにけり。 | + | と詠み上げけるを、例の大納言、「春は二十九日のみあるか」とのたまひけるを聞きて、「ゆゆしき誤ち」と思ひて、物も申さず、音もせで出でにけり。 |
- | 「さばかり、心に入りたりしことを。よしなく言ひて」と、後まで大納言はいみじく嘆き給ひけり。あはれに、すきずきしかりける事どもかな。 | + | さて、そのころより、例ならで重きよし聞き給ひて、大納言とぶらひにつかはしたりける返り事に、「『春は二十九日あるか』と候ひしを、『あさましきひ僻事(ひがごと)をもして候けるかな』と、心憂く嘆かしく候ひしより、かかる病になりて候ふなり」と申して、ほどなく失せにけり。 |
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+ | 「さばかり心に入りたりしことを、よしなく言ひて」と、後まで大納言はいみじく嘆き給ひけり。 | ||
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+ | あはれに、すきずきしかりける事どもかな。 | ||
===== 翻刻 ===== | ===== 翻刻 ===== | ||
行 32: | 行 36: | ||
なかたうはかけろうの日記したるひとの | なかたうはかけろうの日記したるひとの | ||
- | せうとつたはりたる哥よみのまこにていみし | + | せうとつたはりたる哥よみみちなりさね |
+ | あきらといひし哥よみのまこにていみし | ||
くいとみかはしたるにたかかりの哥をふた | くいとみかはしたるにたかかりの哥をふた | ||
りよみけるになかたう | りよみけるになかたう |
text/kohon/kohon026.txt · 最終更新: 2021/10/07 21:40 by Satoshi Nakagawa