ユーザ用ツール

サイト用ツール


text:kohon:kohon002

差分

このページの2つのバージョン間の差分を表示します。

この比較画面へのリンク

両方とも前のリビジョン前のリビジョン
次のリビジョン両方とも次のリビジョン
text:kohon:kohon002 [2014/05/07 03:04] – [校訂本文] Satoshi Nakagawatext:kohon:kohon002 [2014/05/07 03:05] – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
行 11: 行 11:
 権大納言行成、御屏風たまはりて、書くべきよし、なし給ひければ、いよいよ立ち居待たせ給ふほどに、参り給へれば、歌詠ども、「はかばかしき((新大系、「歌」欠字かという))ともも、え詠み出でぬに、さりとも」と、誰も心にくがりけるに、御前に参り給ふや遅きと、殿の、「いかにぞ、あの歌は。遅し」と、仰せられければ、「さらにはかばかしく仕らず。悪くて奉りたらんは、参らせぬには劣りたる事なり。歌詠むともがらの優れたらん中に、はかばかしからぬ歌、書かれたらむ。長き名にさぶらふべし」と、やうにいみじくのがれ申し給へど、殿、「あるべき事にもあらず。異人の歌なくても有なむ。御歌なくは、大方色紙形を書くまじき事なり」など、まめやかに責め申させ給へば、大納言、「いみじく候ふわざかな。こたみは誰もえ詠みえぬたびに侍るめり。中にも公任をこそ、さりともと思ひ給ひつるに、『岸の柳』といふ事を詠みたれば、いと異様なる事なりかし。これらだにかく詠みそこなへば、公任はえ詠み侍らぬもことはりなれば、許したぶべきなり」とさまざまに逃がれ申し給へど、殿、あやにくに責めさせ給へば、大納言、いみじく思ひわづらひて、ふところより陸奥紙に書きて奉り給へば、広げて前に置かせ給ふに、帥どのより始めて、そこらの上達部・殿上人、心にくく思ひければ、「さりとも、この大納言、故なくは詠み給はじ」と思ひつつ、いつしか、帥殿読み上げ給へば、 権大納言行成、御屏風たまはりて、書くべきよし、なし給ひければ、いよいよ立ち居待たせ給ふほどに、参り給へれば、歌詠ども、「はかばかしき((新大系、「歌」欠字かという))ともも、え詠み出でぬに、さりとも」と、誰も心にくがりけるに、御前に参り給ふや遅きと、殿の、「いかにぞ、あの歌は。遅し」と、仰せられければ、「さらにはかばかしく仕らず。悪くて奉りたらんは、参らせぬには劣りたる事なり。歌詠むともがらの優れたらん中に、はかばかしからぬ歌、書かれたらむ。長き名にさぶらふべし」と、やうにいみじくのがれ申し給へど、殿、「あるべき事にもあらず。異人の歌なくても有なむ。御歌なくは、大方色紙形を書くまじき事なり」など、まめやかに責め申させ給へば、大納言、「いみじく候ふわざかな。こたみは誰もえ詠みえぬたびに侍るめり。中にも公任をこそ、さりともと思ひ給ひつるに、『岸の柳』といふ事を詠みたれば、いと異様なる事なりかし。これらだにかく詠みそこなへば、公任はえ詠み侍らぬもことはりなれば、許したぶべきなり」とさまざまに逃がれ申し給へど、殿、あやにくに責めさせ給へば、大納言、いみじく思ひわづらひて、ふところより陸奥紙に書きて奉り給へば、広げて前に置かせ給ふに、帥どのより始めて、そこらの上達部・殿上人、心にくく思ひければ、「さりとも、この大納言、故なくは詠み給はじ」と思ひつつ、いつしか、帥殿読み上げ給へば、
  
-    紫の雲とぞ見ゆる藤の花いかなる宿のしるしなるらん+  紫の雲とぞ見ゆる藤の花いかなる宿のしるしなるらん
  
 と読み上げ給ふを聞きてなむ、褒めののしりける。 と読み上げ給ふを聞きてなむ、褒めののしりける。
行 19: 行 19:
 白河の家におはしける頃、さるべき人々、四五人ばかりまうでて、「花の面白き、見に参りつる也」と言ひければ、大御酒など参りて詠み給ひける、 白河の家におはしける頃、さるべき人々、四五人ばかりまうでて、「花の面白き、見に参りつる也」と言ひければ、大御酒など参りて詠み給ひける、
  
-    春来てぞ人も問ひける山里は花こそ宿の主なりけれ+  春来てぞ人も問ひける山里は花こそ宿の主なりけれ
  
 人々めでて詠み合ひけれど、なずらひなるなかりけり。 人々めでて詠み合ひけれど、なずらひなるなかりけり。
text/kohon/kohon002.txt · 最終更新: 2016/01/20 14:19 by Satoshi Nakagawa