text:kara:m_kara022
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text:kara:m_kara022 [2014/12/03 01:49] – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | text:kara:m_kara022 [2014/12/03 11:05] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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昔、楚の荘王と申す人、群臣を集めて、夜もすがら遊び給ひけり。その御かたはらに、あさからず思ひ聞こえさせ給ひつる后さぶらひ給ふを、人知れず、「いかでか」と思ひ奉れる臣下ありけり。 | 昔、楚の荘王と申す人、群臣を集めて、夜もすがら遊び給ひけり。その御かたはらに、あさからず思ひ聞こえさせ給ひつる后さぶらひ給ふを、人知れず、「いかでか」と思ひ奉れる臣下ありけり。 | ||
- | 灯し火の風に消えたりけるひまに、后の御袖を取りて引きたりけるを、限りなく憤り深くや思しけん、御手をさしやりて、この男の冠(かうぶり)の纓(えい)を取りて、「かかる事なん侍り。早く火を灯して、纓無からん人をそれと知らせ給へ」と申し給ふを、主(あるじ)もとより人を憐れみ情け深くおはしければ、灯し火消えたるほどに、「これに侍る人々、おのおの纓を取りて奉るべし。その後(のち)火は灯すべし」と宣はするに、この男、涙もこぼれて嬉しく思えけり。かくて、灯し火あきらかなれど、誰も皆纓無かりければ、その人と見えざりけり。 | + | 灯火の風に消えたりけるひまに、后の御袖を取りて引きたりけるを、限りなく憤り深くや思しけん、御手をさしやりて、この男の冠(かうぶり)の纓(えい)を取りて、「かかる事なん侍り。早く火を灯して、纓無からん人をそれと知らせ給へ」と申し給ふを、主(あるじ)もとより人を憐れみ情け深くおはしければ、灯火消えたるほどに、「これに侍る人々、おのおの纓を取りて奉るべし。その後(のち)火は灯すべし」と宣はするに、この男、涙もこぼれて嬉しく思えけり。かくて、灯火あきらかなれど、誰も皆纓無かりければ、その人と見えざりけり。 |
かかれども、この人、「いかにしてか、主の情けを報ひ奉らん」と、心のうちに思へりけるに、主、敵(かたき)の国に攻められて、危うきほどにおはしけるを、この人一人、身を捨てて戦ひければ、主勝たせ給ひにけり。このことを思はずにあやしく思して、そのゆゑを尋ね問はせ給ふに、この人申していはく、「昔、后に纓を取られ奉りて、思ひやるかたなく思しし時、誰となくまぎらはし給ひしこと、我、今に忘れ侍らず」と泣く泣く申しけり。 | かかれども、この人、「いかにしてか、主の情けを報ひ奉らん」と、心のうちに思へりけるに、主、敵(かたき)の国に攻められて、危うきほどにおはしけるを、この人一人、身を捨てて戦ひければ、主勝たせ給ひにけり。このことを思はずにあやしく思して、そのゆゑを尋ね問はせ給ふに、この人申していはく、「昔、后に纓を取られ奉りて、思ひやるかたなく思しし時、誰となくまぎらはし給ひしこと、我、今に忘れ侍らず」と泣く泣く申しけり。 |
text/kara/m_kara022.1417538986.txt.gz · 最終更新: 2014/12/03 01:49 by Satoshi Nakagawa