ユーザ用ツール

サイト用ツール


text:k_konjaku:k_konjaku9-13

差分

このページの2つのバージョン間の差分を表示します。

この比較画面へのリンク

text:k_konjaku:k_konjaku9-13 [2017/01/29 13:44] – 作成 Satoshi Nakagawatext:k_konjaku:k_konjaku9-13 [2018/05/20 12:26] (現在) – [巻9第13話 □□人以父銭買取亀放河語 第十三] Satoshi Nakagawa
行 4: 行 4:
 今昔、天竺に一人の人有て、財を買はむが為に、銭五千両を子に持たしめて、隣の国に遣る。子、然れば、銭を取て行くに、大きなる河の辺を行く。 今昔、天竺に一人の人有て、財を買はむが為に、銭五千両を子に持たしめて、隣の国に遣る。子、然れば、銭を取て行くに、大きなる河の辺を行く。
  
-其の時に、船に乗て行く人有り。此の子、船の方を見れば、亀五つ、船より頸を指出でて有り。此の銭持たる人、立ち留りて、「其れは何ぞの亀ぞ」と問へば、船の人云く、「殺して為べき要の有る也」と。此の銭持たる人云く、「其の亀を我れに売り給へ。買はむと思ふ」と。船人の云く、「限り無き要有て、構て鈎(つ)得たる亀也。然れば、微妙の直也とも、売るべからず」と。銭持の人、手を摺て、強に乞ひ請て、此の持たる銭、五千両を以て、亀五つ買取て、水に放て去ぬ。+其の時に、船に乗て行く人有り。此の子、船の方を見れば、亀五つ、船より頸を指出でて有り。此の銭持たる人、立ち留りて、「其れは何ぞの亀ぞ」と問へば、船の人云く、「殺して為べき要の有る也」と。此の銭持たる人云く、「其の亀を我れに売り給へ。買はむと思ふ」と。船人の云く、「限り無き要有て、構て鈎(つ)得たる亀也。然れば、微妙の直也とも、売るべからず」と。銭持の人、手を摺て、強に乞ひ請て、此の持たる銭、五千両を以て、亀五つ買取て、水に放て去ぬ。
  
 銭持の人、心の内に思ふ様、「我が祖(おや)の、財を買はむが為に、隣の国に遣つる銭を以て、亀を買て止ぬれば、祖、何(いか)に腹立給はむずらむ」と思へども、然りとて、亦、祖の許に還り行ざるべきに非ねば、祖の家に還り行くに、途中に人値て、((底本頭注「告テノ上一本其人トアリ」))告て云く、「そこの銭を以て亀買ひ取り給ひつる人は、不意(そぞろ)に水の中にして、船打返して死ぬ」と語るを聞て、祖の家に返来て、「此の銭を以て、亀を買つる由を語らむ」と思ふ程に、祖の云ふ様、「何で、此の銭をば、返し遣(おこ)せつるぞ」と。子の答ふる様、「我れ、更に銭返し奉らず。其の銭を以て、亀を買て、然々、亀をば放(はなち)つ。然れば、此の由を申さむが為に、返り参つる也」と云へば、祖の云ふ様、「此に黒き衣着たる、同様なる人、五人、各銭千両を持て来て、『此(ここ)の銭也』とてなむ得しめつる。湿(ぬ)れてなむ有つる」と云ふに、早ふ、買て放つる亀五が、其の銭の水に落入るを見て、各千両を取て、祖の家に、未だ返らざる前に、銭を持行て与ふる也けり。 銭持の人、心の内に思ふ様、「我が祖(おや)の、財を買はむが為に、隣の国に遣つる銭を以て、亀を買て止ぬれば、祖、何(いか)に腹立給はむずらむ」と思へども、然りとて、亦、祖の許に還り行ざるべきに非ねば、祖の家に還り行くに、途中に人値て、((底本頭注「告テノ上一本其人トアリ」))告て云く、「そこの銭を以て亀買ひ取り給ひつる人は、不意(そぞろ)に水の中にして、船打返して死ぬ」と語るを聞て、祖の家に返来て、「此の銭を以て、亀を買つる由を語らむ」と思ふ程に、祖の云ふ様、「何で、此の銭をば、返し遣(おこ)せつるぞ」と。子の答ふる様、「我れ、更に銭返し奉らず。其の銭を以て、亀を買て、然々、亀をば放(はなち)つ。然れば、此の由を申さむが為に、返り参つる也」と云へば、祖の云ふ様、「此に黒き衣着たる、同様なる人、五人、各銭千両を持て来て、『此(ここ)の銭也』とてなむ得しめつる。湿(ぬ)れてなむ有つる」と云ふに、早ふ、買て放つる亀五が、其の銭の水に落入るを見て、各千両を取て、祖の家に、未だ返らざる前に、銭を持行て与ふる也けり。
text/k_konjaku/k_konjaku9-13.txt · 最終更新: 2018/05/20 12:26 by Satoshi Nakagawa