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text:k_konjaku:k_konjaku6-10
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text:k_konjaku:k_konjaku6-10 [2016/10/13 21:30] (現在) – 作成 Satoshi Nakagawa
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 +今昔物語集
 +====== 巻6第10話 仏陀波利尊勝真言渡震旦語 第十 ======
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 +今昔、北天竺の罽賓国に、仏陀波利と云ふ聖人有けり。唐には、其の名を覚護と云ふ。心発して道を求む。
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 +而るに、「文殊、清涼山((五台山))に在ます」と、遥に伝へ聞て、輙く趣くべき道に非ずと云へども、流沙を渡て、震旦に至れり。清涼山に詣でて、礼拝恭敬して、「文殊の実の形を見奉らむ」と願ふ。
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 +其の時に、山の中より、一人の老翁出来て、仏陀波利に語て云く、「法師、彼の国より、仏頂尊勝陀羅尼を持来れりや否や。此の土の衆生は、多く諸の罪を造る。出家せる輩も亦、犯す所多し。仏頂尊勝真言は諸の罪を除く秘法也。法師、若し彼の経を持たずして来れらば、何の益か有らむ。縦ひ、文殊を見奉ると云ふとも、((以下、底本、「此の土に流布すべしと。仏陀波利、此の言を」と続くが、衍字。))何ぞ善く悟る事を得むや。法師、速に西国に還て、彼の経を取て、還来て、此の土に流布すべし」と。
 +
 +仏陀波利、此の言を聞畢て、喜て、「尊勝真言を持奉らざる由((底本頭注、「不持奉ザル由一本可持奉来由」ニ作ル」))を答へむ」と思ふ程に、老翁、掻消つ様に失ぬ。
 +
 +仏陀波利、驚き怖て、忽に本国に還りぬ。彼の経を取て、其の道遠くして堪へ難しと云へども、本意を遂げむが為に、遂に亦震旦に還り来て、五臺山((清涼山))に入ぬ。其の後、出る事無し。
 +
 +然れば、其の有様を語り伝ふる人無し。尊勝真言の震旦に渡り始むる、此れ也となむ、語り伝へたるとや。
  
text/k_konjaku/k_konjaku6-10.txt · 最終更新: 2016/10/13 21:30 by Satoshi Nakagawa