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text:k_konjaku:k_konjaku3-26
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text:k_konjaku:k_konjaku3-26 [2016/07/16 12:57] (現在) – 作成 Satoshi Nakagawa
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 +今昔物語集
 +====== 巻3第26話 仏以迦旃延遣罽賓国語 第(廿六) ======
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 +今昔、天竺に、仏((釈迦))、衆生を教化せむが為に、舎利弗・目連・迦葉・阿難等の御弟子五百人を、各諸国に分て遣すに、迦旃延は罽賓国に当れり。
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 +其の時に、迦旃延の云く、「彼の国は、既に神国にして、未だ曾て仏法の名字を見聞せず。只、昼夜に常に畋狩・漁捕を以て所作とする国也。何(いかで)か教化せむ」と。仏の宣はく、「速に尚行くべし」と。
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 +迦旃延、仏の勅に依て、其の国に行至て思はく、「悪き樹は本を切つれば、枝葉は指さず。かかれば、我れ、先づ国王の許に行て、其れを教化せむ」と思て、王宮に至ぬ。
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 +国王、狩の為に出立つ時也。数千万騎を相具せり。迦旃延、錫杖を肩に荷ひ、衣鉢を臂に懸て、其の前に至て立てり。諸の人、此れを見て云く、「未だ曾て見ざる形ちなる者、爰に出来れり。此れ何人ぞ」と、驚き怪むで、大王に申す。王の云く、「只速に殺すべし」と。此れに依て、忽に頸を取らむと為る時に、迦旃延の云く、「暫く待て。我れ、大王に申すべき事有り」と云て、王の前に進み出ぬ。王の云く、「汝は此れ何人ぞ。未だ見知らざる形也。汝が来れる、極て愚也」と。迦旃延、答て云く、「大王は、極て美(うるはし)く在して、我れは、極て弊(いや)し。我れ、大王の御狩の前に立て行む」と。大王、此れを興じて、共に具して、王宮に返ぬ。
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 +「此れに、先づ美食を備て食はしめよ」と云て、食物を与ふ。迦旃延、吉く食を受つ。大王、「美也や」と問ふに、迦旃延、「美也」と答ふ。又、悪しき食物を与へて、「此れは又何ぞ」と問へば、「此れも亦美也」と答ふ。大王、「美なる飲食をも、悪しき飲食をも、皆『美也』と云は何に」と問へば、迦旃延、答て云く、「法師の口は竃の如し。美なるも、悪きも、腹に入ぬれば、只皆同じ心也」と。大王、此れを聞て、哀ぶ事限無し。
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 +迦旃延の云く、「我れ、九十日、女人の請を得たり。行て法を説き聞かしめむ」と云て去ぬ。女人の許に行て居ぬ。女人、頭の髪を抜て、売て、供養す。
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 +九十日畢て、又国王の宮に参れり。王、問て云く、「汝ぢ、日来見えず。何(いづ)こに有つるぞ。又食物は何(いか)にぞ」と。迦旃延、答て云く、「我れ、九十日の間、女人の為に法を説て聞かしめつ。女人、頭の髪を抜て、売て、我に食はしめつ」と。
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 +其の時に、大王の云く、「我れ、其の女を見(みん)」と云て、即ち使を遣して召すに、女人、参らず。使の云く、「彼の女人は、光を放て居たり。端正美麗なる事並び無し」と。其の時に、大王、忽に花の輿(こし)を造て、千乗万騎を相具して、女人を迎へむが為に遣ぬ。女人、花の輿に乗て、光を放て、王宮に来れり。
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 +大王、此れを見るに、本の五百人の后は蛍の如し。女人は日月の如し。然れば、忽に后として寵愛する事並びなし。昼夜朝暮に此の后を傅(かしづ)く。后、大王に語て云く、「我れを寵愛し給はば、先づ大王より始め、国の内の人民、専に仏法を信ずべし」と。大王、后の教へに随て、始て仏法を信ず。及び、国内の人民、皆仏法に随ひぬ。
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 +此れ、迦旃延の説法の力に依て、女人、忽に光を放つ身と成りて、后として寵愛せらる。此に依て、其の国に始て仏法を弘む。此れ偏に迦旃延の力也となむ、語り伝へたるとや。
  
text/k_konjaku/k_konjaku3-26.txt · 最終更新: 2016/07/16 12:57 by Satoshi Nakagawa