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text:k_konjaku:k_konjaku10-19

今昔物語集

巻10第19話 不信蘇規破鏡与妻遠行語 第十九

今昔、震旦の□□代に、蘇規と云ふ人有けり。

此の人、国王の使として、遥に遠き州へ行けるに、蘇規、妻に語て云く、「我れ、国王の使として、遠き州へ行く。汝と相見ずして久くあるべし。然れば、我れ、他の女に娶(とつぐ)べからず。汝、亦、他の男に近付くべからず。此れに依て、一の鏡を二に破て、半は汝に預む。半は我れ持て行む。若し、我れ、他の女に娶ば、我が半の鏡、必ず飛び来て、汝が鏡に合ふべし。亦若し、汝ぢ、他の男に娶ば、亦、汝が持たる半の鏡、飛び来て、我が半の鏡に合ふべし」と契るに、妻、喜て、半の鏡を持て、箱の内に納めて置きつ。亦、蘇規も此の半の鏡を取て、身を放つ事無くして、家を出でて、彼の州へ行ぬ。

其の後、程を経て、妻、家に有て、他の男に娶にけり。蘇規、其の事を知らずして、外の州に有る間、妻の半の鏡、忽に飛び来て、蘇規が半の鏡に合ふ事、沙の如し。然れば、蘇規、「我が妻、忽に約を誤て、他の男に娶にけり」と云ふ事を知て、契を違たる事を恨けり。

然れば、実の心を至す時には、心無き物そら、此の如くぞ有けるとなむ、語り伝へたるとや。

text/k_konjaku/k_konjaku10-19.txt · 最終更新: 2017/04/01 23:44 by Satoshi Nakagawa